岐れ路

nejimakiusagi

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3 おそらくそれは本能のようなもの

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季節もおぼえていない。ただ、酷く周りが静かで暗かった気がする。

「おまえ、××× に告白しただろ」

なんで、あんたがそれを知っている。なぜ、あんたが。

周りの景色が歪んで溶けていく。

それから少ししてだった。

のりこが朝方に料理長の車からおりてくるところを何人ものスタッフが何回も目撃するようになったのは。

退勤するときも彼女は料理長の車に乗る。

誰もそれに対して質問はしない。しかし彼女も特に隠すつもりもないようだった。

彼女はナイフを手に入れたのだ。

そしてそれを振りかざす。無表情に。淡々と。

さて、どうしたらいいんだ。

両手を広げて、庇っていたはずの女の子に後ろから心臓にナイフをつきつけられているのだ。

そして、目の前には本来敵にしなくてよかったはずの巨人が僕を潰そうとしているのだ。

僕はどうしたらいいんだ。

絶望で身体が冷たくなるのを感じた。
憎しみで身体が熱くなるのを感じた。

出来ることなら彼女のナイフを奪って二人を滅多刺しにしたかった。

それは、当時の僕が心の底から思っていたことだ。

しかし、僕はナイフを奪うことはできず、ただ刺された。

たくさんの血が流れた。しかし、死ぬこともしなかった。

僕はその場所でナイフが刺さったまま生きぬいたのだ。

そして、今の僕がある。

なぜ、今の僕がのりこを憎んでいないのか。

理解したのだ。彼女のやり方は正しかったことを。

彼女は生きることに必死だった。

あとから聞いた話だ。

彼女はもともと、裕福な家の女の子だった。
しかし、当時、彼女の父親の会社が倒産し、自分の生きていく分の金は(もしくはそれ以上だったのかもしれない)自分で稼がなければならなかったのだ。

彼女は考えただろう。

どうしたら壊れることなく、この場所で生きることができるのか。

おそらくそれは本能のようなものだったのかもしれない。

そして、彼女は僕を殺すことにした。

一度、そのように決めたら、微塵も迷ってはいけない。

一欠片の優しさも含ませてはいけないのだ。

彼女はそのとおりにしてくれた。

ナイフを研ぎ、心臓を狙い、一息に刺したのだ。

だから傷が綺麗なのだ。綺麗に治るのだ。

人を傷つけるときは、そのように傷つけるべきなのだ。

優しさや同情で錆びたナイフを使われたら、いつまでも傷が残る。

僕は、きれいに塞がった傷を撫でながら想う。

心臓にナイフが刺さったまま生き延びたのだから、恐れるものは、そんなに多くないと。

そして、何かしらで膿んだ傷痕を見つめながら想う。

さて、どうしたらいいんだ。と。















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