異世界立志伝

小狐丸

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忍び寄る悪意

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 サーメイヤ王国のバージェス王は賢王として民の尊敬を集め、国に繁栄をもたらしていた。
 二人の優秀な王子と美しい姫に恵まれ、この国の未来は明るいと国民は喜んでいた。

 彼の右腕として辣腕を振るう宰相メルコム・フォン・ビスコント・グリドールも王を助け国の運営を行っていた。

 そして常に王の側にあって、その身を守るサーメイヤ王国騎士団団長、ランクス・リッター・フレイバード。

 そして国境を守る王国の盾、ゴドウィン・フォン・マークグレイブ・バスタークの四人が有る限り、サーメイヤ王国の将来は明るいと皆が思っていた。

 だが、王が優秀であればある程、宰相が切れ者であればある程、その陰に嫉妬や妬みは積もっていく。




 バージェス王には、三つ年下のモーティスという弟がいた。
 同じ父と母を持つ実の兄弟だったが、モーティスは常に優秀な兄に嫉妬して成長してきた。

 バージェス王には二人の王子が居るため、自分が王位に着く可能性は低いだろう。
 国民からの人気も兄の足元にも及ばない。

 だがモーティスも普通に暮らしていれば、平穏な一生を送れただろう。

 だが王都に巣食う有象無象にとって、モーティスは丁度いい神輿だった。
 そこにゴンドワナ帝国やローラシア王国の思惑が絡んでいく。
 ゴンドワナ帝国やローラシア王国にとって、賢王であるバージェス王よりも、モーティスが王となった方が都合が良いのは、誰が考えても分かる事だから。



「オース伯爵、何時になったら俺は王になれるのだ!」

 バージェス王の醸し出す武人の雰囲気とは全く逆の、だらしなく肥えて動かし辛そうな身体を揺らして、似たような体型のオース伯爵に問い詰める。

「モーティス様、今しばらくお待ちください。ここで焦っては事を仕損じます」

「それで、国内の貴族はどれ位俺に着く?」

「法衣貴族の四割、領地持ちの貴族の三割程かと予想しています」

 それを聞いてモーティスが不機嫌になる。

「少なくないか?それで大丈夫なのか?」

「グフッフッフ、モーティス様、邪魔な貴族家は無くなった方が、色々とやりやすいではないですか。
 大丈夫ですよ、全てはこのオースにお任せ下さい」

(グフッフッ、これでエルレインも

 オースは腹の中でほくそ笑む。オースにとって、王がバージェスでもモーティスでもどちらでも構わない。
 いかに自分に利益があるのか、それだけが重要だった。その首がゴンドワナ帝国やローラシア王国とすげ変わっても…………。





 ゴンドワナ帝国の帝都で、ザール将軍は皇帝サダムートと宰相のムスカと会っていた。

「それでザールよ、サーメイヤへの工作はどうなっている?」

 皇帝サダムートがザール将軍に報告を求める。

「陛下、サーメイヤ王国の王弟、モーティスに対しての工作は順調です。
 サーメイヤ王国内の貴族への調略も進めています」

 ザールが狡猾そうな顔でニヤリとする。

「それでバスターク辺境伯へはどう対応するのだ」

「我が帝国とバスターク辺境伯領は、接している部分が多いですが、気付かれる事なく通り過ぎる場所が無い訳ではありません。そこを工作部隊で通り抜け、王都へ侵入する予定です。
 ルートにある領地貴族と、王都の法衣貴族を買収していますので、王都への侵入経路は確保しています」

「王位を簒奪して、王弟を王につけるのですか?」

 宰相のムスカが皇帝サダムートに聞く。

「あゝ、直接我等が支配に動くと、バスターク辺境伯と……、例の厄災が暴れかねん」

 サダムートの口から出た厄災と言うワードで、その場の空気が凍りつく。

 ザール将軍はそのサダムートの考えを聞いて、腹の中で笑う。

(王位を簒奪して王弟が、すんなり王位につける訳ないじゃないですか。確実にバスターク辺境伯とドラーク子爵は反発するに決まっています。
 しかも我々の関与が分からないとでも思っているのですかね~。
 まぁ、私はこの大陸が戦火に包まれるのは、望むところではありますがねぇ)

「ザールよ、協力者と計って計画を進めよ」

「はっ!かしこまりました」

 ザール将軍が退出して行く。

 この大陸に戦火が広がることを望みながら。

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