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十三話 ユーリ工房は花盛り
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毎日、何故か騎士団や執事、メイドまで参加するようになった訓練に励む私、ユーリです。
とはいえ、武術だけに没頭できる訳もなく、貴族令嬢として身に付けるべき知識や教養、それに加えて魔法の座学もあるので、七歳にしてはハード過ぎるんじゃないかと思う今日この頃です。
私の為に建てられた石造りの四階建ての塔。この一階と二階は、工房と図書室なので、天井が高く、四階建てとは言っても、それなりの高さはある。
そして二階の図書室は、その高い天井まである作り付けの本棚に、びっしりと貴重な本が収められていた。
今は、その図書室で勉強の時間なんだけど、マーテルやララ、パティとノックスが、それぞれ図鑑や魔導書を読んでいるのは分かる。何故か、そこにフローラお母さまやエルフ姉妹のシルエルとウルエルまでが居る。いや、どちらかと言うと、私達よりもずっと居る。篭っていると言ってもいい。
「ゴクウちゃん。その天井近くの魔導書を取ってくれるかしら。そう、それよ」
『了解』
フローラお母さまなんて、普通に私の契約精霊であるゴクウを使ってるし。その実体化の魔力は私からなんだけどな。
「お姉ちゃん。凄いよね」
「ええ、さすが賢者様の集めた蔵書の数々ね」
「賢者様の書かれた魔導書も凄いよ。エルフの郷にも無いんじゃない」
「エルフは、風魔法や水魔法は得意だけど、火魔法や土魔法が得意な人は少ないものね」
シルエルとウルエルの姉妹も、仕事の休みには入り浸っている。
マーサおばあちゃんの書いた魔導書は、エルフでも目から鱗がポロポロレベルらしい。
「ユーリお嬢様。賢者様は、エルフの郷の長老衆に負けてませんもの」
「はい。エルフは基本的に引き篭もりですから。賢者様のように、色々な遺跡を訪れて研究したりしませんしね」
「なる程ね。そう言えば、マーサおばあちゃんは、世界中を巡ったって言ってたね」
マーサおばあちゃんが、集め研究し編纂した資料や図鑑は、エルフ姉妹が夢中になる程貴重みたい。
「そうそう。ユーリ、ヒルクル草の芽が出たそうね」
「はい。お母さま。あとマナフル草もです」
「まぁ、素晴らしいわ。これでヒールポーションとマナポーションが、量産できるわね」
手元の魔導書から目を離さず、フローラお母さまが薬草園の話をした。
マーサおばあちゃんの家の横にあった薬草畑と比べると、成長が少し遅い気もするけど、これもそのうち変わらなくなると思う。
「月光草とポイズンリーフも順調だから、アンチドートポーションとキュアイルネスポーションも作れます」
「……それは、信用できる錬金術師と薬師を探さないといけないわね」
「はい。ルミエール伯爵家のお抱え錬金術師と薬師だけじゃ人数も不足ですから」
月光草は、月の光のある夜に花を咲かせる変わった薬草で、その月光草を煎じて飲むだけで、ある程度病気に効くってマーサおばあちゃんから聞いた。ポイズンリーフは、それ自体は毒なんだけど、色々な毒に対する解毒薬(アンチドートポーション)になる。
色々なポーションが作れるのは喜ばしいのだけど、ただ、問題がない訳じゃない。
ヒルクル草だけでも一般的には、栽培方法は確立されていないのに、マナフル草や更に希少な月光草なんて栽培が可能という事が漏れれば、大変な事になりそう。
「お母さま。ポーションの備蓄は大事ですが、おおっぴらには出来ませんよ」
「まぁ、そうよねぇ。だいたい、こんなに大量の魔力を垂れ流して、しかも聖属性の魔力で浄化された土地なんて、私やユーリが居ないと無理だもの」
「それもそうですね」
そう。ただ、魔力が濃い土地を人為的に造るのは可能だけど、それだけなら魔物を呼び寄せちゃうもの。ルミエール家には、私とフローラお母さまが居るから大丈夫だけどね。
「そうなると、余計にユーリを狙うバカが増えそうなのよねぇ」
「奥様。今度こそ、お嬢様は私が守ってみせます」
「リンジー、大丈夫よ。二度は無いから」
「そうよリンジー。ユノスに師事して頑張っているのは分かってるけど、無理はダメよ。既にユーリは、殺しても死なない人外になっちゃったけど、貴女は人なのよ」
「もう。お母さま。娘を人外って酷いです」
私を狙うものが増えるとフローラお母さまが言うと、私付きのメイドであるリンジーが、真剣な眼差しで守ると言ってくれた。
実際、我が家の武闘侍女ユノスに師事して頑張ってるものね。
ただ、フローラお母さま。可愛い娘を人外は酷いと思うわ。間違いなくその通りだけど、人聞きが悪過ぎる。
「真面目な話、私は殺しても死なないのは間違いないかもですが、メルティとルードの警護も厳重にした方がいいかもです」
「まだ城から出る事もないから大丈夫でしょうけど、考えないといけないわね」
「奥様。ユーリお嬢様。ご安心ください。ルミエール城内ならネズミ一匹侵入させません」
「ユノス、現れるのも唐突ね」
「奥様もお嬢様も、魔力感知で捕らえていらっしゃるので問題ないかと」
私が懸念するのは、可愛い双子の弟と妹メルティアラとルードルフの安全だ。
ユースクリフ王国随一の武闘派集団、ルミエール伯爵家とはいえ、三歳の幼児に鍛錬などさせない。私だって、簡単な運動と魔法の勉強を始めたのは五歳になってからだったのだから。
今思うと、前世の記憶が戻る前の私も、子供にしては冷静で理性的だった。子供らしくないとも言える。
フローラお母さまとメルティとルードの話をしていると、ユノスが城の中なら大丈夫と太鼓判を押す。それにしても唐突ね。リンジーが驚いてるじゃない。侍女なんだから、気配を消して近付くんじゃないわよ。
そこでふと思う。
「ここって、女子率高いですね」
「そう言えばそうね。ノックス以外、私を含めほぼ女子ね」
「……ですよね」
フローラお母さまが、自分の事をしれっと女子に入れているけど、それを指摘してはいけない。
それはそうとして、此処は本当に女子率が高い。ガンツが工房に出入りしたり、アレクお父さまやガーランドが来る事もあるけどね。
フローラお母さまと雑談しているように見えて、私もお母さまも視線は手元の本に向かっている。
フローラお母さまは、マーサおばあちゃんが書いた魔導書を、私は魔法陣の勉強。
マーサおばあちゃんは、賢者と呼ばれるだけあり、様々な方面の研究をしていた。それは魔道具や元になる魔法陣も当然研究テーマで、おばあちゃんは魔法陣の中に描かれた、魔法文字や記号の解読して図鑑に残している。
既存の魔法陣を多少改良した人は存在するみたいだけど、マーサおばあちゃんのように、一から魔法陣を描ける人は、今の時代には居ないかもしれない。エルフの長老なら別かもしれないけどね。
「ねぇ、ユーリ」
「なんです、お母さま?」
「工房の塔の周辺にはお花を植えないの?」
「お花ですか? 薬草園がありますよ」
「花が咲く薬草もあるけど、女の子のユーリが主人の工房だもの。少し殺風景だと思うの」
「奥様、では私が花壇を作ります」
「あら、リンジー、お願いできるかしら。人は使っていいから頼むわね」
子供だからか、スポンジのように知識を吸収する私は、魔法文字や記号をひたすら覚えていると、フローラお母さまが脈絡もなく花が少ないと言ってきた。
殺風景と言えば、そうかもね。石造りの四階建ての塔だから武骨よね。広い薬草園も、花を咲かせるのは種を取る物になる。
そこでリンジーが手を挙げてくれ、花壇を造る事になった。魔法を使えば直ぐに完成するだろう。
ふとフローラお母さまが顔を上げる。
「そう言えば、ユーリ」
「どうしました?」
「シルクワームを飼うって話はどうなっているかしら?」
フローラお母さまは、どうやらシルクワームが気になるらしい。貴族の当主夫人なので、お母さまはシルクを使ったドレスも持っているし、普段着には上質なワイルドコットンを使ったものも着ている。でも、シルクワームの糸から織られる生地は別格だからね。
「はい。既に、五匹ほど飼育中です。もっと増やすつもりですけど、ホーリースパイダーの方が優先なので、もう少し待ってくださいね」
「ちょっと待ちなさい」
シルクワームは、大人しくて聖属性の魔力が濃い土地でも苦にしない魔物だけど、ホーリースパイダーは清浄な土地じゃないとダメなので、そちらの環境を整える方が優先なのよね。
私用の服は、ホーリースパイダーの糸から織る生地で作るつもりだしね。
そう思っていると、真顔のフローラお母さまからストップがかかる。
「どうされました?」
「ホーリースパイダーって、もういるの?」
「ゴクウに連れて来て貰った聖獣のホーリースパイダーですが、何匹か連れて来てくれたので、今は飼育小屋に慣れて貰ってるところですね。まぁ、直ぐに必要なのは普段着と稽古着くらいなので、ぼちぼち糸の研究しながらですね」
あれ? お母さまの雰囲気が変わった。
「冗談じゃありません! ユーリ! シルクワームの生地でさえ、高位貴族でも手に入れるのが難しいのよ! それよりも希少な生地で、普段着? 稽古着?」
「ですが、お母さま。何時狙われるか分からないのなら、普段着る服こそ気を使うべきだと思うのですが……」
「……そう言えばそうね。もう、ユーリが襲われても返り討ちにするでしょうけど、メルティとルードの事を考えれば、間違いじゃないわね」
ホーリースパイダーの糸から織る生地で、普段着と稽古着を作るというのがいけなかったみたい。だけど、右腕が義手になった私が、この先貴族のパーティーに参加する事もないでしょうし、そうなると普段着に使うのは間違っていない。そう説明すると、フローラお母さまも分かってくれた。
そもそも、私がシルクワームやホーリースパイダーを欲しがったのは、長袍を作りたかったからなのにね。
「勿論、お母さまにも優先的に生地を差し上げますよ」
「そう。そうよね。分かってたわ」
正解だったみたい。私がホーリースパイダーの生地を優先的に提供すると言うと、途端に機嫌は良くなったお母さま。生地を渡せばいいよね。ドレスのデザインなんて、私には分からないもの。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
とはいえ、武術だけに没頭できる訳もなく、貴族令嬢として身に付けるべき知識や教養、それに加えて魔法の座学もあるので、七歳にしてはハード過ぎるんじゃないかと思う今日この頃です。
私の為に建てられた石造りの四階建ての塔。この一階と二階は、工房と図書室なので、天井が高く、四階建てとは言っても、それなりの高さはある。
そして二階の図書室は、その高い天井まである作り付けの本棚に、びっしりと貴重な本が収められていた。
今は、その図書室で勉強の時間なんだけど、マーテルやララ、パティとノックスが、それぞれ図鑑や魔導書を読んでいるのは分かる。何故か、そこにフローラお母さまやエルフ姉妹のシルエルとウルエルまでが居る。いや、どちらかと言うと、私達よりもずっと居る。篭っていると言ってもいい。
「ゴクウちゃん。その天井近くの魔導書を取ってくれるかしら。そう、それよ」
『了解』
フローラお母さまなんて、普通に私の契約精霊であるゴクウを使ってるし。その実体化の魔力は私からなんだけどな。
「お姉ちゃん。凄いよね」
「ええ、さすが賢者様の集めた蔵書の数々ね」
「賢者様の書かれた魔導書も凄いよ。エルフの郷にも無いんじゃない」
「エルフは、風魔法や水魔法は得意だけど、火魔法や土魔法が得意な人は少ないものね」
シルエルとウルエルの姉妹も、仕事の休みには入り浸っている。
マーサおばあちゃんの書いた魔導書は、エルフでも目から鱗がポロポロレベルらしい。
「ユーリお嬢様。賢者様は、エルフの郷の長老衆に負けてませんもの」
「はい。エルフは基本的に引き篭もりですから。賢者様のように、色々な遺跡を訪れて研究したりしませんしね」
「なる程ね。そう言えば、マーサおばあちゃんは、世界中を巡ったって言ってたね」
マーサおばあちゃんが、集め研究し編纂した資料や図鑑は、エルフ姉妹が夢中になる程貴重みたい。
「そうそう。ユーリ、ヒルクル草の芽が出たそうね」
「はい。お母さま。あとマナフル草もです」
「まぁ、素晴らしいわ。これでヒールポーションとマナポーションが、量産できるわね」
手元の魔導書から目を離さず、フローラお母さまが薬草園の話をした。
マーサおばあちゃんの家の横にあった薬草畑と比べると、成長が少し遅い気もするけど、これもそのうち変わらなくなると思う。
「月光草とポイズンリーフも順調だから、アンチドートポーションとキュアイルネスポーションも作れます」
「……それは、信用できる錬金術師と薬師を探さないといけないわね」
「はい。ルミエール伯爵家のお抱え錬金術師と薬師だけじゃ人数も不足ですから」
月光草は、月の光のある夜に花を咲かせる変わった薬草で、その月光草を煎じて飲むだけで、ある程度病気に効くってマーサおばあちゃんから聞いた。ポイズンリーフは、それ自体は毒なんだけど、色々な毒に対する解毒薬(アンチドートポーション)になる。
色々なポーションが作れるのは喜ばしいのだけど、ただ、問題がない訳じゃない。
ヒルクル草だけでも一般的には、栽培方法は確立されていないのに、マナフル草や更に希少な月光草なんて栽培が可能という事が漏れれば、大変な事になりそう。
「お母さま。ポーションの備蓄は大事ですが、おおっぴらには出来ませんよ」
「まぁ、そうよねぇ。だいたい、こんなに大量の魔力を垂れ流して、しかも聖属性の魔力で浄化された土地なんて、私やユーリが居ないと無理だもの」
「それもそうですね」
そう。ただ、魔力が濃い土地を人為的に造るのは可能だけど、それだけなら魔物を呼び寄せちゃうもの。ルミエール家には、私とフローラお母さまが居るから大丈夫だけどね。
「そうなると、余計にユーリを狙うバカが増えそうなのよねぇ」
「奥様。今度こそ、お嬢様は私が守ってみせます」
「リンジー、大丈夫よ。二度は無いから」
「そうよリンジー。ユノスに師事して頑張っているのは分かってるけど、無理はダメよ。既にユーリは、殺しても死なない人外になっちゃったけど、貴女は人なのよ」
「もう。お母さま。娘を人外って酷いです」
私を狙うものが増えるとフローラお母さまが言うと、私付きのメイドであるリンジーが、真剣な眼差しで守ると言ってくれた。
実際、我が家の武闘侍女ユノスに師事して頑張ってるものね。
ただ、フローラお母さま。可愛い娘を人外は酷いと思うわ。間違いなくその通りだけど、人聞きが悪過ぎる。
「真面目な話、私は殺しても死なないのは間違いないかもですが、メルティとルードの警護も厳重にした方がいいかもです」
「まだ城から出る事もないから大丈夫でしょうけど、考えないといけないわね」
「奥様。ユーリお嬢様。ご安心ください。ルミエール城内ならネズミ一匹侵入させません」
「ユノス、現れるのも唐突ね」
「奥様もお嬢様も、魔力感知で捕らえていらっしゃるので問題ないかと」
私が懸念するのは、可愛い双子の弟と妹メルティアラとルードルフの安全だ。
ユースクリフ王国随一の武闘派集団、ルミエール伯爵家とはいえ、三歳の幼児に鍛錬などさせない。私だって、簡単な運動と魔法の勉強を始めたのは五歳になってからだったのだから。
今思うと、前世の記憶が戻る前の私も、子供にしては冷静で理性的だった。子供らしくないとも言える。
フローラお母さまとメルティとルードの話をしていると、ユノスが城の中なら大丈夫と太鼓判を押す。それにしても唐突ね。リンジーが驚いてるじゃない。侍女なんだから、気配を消して近付くんじゃないわよ。
そこでふと思う。
「ここって、女子率高いですね」
「そう言えばそうね。ノックス以外、私を含めほぼ女子ね」
「……ですよね」
フローラお母さまが、自分の事をしれっと女子に入れているけど、それを指摘してはいけない。
それはそうとして、此処は本当に女子率が高い。ガンツが工房に出入りしたり、アレクお父さまやガーランドが来る事もあるけどね。
フローラお母さまと雑談しているように見えて、私もお母さまも視線は手元の本に向かっている。
フローラお母さまは、マーサおばあちゃんが書いた魔導書を、私は魔法陣の勉強。
マーサおばあちゃんは、賢者と呼ばれるだけあり、様々な方面の研究をしていた。それは魔道具や元になる魔法陣も当然研究テーマで、おばあちゃんは魔法陣の中に描かれた、魔法文字や記号の解読して図鑑に残している。
既存の魔法陣を多少改良した人は存在するみたいだけど、マーサおばあちゃんのように、一から魔法陣を描ける人は、今の時代には居ないかもしれない。エルフの長老なら別かもしれないけどね。
「ねぇ、ユーリ」
「なんです、お母さま?」
「工房の塔の周辺にはお花を植えないの?」
「お花ですか? 薬草園がありますよ」
「花が咲く薬草もあるけど、女の子のユーリが主人の工房だもの。少し殺風景だと思うの」
「奥様、では私が花壇を作ります」
「あら、リンジー、お願いできるかしら。人は使っていいから頼むわね」
子供だからか、スポンジのように知識を吸収する私は、魔法文字や記号をひたすら覚えていると、フローラお母さまが脈絡もなく花が少ないと言ってきた。
殺風景と言えば、そうかもね。石造りの四階建ての塔だから武骨よね。広い薬草園も、花を咲かせるのは種を取る物になる。
そこでリンジーが手を挙げてくれ、花壇を造る事になった。魔法を使えば直ぐに完成するだろう。
ふとフローラお母さまが顔を上げる。
「そう言えば、ユーリ」
「どうしました?」
「シルクワームを飼うって話はどうなっているかしら?」
フローラお母さまは、どうやらシルクワームが気になるらしい。貴族の当主夫人なので、お母さまはシルクを使ったドレスも持っているし、普段着には上質なワイルドコットンを使ったものも着ている。でも、シルクワームの糸から織られる生地は別格だからね。
「はい。既に、五匹ほど飼育中です。もっと増やすつもりですけど、ホーリースパイダーの方が優先なので、もう少し待ってくださいね」
「ちょっと待ちなさい」
シルクワームは、大人しくて聖属性の魔力が濃い土地でも苦にしない魔物だけど、ホーリースパイダーは清浄な土地じゃないとダメなので、そちらの環境を整える方が優先なのよね。
私用の服は、ホーリースパイダーの糸から織る生地で作るつもりだしね。
そう思っていると、真顔のフローラお母さまからストップがかかる。
「どうされました?」
「ホーリースパイダーって、もういるの?」
「ゴクウに連れて来て貰った聖獣のホーリースパイダーですが、何匹か連れて来てくれたので、今は飼育小屋に慣れて貰ってるところですね。まぁ、直ぐに必要なのは普段着と稽古着くらいなので、ぼちぼち糸の研究しながらですね」
あれ? お母さまの雰囲気が変わった。
「冗談じゃありません! ユーリ! シルクワームの生地でさえ、高位貴族でも手に入れるのが難しいのよ! それよりも希少な生地で、普段着? 稽古着?」
「ですが、お母さま。何時狙われるか分からないのなら、普段着る服こそ気を使うべきだと思うのですが……」
「……そう言えばそうね。もう、ユーリが襲われても返り討ちにするでしょうけど、メルティとルードの事を考えれば、間違いじゃないわね」
ホーリースパイダーの糸から織る生地で、普段着と稽古着を作るというのがいけなかったみたい。だけど、右腕が義手になった私が、この先貴族のパーティーに参加する事もないでしょうし、そうなると普段着に使うのは間違っていない。そう説明すると、フローラお母さまも分かってくれた。
そもそも、私がシルクワームやホーリースパイダーを欲しがったのは、長袍を作りたかったからなのにね。
「勿論、お母さまにも優先的に生地を差し上げますよ」
「そう。そうよね。分かってたわ」
正解だったみたい。私がホーリースパイダーの生地を優先的に提供すると言うと、途端に機嫌は良くなったお母さま。生地を渡せばいいよね。ドレスのデザインなんて、私には分からないもの。
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この度、作者著作の「いずれ最強の錬金術師?」のアニメ化が決定しました。
2025年1月まで、楽しみにして頂けると嬉しいです。
それと「いずれ最強の錬金術師?」の17巻が12月中旬に発売されます。書店で手に取って頂ければ幸いです。
あとコミック版の「いずれ最強の錬金術師?」8巻が、12月16日より順次発売予定です。
また、コミック版の「いずれ最強の錬金術師?」1巻~7巻の増刷されます。
12月中頃には、お近くの書店に並ぶと思いますので手に取って頂ければ幸いです。
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