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2 君はいつかかならず僕を必要とする
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僕は彼女と恋人だった期間、二店のレストランで働いていた。
二店同時にではない。二年と少しという月日の間に異動があったのだ。
そのうちの一店は竹林に囲まれた古民家を改装したフレンチ・レストランだった。
おそらく度々、登場するであろうこのレストランの名前は「曾右衛門邸」という。
いま思えば、僕が精神的に病まずに生きていられる理由の一つは、この店でのある事件を乗り越えたお陰かもしれない。
彼女に出会うもっと前のお話だ。
感謝はしている。もう恨んでもいない。しかし、書かなければならない。なぜ ? 整理だからだ。
僕がその店で働き始めたとき、キッチンで"のりこ"という女の子が働いていた。
ぱっとみて美人というタイプではないが、色白でちっちゃくて、不思議な空気をもった娘だった。
僕は恋に落ちた。
華奢でありながら、酷しい状況に無表情で耐え、そしてたまに魅せる八重歯の笑顔に激しく惹かれた。
料理長は気性の激しい人だった。
悪人ではなかったが、何か気に入らないことがあると、のりこに怒鳴り散らしていた。
僕は彼女を守りたかった。
だから当然のことのように料理長と敵対する形になった。
だからといって、のりこが僕に感謝をしたり、好意を示すというようなことはなかった。
おそらく原因は僕にある。
彼女と二人で曾右衛門邸に泊ったことがある。
特別な理由はない。大雪で電車が止り、帰ることができなくなったのだ。
そのときに僕は少し離れたところで寝てた彼女を抱きしめた。
セックスがしたかったわけではない。ただ、そうすることを抑えられなかった。
彼女は逃げることもしなかったが、ただだだ、朝まで身体を硬くしていた。
その晩から僕への彼女の口数は余計に少なくなった。
ただ、そのときの僕は彼女に好かれているかどうかはそんなに重要ではなかった。
ただ、彼女を守りたかったのだ。嵐に打たれたまま、静かに晴れた空を待つような目をした彼女を。
文章にするとよく分かる。なにが ? 矛盾だ。
守りたかっただけといいながら僕は彼女に告白をしている。
付き合ってほしいと彼女の目をみている。
彼女は無表情のまま、はっきり拒絶を口にした。
僕は恋に落ちて、溺れていた。
拒絶されることくらい、はじめから予想できていた。それでも伝えずにはいられなかったのだ。
そして、拒絶を示した女性にこれほど、確信めいた台詞をささやいたことは、それまで一度もなかった。
僕は彼女の頬に手をふれ言ったのだ。
「君はいつかかならず僕を必要とする」と。
そして、溺れた僕の矛盾にまみれた暴力はやがて僕自身を、粉々にすることになる。
二店同時にではない。二年と少しという月日の間に異動があったのだ。
そのうちの一店は竹林に囲まれた古民家を改装したフレンチ・レストランだった。
おそらく度々、登場するであろうこのレストランの名前は「曾右衛門邸」という。
いま思えば、僕が精神的に病まずに生きていられる理由の一つは、この店でのある事件を乗り越えたお陰かもしれない。
彼女に出会うもっと前のお話だ。
感謝はしている。もう恨んでもいない。しかし、書かなければならない。なぜ ? 整理だからだ。
僕がその店で働き始めたとき、キッチンで"のりこ"という女の子が働いていた。
ぱっとみて美人というタイプではないが、色白でちっちゃくて、不思議な空気をもった娘だった。
僕は恋に落ちた。
華奢でありながら、酷しい状況に無表情で耐え、そしてたまに魅せる八重歯の笑顔に激しく惹かれた。
料理長は気性の激しい人だった。
悪人ではなかったが、何か気に入らないことがあると、のりこに怒鳴り散らしていた。
僕は彼女を守りたかった。
だから当然のことのように料理長と敵対する形になった。
だからといって、のりこが僕に感謝をしたり、好意を示すというようなことはなかった。
おそらく原因は僕にある。
彼女と二人で曾右衛門邸に泊ったことがある。
特別な理由はない。大雪で電車が止り、帰ることができなくなったのだ。
そのときに僕は少し離れたところで寝てた彼女を抱きしめた。
セックスがしたかったわけではない。ただ、そうすることを抑えられなかった。
彼女は逃げることもしなかったが、ただだだ、朝まで身体を硬くしていた。
その晩から僕への彼女の口数は余計に少なくなった。
ただ、そのときの僕は彼女に好かれているかどうかはそんなに重要ではなかった。
ただ、彼女を守りたかったのだ。嵐に打たれたまま、静かに晴れた空を待つような目をした彼女を。
文章にするとよく分かる。なにが ? 矛盾だ。
守りたかっただけといいながら僕は彼女に告白をしている。
付き合ってほしいと彼女の目をみている。
彼女は無表情のまま、はっきり拒絶を口にした。
僕は恋に落ちて、溺れていた。
拒絶されることくらい、はじめから予想できていた。それでも伝えずにはいられなかったのだ。
そして、拒絶を示した女性にこれほど、確信めいた台詞をささやいたことは、それまで一度もなかった。
僕は彼女の頬に手をふれ言ったのだ。
「君はいつかかならず僕を必要とする」と。
そして、溺れた僕の矛盾にまみれた暴力はやがて僕自身を、粉々にすることになる。
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