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第1章
第10話 ゴブリンの魔法使い
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暫く進むと、微かにしか見えなかった灯りは、リアの目にもはっきりと見えるようになった。
二人は曲がり道手前の岩陰に身を隠し、顔だけだして通路を覗きこむ。
通路を曲がってすぐの所に、木でできた粗末な扉があった。
扉はしまっているが、その隙間から灯りが漏れていた。
耳を澄ますと中からは様々の音が聞こえてくる。
火の弾ける音、生き物の歩く足音、何か物と物がぶつかり合う音。
その中に聞き慣れない声が混じっている。
「ゴブリンだ」
その声を聞いて青ざめた顔でリアは呟く。
ゴブリンは魔物の一種だ。
子供ぐらいの背丈をしており、肌は緑色。
ギョロッとした大きな目に耳まで裂けた大きな口という容姿を持つ醜悪な化物だ。
陽の光を嫌うため、その多くは洞窟などの暗闇に潜んでいる。
時折、小さな村や集落を襲っては食料や家畜などを奪い、時には人間を殺すこともある。
しかし、単体での戦闘能力は低く、普通の大人なら十分に倒すことが可能だ。
問題は群れをなして行動することにある。
非常に繁殖能力が高いため、一つの群れは少なくとも十匹を超える。
時には数百匹、数千匹といった規模の群れもあるという。
そうなるとその戦力は一国の軍隊に相当する。
そのため、扉の向こうにどれほどのゴブリンがいるかは分からないが、十分に危険といえた。
リアはネンコの手早くその旨を伝え、一刻も早くこの場から去ることを提案する。
ネンコは相槌を打ちならがリアの話に耳を傾けていたが、話が一段落すると分かったと呟いた。
リアはネンコが納得してくれたことに感謝する。
「じゃあ、戻って……」
「行ってくる」
言うが早いかネンコは扉を蹴破った。
呆然とするリアにネンコは声をかける。
「お前はそこにいろ」
扉がはじけ飛び、中の様子が明らかになる。
中は想像した以上に広く、二十匹程のゴブリンが焚き火を囲んで思い思いの格好でくつろいでいた。
リアの話通りの容姿をしており、大半が上半身裸で腰に申し訳程度に布を巻きつけている。
ゴブリンたちは突然のことに身動きさえ取れない様子だった。
次の瞬間、一番扉の近くにいたゴブリンが吹き飛んだ。
飛ばされたゴブリンは洞窟の壁に叩きつけられ、奇妙な声を上げてそのまま動かなくなった。
何事かと立ち上がったゴブリンも真上に吹き飛ばされる。
その体は大きく宙を舞い、頭から地面に落ちる。
頭蓋骨が砕ける嫌な音がして、そのゴブリンも絶命した。
その後もゴブリンたちは成すすべなく吹き飛ばされ続けた。
彼らは自分たちを攻撃し続ける姿の見えない侵入者を必死に探すがその目に捉えることができない。
正体が分かっているリアでさえもその姿は捉えきれていなかったので、ゴブリンたちが独りでに吹き飛んでいるようにしか見えない。
速過ぎるのだ。
ただでさえ体が小さく見つけるのが困難な上に、異常な速度で移動しているため、相当の力量を持つ熟練の戦士でもない限りその攻撃を見切ることは不可能だろう。
その後もネンコの攻撃は休まることなく続き、あっという間にゴブリンの数は残り四匹ほどになった。
ネンコの活躍ぶりにリアが安堵しかけた時、部屋の一番奥にいたゴブリンが何か粉のようなものを振りまいた。
そして、口をもごもごと動かしながら何か言葉を発する。
(魔法!!)
岩陰から様子を見ていたリアは身を固くする。
ゴブリンの紡ぐ魔法は、リアの目から見ても未熟なものであったが、どうやら成功したようだった。
唱えられた魔法は『誘眠』。
蝶の鱗粉を触媒として、周囲の生物を眠りへと誘う魔法だ。
魔法としては低級のものだが、その実用性は高い。
何しろ如何なる状況であれ、抵抗できなければ眠ってしまうのだ。
戦いの最中にこの魔法に掛かることは死と同義であろう。
完全に眠り込んだ相手を殺すことくらい子供にでもできるのだから。
しかし、リアは魔法が発動したのをその身で感じても、あまり脅威を感じてはいなかった。
ゴブリンから感じられる魔力は非常に弱いものであったし、あのデタラメな力を持ったネンコが抵抗できないはずはないと信じていたからだ。
魔法が効果を現し、範囲内にいたゴブリンたちの動きが緩慢になる。
うち二匹が抵抗に失敗したらしく膝から崩れ落ちるようして倒れると動かなくなった。
抵抗に成功した一匹も意識が朦朧とするのか、しきりに頭を振っている。
魔法を使ったゴブリンは眠ってしまった仲間を足蹴にして起こしていく。
リアはようやく理解した。
ネンコが魔法に掛かってしまったことを。
暴風のように激しかった攻撃はピタリと止み、部屋の中で動いているのは生き残ったゴブリンたちしかいない。
リアからは見えないが、おそらく部屋のどこかで眠ってしまっているのだろう。
リアの鼓動が早くなる。
(ネンコさんが危ない!)
まだゴブリンたちは今回の騒動の主を見つけることができないでいるようだった。
しかし、いずれは気づかれてしまうかもしれない。
たかが一匹のネズミがここまでのことを仕出かしたとは考えないかもしれないが、少なくとも今この部屋にいる生き物を全て殺そうとするだろう。
リアは焦りを感じながらも、この後の行動について考えを巡らせた。
一方でゴブリンたちも焦っていた。
敵が魔法に掛かったことは間違いないのだが、どこを探してもそれらしき姿がないためだ。
魔法の効果は永遠ではない。
敵はいずれ目を覚まし、また悪夢のような攻撃を仕掛けてくるだろう。
そうなる前に見つけてとどめを刺さなければならなかった。
ほどなくして、ゴブリンの一匹が焚き火の近くに仰向けに転がっているネズミに気づいた。
ゴブリンは恐る恐る近づくと、足でネズミをつついてみる。
反応はなく、しっかり眠っているようだ。
そのゴブリンは群れのリーダーである魔術師を呼ぶため、顔を上げる。
その時、拳ほどの岩がゴブリンめがけて飛んできた。
突然のことにゴブリンは反応できなかったが、岩は避けるまでもなく近くの地面に落ちて乾いた音を立てた。
その音に反応して全員が岩が飛んできた先を見る。
その視線の先には薄汚れた服を着た人間の子供が立っていた。
二人は曲がり道手前の岩陰に身を隠し、顔だけだして通路を覗きこむ。
通路を曲がってすぐの所に、木でできた粗末な扉があった。
扉はしまっているが、その隙間から灯りが漏れていた。
耳を澄ますと中からは様々の音が聞こえてくる。
火の弾ける音、生き物の歩く足音、何か物と物がぶつかり合う音。
その中に聞き慣れない声が混じっている。
「ゴブリンだ」
その声を聞いて青ざめた顔でリアは呟く。
ゴブリンは魔物の一種だ。
子供ぐらいの背丈をしており、肌は緑色。
ギョロッとした大きな目に耳まで裂けた大きな口という容姿を持つ醜悪な化物だ。
陽の光を嫌うため、その多くは洞窟などの暗闇に潜んでいる。
時折、小さな村や集落を襲っては食料や家畜などを奪い、時には人間を殺すこともある。
しかし、単体での戦闘能力は低く、普通の大人なら十分に倒すことが可能だ。
問題は群れをなして行動することにある。
非常に繁殖能力が高いため、一つの群れは少なくとも十匹を超える。
時には数百匹、数千匹といった規模の群れもあるという。
そうなるとその戦力は一国の軍隊に相当する。
そのため、扉の向こうにどれほどのゴブリンがいるかは分からないが、十分に危険といえた。
リアはネンコの手早くその旨を伝え、一刻も早くこの場から去ることを提案する。
ネンコは相槌を打ちならがリアの話に耳を傾けていたが、話が一段落すると分かったと呟いた。
リアはネンコが納得してくれたことに感謝する。
「じゃあ、戻って……」
「行ってくる」
言うが早いかネンコは扉を蹴破った。
呆然とするリアにネンコは声をかける。
「お前はそこにいろ」
扉がはじけ飛び、中の様子が明らかになる。
中は想像した以上に広く、二十匹程のゴブリンが焚き火を囲んで思い思いの格好でくつろいでいた。
リアの話通りの容姿をしており、大半が上半身裸で腰に申し訳程度に布を巻きつけている。
ゴブリンたちは突然のことに身動きさえ取れない様子だった。
次の瞬間、一番扉の近くにいたゴブリンが吹き飛んだ。
飛ばされたゴブリンは洞窟の壁に叩きつけられ、奇妙な声を上げてそのまま動かなくなった。
何事かと立ち上がったゴブリンも真上に吹き飛ばされる。
その体は大きく宙を舞い、頭から地面に落ちる。
頭蓋骨が砕ける嫌な音がして、そのゴブリンも絶命した。
その後もゴブリンたちは成すすべなく吹き飛ばされ続けた。
彼らは自分たちを攻撃し続ける姿の見えない侵入者を必死に探すがその目に捉えることができない。
正体が分かっているリアでさえもその姿は捉えきれていなかったので、ゴブリンたちが独りでに吹き飛んでいるようにしか見えない。
速過ぎるのだ。
ただでさえ体が小さく見つけるのが困難な上に、異常な速度で移動しているため、相当の力量を持つ熟練の戦士でもない限りその攻撃を見切ることは不可能だろう。
その後もネンコの攻撃は休まることなく続き、あっという間にゴブリンの数は残り四匹ほどになった。
ネンコの活躍ぶりにリアが安堵しかけた時、部屋の一番奥にいたゴブリンが何か粉のようなものを振りまいた。
そして、口をもごもごと動かしながら何か言葉を発する。
(魔法!!)
岩陰から様子を見ていたリアは身を固くする。
ゴブリンの紡ぐ魔法は、リアの目から見ても未熟なものであったが、どうやら成功したようだった。
唱えられた魔法は『誘眠』。
蝶の鱗粉を触媒として、周囲の生物を眠りへと誘う魔法だ。
魔法としては低級のものだが、その実用性は高い。
何しろ如何なる状況であれ、抵抗できなければ眠ってしまうのだ。
戦いの最中にこの魔法に掛かることは死と同義であろう。
完全に眠り込んだ相手を殺すことくらい子供にでもできるのだから。
しかし、リアは魔法が発動したのをその身で感じても、あまり脅威を感じてはいなかった。
ゴブリンから感じられる魔力は非常に弱いものであったし、あのデタラメな力を持ったネンコが抵抗できないはずはないと信じていたからだ。
魔法が効果を現し、範囲内にいたゴブリンたちの動きが緩慢になる。
うち二匹が抵抗に失敗したらしく膝から崩れ落ちるようして倒れると動かなくなった。
抵抗に成功した一匹も意識が朦朧とするのか、しきりに頭を振っている。
魔法を使ったゴブリンは眠ってしまった仲間を足蹴にして起こしていく。
リアはようやく理解した。
ネンコが魔法に掛かってしまったことを。
暴風のように激しかった攻撃はピタリと止み、部屋の中で動いているのは生き残ったゴブリンたちしかいない。
リアからは見えないが、おそらく部屋のどこかで眠ってしまっているのだろう。
リアの鼓動が早くなる。
(ネンコさんが危ない!)
まだゴブリンたちは今回の騒動の主を見つけることができないでいるようだった。
しかし、いずれは気づかれてしまうかもしれない。
たかが一匹のネズミがここまでのことを仕出かしたとは考えないかもしれないが、少なくとも今この部屋にいる生き物を全て殺そうとするだろう。
リアは焦りを感じながらも、この後の行動について考えを巡らせた。
一方でゴブリンたちも焦っていた。
敵が魔法に掛かったことは間違いないのだが、どこを探してもそれらしき姿がないためだ。
魔法の効果は永遠ではない。
敵はいずれ目を覚まし、また悪夢のような攻撃を仕掛けてくるだろう。
そうなる前に見つけてとどめを刺さなければならなかった。
ほどなくして、ゴブリンの一匹が焚き火の近くに仰向けに転がっているネズミに気づいた。
ゴブリンは恐る恐る近づくと、足でネズミをつついてみる。
反応はなく、しっかり眠っているようだ。
そのゴブリンは群れのリーダーである魔術師を呼ぶため、顔を上げる。
その時、拳ほどの岩がゴブリンめがけて飛んできた。
突然のことにゴブリンは反応できなかったが、岩は避けるまでもなく近くの地面に落ちて乾いた音を立てた。
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