9 / 22
9 偶然に拾った眼鏡で幸せが視えたのなら
しおりを挟む
僕が彼女に関して、なにかS・O・Sのようなものを感じてたのかもしれない、というのはあくまで今になって想うことだ。
その日の僕は舞い上がっていたに違いない。
もしかしたら、ほんの少し宙に浮いていたかもしれない。
だって、とても素敵な女の子が自分の部屋のベッドに腰掛けてテレビを観ているのだ。
今はシャワーを浴びた後にしか、かけることのない黒ぶち眼鏡の奥の瞳は獣のようだったことだろう。(現在はコンタクト・レンズで活動するようになった)
しかし、結果的にいえば僕はその夜に彼女を抱いてはいない。
二人でベッドに潜ったあと、彼女は迷いながら切り出した。
「嫌なんじゃないんです。ただ...前の彼ともこんなふうに簡単に関係をもってしまって...それで辛いことがたくさん起きて...それで...最近、お別れして...色々なことがグチャグチャになって...それで...」
泉は泣いていた。
僕は「ふうっ」と短いため息を漏らした。
こんなのってずるい。この僕が泣いている女の子に欲望を押し付けたりできるわけがないじゃあないか。
僕はひとまず自分の性欲はテレビの横にでも置いておくことにして、彼女の髪を撫でてあげることにした。
だってそうだろう。どんな状況だって泣いている女の子って最優先だ。
明日が早朝の5時起きだろうが、試験に遅刻しそうだろうが、いいわけをして通り過ぎてはいけないことってあるのだ。
僕は彼女に泣きやんでもらうために、ひたすら彼女の「辛いこと」を聞き、なんとか元気になってくれそうな言葉を選んでゆっくりと伝えた。
きっと深夜の3時頃まで髪を撫でながらそんなことをしていたと思う。
泣きやんだあとも彼女は納得はできないの、と訴えるような腫れぼったい目をしていた。それはそうだろう。そういうことって納得することじゃあない。
「辛いこと」に対してやれることって乗り越えるか忘れることくらいだ。
そしてたぶん"乗り越える"って"忘れる"の前向きな捉え方だって僕は考えている。
ただ、そのときに僕の疲れて果てた喉から出たのはそんなことではなかった。
なんでそんなことを言ったのか自分でもよく分からない。
「僕が必要?」
...泉と目が合う。
時計の針の音がよく聴こえる...それくらい静かな時間だった。
僕はまた「ふうっ」と短いため息を漏らした。
女の子に答えを求めるのってずるいよな。
「...僕は君の家族でもなければ友人でもない...下手したらその対極にすらいるかもしれない。なんといってもほぼ見ず知らずの君を部屋に連れ込んでるくらいだから...」
「でも、そんな男が君の不安や辛いことをもし取り除けたら...それって少し素敵じゃない?」
彼女はじっと目を合わせたままだ。きっとどうしていいか分からないのだ。
僕は手を伸ばして、勉強机の上に放った黒ぶち眼鏡を取った。そして、彼女にかけた。
「もし、道で偶然に拾った眼鏡で幸せが視えたのなら、それってとってもラッキーなことじゃないかな?」
彼女はそれには同意だったようで、疑り深そうにこくん、と頷いた。
これが僕らの始まりだったと云えるだろう。
あくまで恋人たちに便宜上に“始まり“と呼ぶ地点が必要ならの話しではあるが。
その日の僕は舞い上がっていたに違いない。
もしかしたら、ほんの少し宙に浮いていたかもしれない。
だって、とても素敵な女の子が自分の部屋のベッドに腰掛けてテレビを観ているのだ。
今はシャワーを浴びた後にしか、かけることのない黒ぶち眼鏡の奥の瞳は獣のようだったことだろう。(現在はコンタクト・レンズで活動するようになった)
しかし、結果的にいえば僕はその夜に彼女を抱いてはいない。
二人でベッドに潜ったあと、彼女は迷いながら切り出した。
「嫌なんじゃないんです。ただ...前の彼ともこんなふうに簡単に関係をもってしまって...それで辛いことがたくさん起きて...それで...最近、お別れして...色々なことがグチャグチャになって...それで...」
泉は泣いていた。
僕は「ふうっ」と短いため息を漏らした。
こんなのってずるい。この僕が泣いている女の子に欲望を押し付けたりできるわけがないじゃあないか。
僕はひとまず自分の性欲はテレビの横にでも置いておくことにして、彼女の髪を撫でてあげることにした。
だってそうだろう。どんな状況だって泣いている女の子って最優先だ。
明日が早朝の5時起きだろうが、試験に遅刻しそうだろうが、いいわけをして通り過ぎてはいけないことってあるのだ。
僕は彼女に泣きやんでもらうために、ひたすら彼女の「辛いこと」を聞き、なんとか元気になってくれそうな言葉を選んでゆっくりと伝えた。
きっと深夜の3時頃まで髪を撫でながらそんなことをしていたと思う。
泣きやんだあとも彼女は納得はできないの、と訴えるような腫れぼったい目をしていた。それはそうだろう。そういうことって納得することじゃあない。
「辛いこと」に対してやれることって乗り越えるか忘れることくらいだ。
そしてたぶん"乗り越える"って"忘れる"の前向きな捉え方だって僕は考えている。
ただ、そのときに僕の疲れて果てた喉から出たのはそんなことではなかった。
なんでそんなことを言ったのか自分でもよく分からない。
「僕が必要?」
...泉と目が合う。
時計の針の音がよく聴こえる...それくらい静かな時間だった。
僕はまた「ふうっ」と短いため息を漏らした。
女の子に答えを求めるのってずるいよな。
「...僕は君の家族でもなければ友人でもない...下手したらその対極にすらいるかもしれない。なんといってもほぼ見ず知らずの君を部屋に連れ込んでるくらいだから...」
「でも、そんな男が君の不安や辛いことをもし取り除けたら...それって少し素敵じゃない?」
彼女はじっと目を合わせたままだ。きっとどうしていいか分からないのだ。
僕は手を伸ばして、勉強机の上に放った黒ぶち眼鏡を取った。そして、彼女にかけた。
「もし、道で偶然に拾った眼鏡で幸せが視えたのなら、それってとってもラッキーなことじゃないかな?」
彼女はそれには同意だったようで、疑り深そうにこくん、と頷いた。
これが僕らの始まりだったと云えるだろう。
あくまで恋人たちに便宜上に“始まり“と呼ぶ地点が必要ならの話しではあるが。
0
あなたにおすすめの小説
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜
来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。
望んでいたわけじゃない。
けれど、逃げられなかった。
生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。
親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。
無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。
それでも――彼だけは違った。
優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。
形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。
これは束縛? それとも、本当の愛?
穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。
※この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる