岐れ路

nejimakiusagi

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9 偶然に拾った眼鏡で幸せが視えたのなら

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僕が彼女に関して、なにかS・O・Sのようなものを感じてたのかもしれない、というのはあくまで今になって想うことだ。

その日の僕は舞い上がっていたに違いない。
もしかしたら、ほんの少し宙に浮いていたかもしれない。

だって、とても素敵な女の子が自分の部屋のベッドに腰掛けてテレビを観ているのだ。

今はシャワーを浴びた後にしか、かけることのない黒ぶち眼鏡の奥の瞳は獣のようだったことだろう。(現在はコンタクト・レンズで活動するようになった)

しかし、結果的にいえば僕はその夜に彼女を抱いてはいない。

二人でベッドに潜ったあと、彼女は迷いながら切り出した。

「嫌なんじゃないんです。ただ...前の彼ともこんなふうに簡単に関係をもってしまって...それで辛いことがたくさん起きて...それで...最近、お別れして...色々なことがグチャグチャになって...それで...」

泉は泣いていた。

僕は「ふうっ」と短いため息を漏らした。

こんなのってずるい。この僕が泣いている女の子に欲望を押し付けたりできるわけがないじゃあないか。

僕はひとまず自分の性欲はテレビの横にでも置いておくことにして、彼女の髪を撫でてあげることにした。

だってそうだろう。どんな状況だって泣いている女の子って最優先だ。
明日が早朝の5時起きだろうが、試験に遅刻しそうだろうが、いいわけをして通り過ぎてはいけないことってあるのだ。

僕は彼女に泣きやんでもらうために、ひたすら彼女の「辛いこと」を聞き、なんとか元気になってくれそうな言葉を選んでゆっくりと伝えた。

きっと深夜の3時頃まで髪を撫でながらそんなことをしていたと思う。

泣きやんだあとも彼女は納得はできないの、と訴えるような腫れぼったい目をしていた。それはそうだろう。そういうことって納得することじゃあない。
「辛いこと」に対してやれることって乗り越えるか忘れることくらいだ。

そしてたぶん"乗り越える"って"忘れる"の前向きな捉え方だって僕は考えている。

ただ、そのときに僕の疲れて果てた喉から出たのはそんなことではなかった。

なんでそんなことを言ったのか自分でもよく分からない。

「僕が必要?」

...泉と目が合う。

時計の針の音がよく聴こえる...それくらい静かな時間だった。

僕はまた「ふうっ」と短いため息を漏らした。

女の子に答えを求めるのってずるいよな。

「...僕は君の家族でもなければ友人でもない...下手したらその対極にすらいるかもしれない。なんといってもほぼ見ず知らずの君を部屋に連れ込んでるくらいだから...」

「でも、そんな男が君の不安や辛いことをもし取り除けたら...それって少し素敵じゃない?」

彼女はじっと目を合わせたままだ。きっとどうしていいか分からないのだ。

僕は手を伸ばして、勉強机の上に放った黒ぶち眼鏡を取った。そして、彼女にかけた。

「もし、道で偶然に拾った眼鏡で幸せが視えたのなら、それってとってもラッキーなことじゃないかな?」

彼女はそれには同意だったようで、疑り深そうにこくん、と頷いた。

これが僕らの始まりだったと云えるだろう。

あくまで恋人たちに便宜上に“始まり“と呼ぶ地点が必要ならの話しではあるが。

















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