召喚術士は魔物と踊る

小狐丸

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ルッツ村

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 何とか日が暮れる前に、村の入り口へたどり着いた。

 村の入り口で、革鎧を着て槍を持った男に声を掛けられる。

「おぅ坊主、こんな辺境の村に魔物使いとは珍しい。それに担いでいるのは一角ウサギか、随分大物を狩ったんだな。出来れば宿屋に売ってくれると助かるがな」

 一方的にまくし立てる様に話す門番の男は、30歳~40歳位か、筋肉質のガッシリとした体格で、気安く話しかけられなければ、ムサシからは話しかけられなかっただろう。

「これも売れますか」

 ムサシがそう言って鞄から取り出したのは、スライムを倒した時に残した赤い石、スライムコアと言うらしい。

「あゝ、この村には薬師も居るからな、買い取って貰えると思うぜ。ただ売るなら道具屋に売った方が多少高く買い取って貰えるぜ」

「ちなみに一角ウサギはどの位で買い取って貰えるでしょうか?」

「そうだなぁ、皮も角も魔石も含めると10,000セルにはなるな」

 この世界に紙幣は無く、大陸共通の硬貨がある。

 鉄貨1枚=10セル
 銅貨1枚=100セル
 銀貨1枚=1,000セル
 銀板1枚=10,000セル
 金貨1枚=100,000セル
 金板1枚=1,000,000セル
 白金貨1枚=100,000,000セル

「宿屋はこの村には一軒だけだからすぐ分かると思うが、一応道を教えておくぞ。この大通りを真っ直ぐ進むと、右側に大きな冒険者ギルドの建物が見えて来る。その向かい側に赤い屋根の木造三階建の建物が宿屋だ。その二軒隣が道具屋だから、スライムコアを売るならそこへ行けば良い」

「ご丁寧にありがとうございます」

「なに、これも俺の仕事のうちだ」

 ムサシが頭を下げてお礼を言うと、片手を上げて見送ってくれた。

 ルッツの村は、100世帯500人くらいの規模の村だった。村としては大きい部類に入る。

 門番に教えて貰った通りに道を歩いて行くと、剣と盾の意匠を掲げた大きな建物が見えてきた。

「これが冒険者ギルドか、じゃあその向かい側が宿屋か」

 ムサシは最初に、宿屋の二軒隣りにある道具屋に向かう。


「すいませーん」

「はいはい、どういった御用で?」

 道具屋に声を掛けると、恰幅の良いオバさんが出て来た。

「これを買って頂きたいんですが」

 そう言ってスライムコアを出す。

「あら、たくさん有るわね。ちょっと待ってね」

 道具屋のオバさんがスライムコアを数え始める。

「全部で12個だから6,000セル、銀貨6枚だね」

「それでお願いします」

「はい、銀貨6枚だよ」

 ムサシはオバさんから銀貨を受け取る。

「ありがとうございました」

 ムサシがそのまま二軒隣りの宿屋へ向かう。



「いらっしゃい!食事かい、それとも泊まりかい。食事だけなら銅貨5枚、泊まりは朝晩の食事付きで銀貨5枚だよ」

 宿屋に入ると、道具屋のオバさんに似たオバさんが声を掛けて来た。

「泊まりと、食事もお願いします。それとこれを買って頂けますか?」

 ムサシはそう言って一角ウサギを見せる。

「あら、立派な一角ウサギだね。それなら10,000セルで買い取るよ」

 門番が言ってた金額ピッタリだったので、迷わずその金額で買って貰う。

「それでお願いします」

 宿屋のオバさんに一角ウサギを手渡す。

「それで何泊するんだい」

「取り敢えず二泊でお願いします」

 一角ウサギの分が吹き飛ぶが、また稼げば良いと気楽に考える。

「じゃあ宿帳を記入しておくれ、字は書けるかい」

「はい、大丈夫です」

 ムサシが宿帳に名前を記入すると、オバさんから鍵を手渡された。

「部屋は二階の奥だよ。え~とムサシっていうのかい。あたしはマーサこの宿の女将だよ」

「はい、ムサシっていいます。お世話になります」

「じゃあ荷物を置いたら降りて来な。夕食を出すからね」

 鍵を受け取ったムサシは、部屋に荷物を置いて食堂へ降りる。
 フランは送還しておく。

 宿の食事は塩味のみだったが、素材の味が良いのか、薄味だったが美味しかった。

 部屋に戻ってベッドに寝転び一日を振り返る。

「濃い一日だったな。でもこれで良かったのかもな。ロキの嫌がらせが無かったとしても、そのうち身を削って過労死してただろうし」

 ムサシは明日からの予定を考える。

「先ずは冒険者ギルドに加入だよな」

 このルッツ村では、出入りするのに身分証の提示は必要ないが、大きな街では必ず提示しなければ、街に入る度に税金を取られるそうだ。
 身分証を発行するのは、冒険者ギルド、商業ギルド、職人ギルドがあり、その中でも冒険者ギルドのギルド証が手に入れ易い。

 冒険者ギルドに登録したら、直ぐに仕事をしないと宿にも泊まれない。

 ベッドに寝転び、装備の事や、着替えの下着や服の事を考えていると、いつの間にか寝息を立てていた。初めての経験の連続で、体力的にも精神的にも疲れていたのだろう。ムサシは朝までそのまま眠り続けた。


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