異世界立志伝

小狐丸

文字の大きさ
98 / 163

発展するドラーク領

しおりを挟む
 かつてゴンドワナ帝国とドラーク子爵領を隔てていた大河に橋が架けられた。これによるドラーク領は大きく飛躍する事になる。
 旧チラーノス辺境伯領だった土地と、ドラーク子爵領が直接橋で繋がった事により、商人の移動が活発化し経済が活性化する。

 移民や流民の流入による治安悪化も懸念されたが、ランカス達の頑張りのおかげで大きな混乱もなく、ドラーク子爵領の未開地開拓も急ピッチで進んでいる。

 俺や工兵、魔法師部隊が魔法などを使って、開発を進めるだけじゃなくて、領民に日当を払って公共工事として街道整備、砦の建設、新規開墾をする。日当が入った領民がお金を使う事で、領内にお金の流れを生むようにしている。

 もともと未開地を開拓したドラーク子爵領は、土地だけは幾らでもある。一から開拓しないといけない場所も多いが、大規模な開墾などは魔法師部隊が土魔法の訓練がてら進めているので、各地からの移住者の受け皿になっている。新規開墾は重労働で時間がかかる事業だが、それが魔法で下準備が出来ているのだから、移住者が後を絶たないのも仕方のない事かもしれない。

 旧チラーノス辺境伯領でも新規開墾を積極的に進めている。駐屯する兵士も増え、その兵士達が落とすお金で景気も上向いている。

 もともと未開地を開拓したドラーク領は、エルフであるルシエルのお陰もあり、農産物の生産量も右肩上がりだ。新しく領地となった旧チラーノス辺境伯領も農政改革が進み、来年度の収穫量は期待出来るだろう。




「それで、ウチが統治する事になった旧チラーノス辺境伯領だけど、産業としてはどうなの?」

 橋梁建設を終え、新領を含めて一先ず落ち着いた頃、俺達はドラーク子爵領の方針について会議を行っていた。
 会議と言っても身内が集まって相談しているように見えるだろうけど、実際にドラーク領を運営しているのは家族と初期の仲間達だから、こうなるのも仕方ない。

「旧チラーノス辺境伯領は肥沃な穀倉地帯ですから、帝国でも有数の小麦の産地です。
 ここの所の戦争で、食糧の備蓄は少なかったようですが、領民が飢える事はないでしょう」

 スーパーメイドのアンナさんが、旧チラーノス辺境伯領の特長を教えてくれた。

「と言う事は、それ以外は目立った産業はないってこと?」

「そうなりますね」

「チラーノス辺境伯は、長年にわたりバスターク辺境伯と戦ってきましたから、兵士を確保するには食糧が第一ですからね。
 兵士を多く抱えていた関係で、武器や防具を扱う鍛治師も多いと聞きますが、カイト様やガウン王国のドワーフ達が造る装備のレベルには至っていないようです」

 元バスターク辺境伯家に在籍していたアンナさんとランカスからの情報だから確かな情報だろう。

「うーん、何か目玉になるモノが欲しいな……」

「未開地側の領地は、塩の生産が軌道に乗って、サーメイヤ王国中の需要を満たすには至っていませんが順調です」

「騎士団や守備隊が魔物の領域で訓練するので、魔物素材や魔石の売り上げは好調です」

 ルシエルが製塩事業の現状を、ランカスが魔物素材や魔石の売り上げを報告する。

「魔導具の工房はまだまだ人手不足なのです」

 スーラから魔導具工房の人員増を要求された。俺とスーラが魔導具を開発するのだけど、量産する魔導具職人の数が少ない。育てるにしても時間がかかるので、ある程度の実力がある職人の募集と、新人の育成を平行して行っている。
 トイレや下水を浄化する魔導具や、誰でも気軽にお風呂へ入れるようにと温水を出す魔導具など、開発した魔導具は多いのだけど、工房がフル回転しても追いつかないのが現状だ。

「魔導具工房の人員増は直ぐ解決する問題でもないからな。気長にやろう」

「製塩事業の拡充と、魔導具工房も人員増、新規開墾を含めた食糧増産、騎士団や守備隊の増員、こんな所かしらね」

 大きくなり始めたお腹を撫でながら、エルが当面の方針をまとめる。

「資金的には今のところ潤沢だから、これと思った新規事業を思いついたら教えて欲しい。
 食糧に備蓄は必ず必要になりそうだからな」

「ローラシア王国ですね」

「弱り目に祟り目の帝国への侵攻準備をしているようです」

 ランカスの指摘を、諜報部隊の隊長であるフーガが肯定する。

「あゝ、そうなると大量の難民が流れ込むだろう。義父にも、それに備えて治安維持と食糧備蓄の準備をするように連絡しておいてくれ」

「お父様には連絡しておくわ」

 領民達が心安らかに暮らせるように、ドラーク子爵領のさらなる発展の為の話し合いは続く……。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね

竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。 元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、 王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。 代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。 父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。 カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。 その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。 ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。 「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」 そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。 もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。 

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無能と言われた召喚士は実家から追放されたが、別の属性があるのでどうでもいいです

竹桜
ファンタジー
 無能と呼ばれた召喚士は王立学園を卒業と同時に実家を追放され、絶縁された。  だが、その無能と呼ばれた召喚士は別の力を持っていたのだ。  その力を使用し、無能と呼ばれた召喚士は歌姫と魔物研究者を守っていく。

弟に裏切られ、王女に婚約破棄され、父に追放され、親友に殺されかけたけど、大賢者スキルと幼馴染のお陰で幸せ。

克全
ファンタジー
「アルファポリス」「カクヨム」「ノベルバ」に同時投稿しています。

異世界に召喚されたが「間違っちゃった」と身勝手な女神に追放されてしまったので、おまけで貰ったスキルで凡人の俺は頑張って生き残ります!

椿紅颯
ファンタジー
神乃勇人(こうのゆうと)はある日、女神ルミナによって異世界へと転移させられる。 しかしまさかのまさか、それは誤転移ということだった。 身勝手な女神により、たった一人だけ仲間外れにされた挙句の果てに粗雑に扱われ、ほぼ投げ捨てられるようなかたちで異世界の地へと下ろされてしまう。 そんな踏んだり蹴ったりな、凡人主人公がおりなす異世界ファンタジー!

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

高校生の俺、異世界転移していきなり追放されるが、じつは最強魔法使い。可愛い看板娘がいる宿屋に拾われたのでもう戻りません

下昴しん
ファンタジー
高校生のタクトは部活帰りに突然異世界へ転移してしまう。 横柄な態度の王から、魔法使いはいらんわ、城から出ていけと言われ、いきなり無職になったタクト。 偶然会った宿屋の店長トロに仕事をもらい、看板娘のマロンと一緒に宿と食堂を手伝うことに。 すると突然、客の兵士が暴れだし宿はメチャクチャになる。 兵士に殴り飛ばされるトロとマロン。 この世界の魔法は、生活で利用する程度の威力しかなく、とても弱い。 しかし──タクトの魔法は人並み外れて、無法者も脳筋男もひれ伏すほど強かった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...