岐れ路

nejimakiusagi

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6 一つの事象でさえも完璧に信じることはできない

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いつだって自分が、こう行動するべきだ、と思うことはしている。
しかし、後々思い返してみるとそれが正しい選択だったのか、いつも分からなくなる。

それは厄介といえば厄介だ。

まるで、新人に任せてしまった書類仕事のようなものだ。

見直せばミスがある。

数値は本来の場所から大幅にずれてしまっている。もう修正が効かないほどに。
そして、すでにどこをどのように間違えたのかは分からない。
それは、一つの事象でさえも完璧に信じることはできないのだ。

ニュージーランドから帰国し、ドバイへ発つまで日本で過ごした二週間に僕はひとりの女の子と寝た。

彼女は曾右衛門邸で働いていたときの後輩で“ほのか“という名前だった。

小動物のような瞳と身長、それに不釣り合いな大きな胸が素敵な女の子で、一緒に働いていたときは僕らがそうなるなんて思いもしなかった。

彼女は誰にでも、生意気に、可愛く、適度に愛想よく振る舞っていたけれども、逆にそれ以上は誰にも踏み込ませないようなクールな雰囲気もあった。

そんな彼女に魅力は感じても、僕はどちらかといえばそういう複雑なタイプの女の子には縁がないと思っていたし、さらにいえば、僕らには四人兄弟の長男と末っ子ほどの年の差があった。

だから、どこにでもあるような、面倒をみるのが好きな先輩と従順な(もしくは従順なフリをするのが得意な)後輩という関係以外に僕らが行き着くところなどなかったのだ。

それがなぜそうなったのか?

一つは、おそらくバスの星座占いのせいだ。

「一位は魚座のあなた。勝負をするなら今日です。」

小雨の景色と交互に眺めていた電光板掲示板に、そんな結果が浮かんでいた。

彼女と待ち合わせをしていた横浜駅に向かうために乗っていたそのバスは、僕が曾右衛門邸で働いていた頃、毎朝かならず乗っていたバスだった。
しかし、僕が記憶をしているかぎり、運転席の背中に配置されたその電光板に、魚座の一位が表示されたことは、それまで一度もなかったと思う。

ニュージーランドから帰った僕は海外留学に興味があるという、ほのかの相談にのる約束をしていた。

横浜駅の西口広場に到着すると、冬の雨の匂いと自分のセーターに染みたフレグレンスの香りを同時に吸い込みながら、僕はそわそわした気分になった。

おそらく、さっきの占いの結果のせいだろう。あるいは僕は人混みから待ち合わせの相手を探すときはいつもこんな気分になるのかもしれなかった。

急に後ろから腕をぎゅっと捕まれた。

びっくりして振り向くと、ほのかがそこにいた。

「なんか、そこで変な人に話しかけられてすごい恐かった...。」

おそらく、彼女は本当にただそれが恐かっただけなのだろう。
しかし、そんな風に動揺してる彼女をみるのは僕は初めてだったし、そんな風に彼女に身体の一部を触れられるのも初めてだった。

言うまでもなく、僕はもっとそわそわした気分になった。






















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