異世界立志伝

小狐丸

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ローラシア王国の野望

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 ゴンドワナ帝国がサーメイヤ王国へ侵攻し、撃退され逆に領地を失う結果になった戦争は、帝国に大打撃を与えただけでなく、ローラシア王国が野心を刺激する結果となった。


 ゴンドワナ帝国軍へ馬上からバルバートを振り回し蹴散らして行く、豪華なフルプレートに身を包んだ大柄の騎士。

 将軍という立場にありながら、最前線を駆ける戦鬼と呼ばれた男、ガルフレアが帝国軍の前線を切り裂く。
 しかし帝国軍も崩れそうで崩れず、巧みに引いては逆に横合いから伏兵が襲いかかる。高度に統率された帝国軍は、絶妙なダメージコントロールを行いながら、戦線は膠着状態におちいる。

「チッ、一旦引くぞ!!」

 一人帝国軍を蹴散らしていたガルフレアも、さすがに単騎で膠着状態に陥った戦線を打破するだけの武は持ち合わせていなかった。
 ガルフレアが殿を勤め、突撃部隊を一旦退却させる。

「さすがは帝国の毒蛇ってところか」

 お互いに軍を引き、本陣に戻って来たガルフレアが吐き捨てるように言う。
 全体的にはローラシア王国軍が押し気味だが、ゴンドワナ帝国軍も簡単に崩れそうにない。その戦線を維持しているのが帝国の毒蛇と呼ばれる将軍ザールだった。
 ザールはサーメイヤ王国との停戦条約が結ばれると、サーメイヤ王国国境側に配置した兵士をローラシア王国国境側に集めた。
 サーメイヤ王国がバージェス王亡き後、クレモン第一王子が後を継ぎ、サーメイヤ国内をまとめる為に、停戦協定を破ってまで国外に討って出るとは考えていなかった。もともとサーメイヤ王国という国は、積極的に他国を侵略する国ではない。自国の民や土地を守るために戦うのを厭わないが、ゴンドワナ帝国やローラシア王国のように、大陸統一の野心もない国だ。当然、サーメイヤ王国国内には好戦派の貴族も一定数存在するが、王家や有力貴族のバスターク辺境伯などが穏健派な事もあり、ザールは兵士の配置を変える事に不安はなかった。お陰で兵数では帝国軍が優っている。

 結果的に、多少帝国内に押し込まれはしたが、ローラシア王国軍を抑えることが出来ていた。



「脳筋のガルフレアが相手だと、防衛するには問題ないですね」

 ザールが敵本陣を見ながら呟いた。

「将軍、ザール将軍なら、サーメイヤ王国侵攻戦で勝てたのではないですか?」

 ザールの側近が、サーメイヤ王国侵攻戦の大敗を持ち出して聞いて来た。

「バカ言ってはいけませんよ。
 バスターク辺境伯への牽制の為の戦さでも、良いところ互角でしょう。あそこは次男が率いる部隊が急速に力をつけていますからね。
 本隊が相対したドラーク子爵軍を相手にするには、足りないものが多過ぎます。個の力、数の力、装備から指揮官の質、勝てる要素がありません。だから私は手駒を減らさない為に、帝都でお留守番をしていたのですから」




 ローラシア王国国王エドワード・ヴァン・ローラシアは、ゴンドワナ帝国侵攻戦線が膠着状態におちいると、その苛立ちを周りの人間にぶつけた。

「クソッ、戦鬼ガルフレアが居て、なんたるていたらく!」

「陛下、相手は毒蛇将軍ザールとの事、一筋縄ではいきません」

「一旦兵を引き上げなければ戦費がもちません」

 側近の声も聞こえているのか、額に筋を浮かべ顔を赤くして小刻みに震えている。

 ローラシア王国とゴンドワナ帝国は、潜在的敵国ではあるが、これまで明確に敵対していた訳ではなかった。同じ人族至上主義の国で、サーメイヤ王国という共通の侵略目標があったからだが、ゴンドワナ帝国がサーメイヤ王国に大敗し、チラーノス辺境伯の領地が半減するという事態に、好機と攻め込んでみたはいいが、想定以上に帝国がしぶとく、兵糧や戦費に余裕がある訳ではない現状、違う手を考えねばならなかった。

「……一旦兵を引け。
 搦め手を含めて策を練り直す」

「「はっ、かしこまりました」」



 ローラシア王国による帝国侵攻は、大きな成果を出す事なく、一旦の決着をみる。
 戦果だけを見ればローラシア王国の勝利と言えなくはないが、撤退するローラシア王国軍の中に、勝利を喜ぶ兵士はいなかった。

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