異世界立志伝

小狐丸

文字の大きさ
100 / 163

魔族の大陸

しおりを挟む
 サーメイヤ王国やゴンドワナ帝国がある大陸から、海を越えて遥か南にある大陸には、人族や獣人族とは違う種族が暮らしていた。

 魔法の適性が高く、身体能力も比較的高いこの種族を魔族と呼んだ。

 魔族の住む大陸にも幾つかの国があり、その国の王は魔王と呼ばれていた。

 魔族が魔物を操り他種族を襲う様な事もなく、魔物は全種族共通の脅威だった。
 ようするに、魔族も他の種族と変わらない一つの種族と言う事だ。
 人族同士で争いがある様に、魔族にもそれは当てはまる。魔族同士での戦争や、外の大陸への進出を考える国があっても可笑しな事ではない。

 ただ、魔族も魔物に襲われる事なく海を渡る術を持たなかった為、大規模な侵攻は行われなかった。

 そこで、魔族の中でも翼を持つ種族が、時折偵察に訪れる程度だった。

 そして二人の蝙蝠の羽を持つ魔族が、ある海岸に辿り着いた。

「……これは、ここは未開地だったのではないのか……」

 以前偵察に来た時、ここは強力な魔物が跋扈する魔物の領域に囲まれた未開地だった筈だ。魔族もこの地を囲む魔物の領域に棲む魔物が、手に負えない為に、この地からの侵攻を断念した経緯がある。

 その場所に街や村が出来ていた。

 魔族は他種族よりも優れていると自負している。
 エルフ程ではないが、寿命も永く、獣人族程ではないが身体能力も高いのだから、そう思うのも仕方のない事かもしれない。
 ただ、魔族はエルフと同じで出生率が低く人口は多くない。だが、少数精鋭で他種族には負けないと思っていたのだ。

 彼等が偵察した海沿いの村や街には人族と獣人族やエルフ、ドワーフ、ホビットが混在していた。この国は比較的種族に寛容だという情報はあったが、ここまで様々な種族が混在して暮らしているのを確認したのは初めてだった。

 しかも街や村の守備隊が確認出来たのだが、魔力に長けた魔族には、相手の魔力からある程度の実力を測る事が出来るのだが、こんな村や街の守備隊に属している兵士の実力が、魔族の大陸でも遜色のないレベルだという事に戸惑いをみせていた。

「どう思う?」

「……こんな場所の兵士が主力なわけないと思うが、大きな街の兵士の実力を調べる必要があるな」

 そう言って二人の魔族は、認識阻害の魔法を自身にかけ、大きな街の調査を決める。



 領都近くの森に潜み、街を遠くから監視していた魔族は、驚きの光景を目にする。

「……なんだアレは…………」

「…………」

 魔族の目に映ったのは、巨大な虎に乗った獣人族の幼女と、護衛だろうか?熊の獣人族が側にいる。

「幼い見た目は見せ掛けか?」

「いや、獣人族の子供には間違いない」

「獣人族の子供が乗っているモノも異常だが、あの子供に我等は勝てるか?」

「護衛らしき熊人族の男の実力など、魔王様クラスに見えるぞ」

「!!」

 その時、幼女に近付く一人の人族の青年に気付く。次の瞬間、魔族の二人の身体がガタガタと震えだす。

「こっ、ここは何なんだ。
 あの男、魔王様よりも遥かに強い。
 今まで、魔王様の事はバケモノの様に強いと思っていたが、……奴は本当に人間なのか」

「一刻も早くこの情報を持ち帰らなければ」

 二人の魔族はその場を逃げる様に離れる。





「なぁボーデン、今の帝国かなぁ」

「……さぁ?」

 認識阻害系の魔法を使って、こちらを監視していた視線を捉えていたけど、実力的にどこかの間者だろうけど……。

「パパー、帰ろうー」

 おおそうだ、ルキナを迎えに来てたんだった。

「あゝ帰ってお風呂にしようか」

「うん!パパと一緒に入るのー!」

 フーガに跨るルキナの横を歩き屋敷に戻る。






 疲労でボロボロになりながら、二人の魔族が偵察から戻った。

 そこで伝えられた報告により、北の大陸への侵攻作戦が無期限で凍結される事になる。

 魔族が不幸だったのは、よりにもよってドラーク子爵領を偵察に来てしまった事。そしてルキナやボーデンを見てしまった事。極め付けは、カイトという規格外を知ってしまった事で、北大陸の兵士の正確な実力が測る事が出来ないようになってしまった。
 さすがの魔王も、自身よりも遥かに強い者など、俄かに信じられなかったが、偵察に出ていた二人は、魔王も信頼する諜報部隊の精鋭。二人が嘘をついても何のメリットもない事から、暫くは定期的に偵察する事が決まった。

 ゴンドワナ帝国とローラシア王国にとっては、幸運だっただろう。帝国には現状、魔族まで相手にする体力はないのだから。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

処理中です...