異世界立志伝

小狐丸

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ある獣人族の呟き

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 オラは羊人族のモックス。

 オラが生まれたのは、ローラシア王国領の獣人族の集落だった。
 ローラシア王国では、獣人族は人間とは扱ってもらえない。税金は人族と同じだけど、人権は無いに等しいんだ。
 獣人族を狙った奴隷狩りも珍しくない。そんなオラ達は、常に貧しい生活を強いられ、奴隷狩りの恐怖に怯えながら暮らしていたんだ。


 そんな日々の続いたある日、オラ達の集落に獅子人族の率いる集団が訪れたんだ。

 集団を率いているリーダーは、シバさんという獅子人族。参謀がディーガさんという虎人族だった。

 その人達の言う事には、ゴンドワナ帝国やローラシア王国を周り、虐げられた獣人族を集めていると言う。集めて何をするんだろうと思っていると、誰かがオラと同じ事を思ったのか、シバさんとディーガさんに聞いていた。

そしたらシバさんが「未開地に獣人族の国をつくる!」と大声で宣言したんだ。

 そのシバさんの言葉に、戦闘を得意とする種族の者達は興奮して歓声を上げていたけど、オラみたいな戦いに向かない種族の人達は、反応に困っていたんだ。



 オラ達の集落は、シバさん達に着いて行く事になり、未開地にあるシバさん達の拠点へと逃げ出した。
 だけど、大変だったのはそれからだった。

 シバさん達は、未開地で狩猟しながら、ゴンドワナ帝国やローラシア王国で、獣人族を保護して回った。人の数は増えていく。だけど拠点は、何時でも移動できるような簡易なモノで、オラ達は畑を耕すことも出来なかった。ディーガさんの話では、シバさん達を討伐しようと、ゴンドワナ帝国やローラシア王国の軍隊が未開地にも遠征して来るらしい。だから拠点は何時でも移動出来るようにしているんだと。

「これじゃあ国を興すどころじゃねえんじゃないか?」

「コラ!モックス!そったらこと言って、誰かに聞かれたらどうする」

 鼠人族のチューバに注意されたけど、多分チューバも同じ事を思っていると分かった。
 オラ達の拠点には、各地から集まって来た獣人族が増えいったけど、たいして暮らしは楽にならなかったもんな。

 ある日、ディーガさんがオラ達へ移動の準備をするように指示をした。オラ達は何時もの獲物を探しての移動かと思っていたけど、違ったみたいだ。

 ディーガさんはオラ達に、サーメイヤ王国のドラーク伯爵領への移住を勧めてきた。サーメイヤ王国は、種族間差別を禁じる法があるらしい。その中でもドラーク伯爵領は人族以外の割合が高く、ドラーク伯爵の奥方様にも獣人族やエルフがいると言う。領地も豊かで、仕事にもつけるだろうとディーガさんが言う。オラ達は本当にそったら天国みたいな土地があるのか、信じられなかったけど、戦闘に不向きなオラ達に選択肢はなかった。

 それから未開地を移動して、帝国へと侵入し、ドラーク伯爵領を目指した。直接ドラーク伯爵領へと入る意味はオラ達には分からなかったけんど、サーメイヤ王国でも、獣人族の扱いに差があるらしく、特に流民に対しては、捕縛する貴族領もあるので、危険を承知で帝国領からドラーク伯爵領へと入った。

 幸い、オラ達は帝国から追われる事もなく、ドラーク伯爵領へと入る事が出来た。そこでオラ達が見たのは、ただただ驚きだった。

 先ず、国境を超えるかという時に、ドラーク伯爵領から国境警備隊が現れた。ディーガさんが何やら話すと、直ぐにオラ達を保護してくれると言う。
 国境警備隊の案内で進むと、開発が進む町へと連れて行かれ、そこで移住を希望する者には、仕事と住居が与えられると説明される。農業がしたい者には畑を、職人には働く場所を、兵士を希望する者には訓練所へと、それぞれの希望に沿って振り分けると言う。

 シバさんやディーガさんへ着いて行く人達以外は、あまりの好待遇に頬っぺたを抓ったりしていた。

「最初から此処に連れて来てくれたら良かったんじゃねえのか?」

「コラ、モックス、そったらこと言うもんじゃねえ。シバさんやディーガさんに悪いべ」

 思わず呟いたオラに、チューバが注意するけど、そう思ったのはオラだけじゃないと思うけどなぁ。



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