87 / 163
モーティス逃亡
しおりを挟む
一台の豪華な馬車が王都を脱出し、南西へと走っていた。
「クソッ!何故だ!」
太った体に華美な服装を身に纏った男が、馬車の中で唾を飛ばして喚いている。
男はサーメイヤ王国の王弟、モーティス。
王位を望み、ゴンドワナ帝国からの工作員を王都に引き入れ、王城への侵入を助け、バージェス王を弑虐しようとした。ここまでは間違ってなかった筈だ。
モーティスの王位継承権は第三位、バージェス王を殺害すると同時に、第一王子と第二王子も殺害する必要があった。
モーティスは、この計画が失敗する事など考えもしなかった。誰にも気付かれずに、80人以上の工作員が王城で侵入したのだ。王城に張り巡らされた、魔法を阻害する結界を解除もした。計画は完璧だった筈なのに、モーティスは筈かな部下と護衛を連れて王都を脱出するハメになっている。
「どうしてドラーク子爵が王城へ現れる!」
後宮へ避難した王子達を殺害しようと殺到する工作員は、突然現れたドラーク子爵達に制圧された。
儂はどこで間違った。
工作員を王城へ引き入れた事や、結界を解除した事は、調べれば直ぐに儂の所為だとバレるだろう。
まさか、いきなりドラーク子爵が転移してくるとは。いや、それ以前に転移などという伝説級の魔法をあの男が使えるとは、計算違いにも程がある。
儂と同じく、この計画に参加していたオース伯爵も今頃王都から逃げ出しているであろう。
兄のバージェスとその子供達が殺された時に、儂が王城近くに居ては、儂を疑う貴族達がいるだろうと、屋敷で首尾よく計画が成功したと言う報告を待っていた。そこにもたらされた失敗の報告に、すぐさま王都を脱出する事を決めて、持てるだけの金や貴金属を掻き集めて王都を出た。
もたらされた報告は、最悪の結果だった。全て失敗に終わったのなら、シラを切る事も考えたが、兄だけの殺害に成功したというのは、一番不味い。儂が関与しようが、関与しまいが、儂のとこを処罰しようとするだろう。
兄のバージェスが死んでも、王子達が生きていては、儂に王位が巡って来る事はない。奴ら全員を殺さなければ意味はないのじゃ。
「モーティス様、私達はどうなるのでしょう」
モーティス公爵家の従士長が不安気に聞いて来るが、それを儂が答えれるワケがない。儂自身がこの先どうなるかわからんのだから。
「取り敢えずゴンドワナ帝国のザール将軍に庇護を求める。皇帝陛下に兵を貸してもらえるように口添えして貰おう」
サーメイヤ王国内にも儂の計画に乗った貴族達が数家あった。奴等はこのままでは、没落するのは目に見えている。
良くて御家取り潰しの上国外追放。
関わり合いが強い貴族は、間違いなく御家取り潰しの上処刑だろうから、奴等には後がないのだ。
ゴンドワナ帝国の兵力に、儂に味方するサーメイヤ王国内の領地貴族が手を組めば、まだ儂にもチャンスがある。
「……このままでは終わらんぞ」
俺がバージェス王のもとに駆けつけた時には、すでにバージェス王の脈はなかった。
怪我人をコレットに任せて、俺はイリアと残敵の掃討にうつる。
「イリア、通信の魔導具でフーガに連絡をとってくれ」
「国内の協力者を洗い出すのですね」
「あゝ、ここまでの人数を王城へ招き入れる事が出来る人物は限られて来る。あわせて国内の貴族家の中にも協力者がいるだろうから、それを徹底的に調べるように指示を出しておいてくれ」
俺はイリアにそれだけ言うと、王城内を探索していく。
後宮へ襲いかかって来た賊達と、バージェス王を襲った賊達で、ほぼ全員だと思うけど、生存者の確認と、怪我人の治療を兼ねて王城をくまなく探索する。
宰相のメルコム卿もすぐさま王城へ駆けつけて、バージェス王の死を悲しんだが、直ぐに第一王子のクレモン様への王位継承に動き出した。
王城内がやっと落ち着きを取り戻した頃、俺は事態の報告をする必要があった。
「はぁ、気が思いな」
「……そうですね、王妃様や王子様達に報告しなければいけませんものね」
イリアも人の親として、子供達に親が殺された事を報告しなければいけない事のつらさがわかるのだろう。
「エルにバスターク辺境伯に連絡して貰わないとな。
行こうかイリア……」
「……はい」
愛らしいクララ王女の顔が浮かび、俺の足はとても重かった。
「クソッ!何故だ!」
太った体に華美な服装を身に纏った男が、馬車の中で唾を飛ばして喚いている。
男はサーメイヤ王国の王弟、モーティス。
王位を望み、ゴンドワナ帝国からの工作員を王都に引き入れ、王城への侵入を助け、バージェス王を弑虐しようとした。ここまでは間違ってなかった筈だ。
モーティスの王位継承権は第三位、バージェス王を殺害すると同時に、第一王子と第二王子も殺害する必要があった。
モーティスは、この計画が失敗する事など考えもしなかった。誰にも気付かれずに、80人以上の工作員が王城で侵入したのだ。王城に張り巡らされた、魔法を阻害する結界を解除もした。計画は完璧だった筈なのに、モーティスは筈かな部下と護衛を連れて王都を脱出するハメになっている。
「どうしてドラーク子爵が王城へ現れる!」
後宮へ避難した王子達を殺害しようと殺到する工作員は、突然現れたドラーク子爵達に制圧された。
儂はどこで間違った。
工作員を王城へ引き入れた事や、結界を解除した事は、調べれば直ぐに儂の所為だとバレるだろう。
まさか、いきなりドラーク子爵が転移してくるとは。いや、それ以前に転移などという伝説級の魔法をあの男が使えるとは、計算違いにも程がある。
儂と同じく、この計画に参加していたオース伯爵も今頃王都から逃げ出しているであろう。
兄のバージェスとその子供達が殺された時に、儂が王城近くに居ては、儂を疑う貴族達がいるだろうと、屋敷で首尾よく計画が成功したと言う報告を待っていた。そこにもたらされた失敗の報告に、すぐさま王都を脱出する事を決めて、持てるだけの金や貴金属を掻き集めて王都を出た。
もたらされた報告は、最悪の結果だった。全て失敗に終わったのなら、シラを切る事も考えたが、兄だけの殺害に成功したというのは、一番不味い。儂が関与しようが、関与しまいが、儂のとこを処罰しようとするだろう。
兄のバージェスが死んでも、王子達が生きていては、儂に王位が巡って来る事はない。奴ら全員を殺さなければ意味はないのじゃ。
「モーティス様、私達はどうなるのでしょう」
モーティス公爵家の従士長が不安気に聞いて来るが、それを儂が答えれるワケがない。儂自身がこの先どうなるかわからんのだから。
「取り敢えずゴンドワナ帝国のザール将軍に庇護を求める。皇帝陛下に兵を貸してもらえるように口添えして貰おう」
サーメイヤ王国内にも儂の計画に乗った貴族達が数家あった。奴等はこのままでは、没落するのは目に見えている。
良くて御家取り潰しの上国外追放。
関わり合いが強い貴族は、間違いなく御家取り潰しの上処刑だろうから、奴等には後がないのだ。
ゴンドワナ帝国の兵力に、儂に味方するサーメイヤ王国内の領地貴族が手を組めば、まだ儂にもチャンスがある。
「……このままでは終わらんぞ」
俺がバージェス王のもとに駆けつけた時には、すでにバージェス王の脈はなかった。
怪我人をコレットに任せて、俺はイリアと残敵の掃討にうつる。
「イリア、通信の魔導具でフーガに連絡をとってくれ」
「国内の協力者を洗い出すのですね」
「あゝ、ここまでの人数を王城へ招き入れる事が出来る人物は限られて来る。あわせて国内の貴族家の中にも協力者がいるだろうから、それを徹底的に調べるように指示を出しておいてくれ」
俺はイリアにそれだけ言うと、王城内を探索していく。
後宮へ襲いかかって来た賊達と、バージェス王を襲った賊達で、ほぼ全員だと思うけど、生存者の確認と、怪我人の治療を兼ねて王城をくまなく探索する。
宰相のメルコム卿もすぐさま王城へ駆けつけて、バージェス王の死を悲しんだが、直ぐに第一王子のクレモン様への王位継承に動き出した。
王城内がやっと落ち着きを取り戻した頃、俺は事態の報告をする必要があった。
「はぁ、気が思いな」
「……そうですね、王妃様や王子様達に報告しなければいけませんものね」
イリアも人の親として、子供達に親が殺された事を報告しなければいけない事のつらさがわかるのだろう。
「エルにバスターク辺境伯に連絡して貰わないとな。
行こうかイリア……」
「……はい」
愛らしいクララ王女の顔が浮かび、俺の足はとても重かった。
66
あなたにおすすめの小説
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ
凜
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます!
貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。
前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?
無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです
竹桜
ファンタジー
無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。
だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。
その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!
椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。
しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。
身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。
そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!
高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません
下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。
横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。
偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。
すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。
兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。
この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。
しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる