幻獣使いの英雄譚

小狐丸

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激動編

国家崩壊

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ケディミナス教国 聖都

 教皇がイライラと落ち着かない様子で、部屋の中をウロウロ歩いている。

「どうなってるんだ!なぜ聖都に魔物が近寄る!魔物除けの結界はどうなってる!」

 教皇が、唾を飛ばし叫ぶが返事をする者もいない。

 ドガァーン!!

 教皇執務室の豪華な扉がはじけ飛んだ。

「なっ!なんだ!」

 教皇が扉の方を見ると、そこには人型の魔物らしき者が、大剣を携え現れた。その人型の魔物は、2メートルを超える程の大きさだったが、そこに聖騎士団の鎧の残滓を身に纏っている事に教皇は気付く。

「……お前は聖騎士なのか?」
「だったですね」

 人型の魔物、魔人の背後から顔までスッポリと黒いローブに身を包んだ男が現れ、教皇に話しかけた。

「誰だ!ここが教皇の部屋と分かっているのか!無礼であろう!下がらんか!」

 黒いローブの男は、やれやれという様に顔を横に振る。

「お偉い教皇様は、現状が把握出来ていないようなので、私が説明してあげましょう。今日、そうただ今よりこの国は、生と死を司る女神アナント様を奉じる国に生まれ変わるのだ。そう、お前の死と共に」
「何を訳のわからっ……」

 ゴロッ……。

 教皇の首が、魔人が軽く振った大剣によって斬り落とされる。

 バタンッ!

 遅れて身体が血を噴き出しながら倒れた。
 教皇執務室の床に、血溜まりが広がるなか、男の笑い声が響いていた。





 聖都から遠く離れた、魔物の領域に近い街の郊外に飛空船が三隻降りたっていた。

「オラオラッー!街へ近付けるな!」

 拳で魔物を葬りながら、ヴォルフが自ら先頭に立ち自警団を指揮する。

「ほれっ、ふっ、残りは少ないぞ、ほら気を引き締めんか!」

 槍を振り回し、ドンドン魔物を殲滅しながら、ノブツナが率いる部隊が、魔物を駆逐していく。

「ホラホラ!弾幕はりなー!」

 バーバラ率いる魔法部隊が、近付く魔物の数を減らす為、遠距離攻撃を繰り返す。

「他に怪我人はいませんか!」

 アイザックが救護隊と共に、怪我人の治療に当たっている。

 大規模な氾濫の兆候を掴んだフィリッポスは、ケディミナス教国に問い合わせたが返答がなく、内政干渉で後々揉める可能性もあったが、ユキトがマリアとヒルダに渡した、アクセサリーの魔道具からエマージェンシーシグナルを受け取り、ユキトが高速飛行船で出撃するのを見て、救助の為の飛空船を出す事に決めた。




 その頃ユキトは、イオニア王国から魔物の領域を飛び越え、魔物の大群が移動した後を追う形で聖都方面に向かっていた。
 途中、魔物に襲われている街や村を救助しながら進み、全滅に近い村などでは、残された住民を保護しながら、聖都を望む丘に飛空船を待機させた。

「サティス、少し聖都の偵察に行ってくる。ここで待っていてくれ」
「私もご一緒させて下さい!」
「保護した人達もサティスまで居なくなると不安になるだろう。なんせここにはルドラやヴァイス、ジーブル、唯一人に近いバルクもスケルトンロードだ」

 魔物ばかりの中では、保護された人々も安心出来ないだろうとサティスに残るよう説得する。

「……そうですね。分かりました。ユキト様、お気を付けて」
「あゝ、大丈夫。直ぐに帰って来るよ」

 そう言い残し、ユキトは聖都へ向った。



 聖都に近付くにつれ、倒された魔物の死体が、そこかしこに散乱している。生きて動く魔物は居ないようだ。
 魔物の死体と共に騎士や冒険者の死体も多く見える。僅かに息のある騎士や冒険者を回復魔法で治療すると、バルクを念話で呼んで飛空船に運ばせる。
 聖都の中に気配を消して進入すると、壊れた建物も有るが、途中で見た街や村ほど酷い被害は無さそうだ。

 ユキトは魔物の気配を探ると、そこそこ大きな反応があるが、暴れている気配がない事に不思議に思い、魔物の気配を感じる場所へ急ぐ。

「なんだアレは……、人?魔物?……あっ、アレは隷属の首輪!」

 魔物の気配をたどってユキトが見た物は、人型をした魔物のような物、しかも隷属の首輪をしている所を見ると、誰かが操っているのだろう。
 人型の魔物は、街を破壊するでもなく、まるで街の警備をするかの様に歩いていた。

 そこで人の気配を感じてユキトは身を隠す。

「教会は制圧した。神職の者は逃げた者を除いて駆除出来た。後はメイドやシスターを一纏めに監禁してある」
「神職でも女は始末しないのですか」
「女は使い道があるそうだ。街の住民は貴重な労働力だ、魔物の駆除を徹底しろ」


 黒いローブで顔まで隠した男達が話しているのを聞いたユキトは、探知魔法を使い人が密集している場所を教会の地下に見つける。

「ここか」

 気配を消して教会へたどり着いたユキトは、捕まっている人達を救う為、教会の地下へ急ぐ。
 部屋の前に黒いローブを着た男が二人立っていた。
 音も無く間合いを詰めると、黒ローブの男達が声をあげさせることなく、当て身を当てて意識を刈りとる。
 ユキトは鍵のかかった扉の前に立ち、遮音結界をはると、鍵を壊せる程度の最小限の魔法を使う。

「静かにして下さい。助けに来ました」

 ユキトは、部屋全体にも遮音結界をはると、部屋の中を見回す。部屋の中には年齢は様々なシスターやメイドがいた。中には隷属の首輪をした奴隷も混じっている。ユキトは先ず、隷属の首輪を解呪していく。その後、自分が何者か、どこから来たのか、あなた達を保護したい事を伝えた。

「是非、お願いします」

 少し年かさのシスターが、代表してユキトに言うと、ユキトは部屋の中の全員を連れ、丘の飛空船近くに転移した。

 直ぐにサティスが走りよって来る。

「ユキト様!ご無事でよかった」
「心配かけたね。彼女達を船に収容してくれる。一度戻ろう。フィリッポス先生に報告しておいた方が良さそうだ」

 ユキトはそう言うと撤収作業を手伝い、商業都市ロンバルドへ飛び立った。
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