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10 いっそ前足にでも退化してしまえばいいのだ
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僕は、ドバイの僕の白い部屋のベッドに腰を下ろしている。
窓の外には相変わらず数羽の鳩がいて、空は風に舞う砂塵が目に捉えられるほどに白んでいた。
部屋の隅の勉強机には、カエルの着ぐるみを着た男が脚を組んで座っている。
「ねえ、なぜこうなってしまうのだと思う?」
僕は彼に尋ねる。
「なぜ彼女は僕の連絡先を消したんだと思う?」
彼は真っ赤に充血した目でボーッと宙を睨んでいる。口がパックリと裂けて開いているものだから、その貌は滑稽にも不気味にも見ることができる。
「いなかったことにしたかったんじゃない?」
カエルが答える。
闇が溶け朝を迎えたとき、ほのかはとても哀しげな表情をしていた。
僕もとても哀しい気持ちになる。
こうなったことを後悔しているんだろうか?
僕が傷つけたのだろうか?
たしかに自分勝手だったかもしれない。強引でもあっただろう。でも彼女を救いたいという気持ちも其処に確かにあったのだ。
僕の両手はなんのために宙に浮いている?
誰も抱きしめられないのなら...誰かを傷つけるだけなら、いっそ前足にでも退化してしまえばいいのだ。
カエルのように地面にくっつけておけばいい。
生気を失ったような彼女になにも言うことが出来ず、「また連絡する」とだけ囁いて、彼女の部屋をあとにした。
「いなかったことにしたかった?」
彼のセリフをそのまま繰り返す。
「中途半端に優しい奴はいない方がマシだって思うこともあるだろう。中途半端に優しい奴と中途半端なことをしたことが許せないってこともありうるんじゃないか?女の気持ちはわからないがね。」
「いなかったことに...なかったことにしたかったんだよ。」
そうだ。僕自身がよく知ってるんじゃないか。
ほのかにメールを送ったときに...その返信を読んだときに感じたことだった。
家に帰ってすぐに彼女にメールを送った。もちろん心配だったし、できることなら日本を発つ前に二人の間の数値を元の値にもどしたかった。
とにかく、もう一度会って話したかった。
「×××さんは、私にもう一度会ってどうしたいんですか?」
僕は何がしたかったのだろう...?
「ドバイに発つあなたに私は何をしてもらえるの?」
そう、僕にはできることなどなかったのだ。
数か月後、彼女も海外に発ったらしい。僕の紹介したエージェントで。彼女自身の生活にけじめをつけるために。そして、しばらくして彼女の連絡先が消えていることに気がついた。
「あんなことするべきじゃあなかったんだな...」
僕はもう一度カエルに尋ねる。
カエルは立ちあがり、ドアに手をかけ、部屋を出ながら最後に振り返った。
「まあ、可愛い9つ下の女の子とヤれたんだ。結果オーライだろ。おまえは自分をなんだと思ってるんだ?聖者かおまえは?」
真っ赤に裂けた口からケラケラと嗤い声を漏らしながら、カエルは部屋から出ていった。
僕は閉められたドアをしばらく眺めていた。
もう、とうに闇は溶けて、朝日が窓から差し込んでいる。
窓の外には相変わらず数羽の鳩がいて、空は風に舞う砂塵が目に捉えられるほどに白んでいた。
部屋の隅の勉強机には、カエルの着ぐるみを着た男が脚を組んで座っている。
「ねえ、なぜこうなってしまうのだと思う?」
僕は彼に尋ねる。
「なぜ彼女は僕の連絡先を消したんだと思う?」
彼は真っ赤に充血した目でボーッと宙を睨んでいる。口がパックリと裂けて開いているものだから、その貌は滑稽にも不気味にも見ることができる。
「いなかったことにしたかったんじゃない?」
カエルが答える。
闇が溶け朝を迎えたとき、ほのかはとても哀しげな表情をしていた。
僕もとても哀しい気持ちになる。
こうなったことを後悔しているんだろうか?
僕が傷つけたのだろうか?
たしかに自分勝手だったかもしれない。強引でもあっただろう。でも彼女を救いたいという気持ちも其処に確かにあったのだ。
僕の両手はなんのために宙に浮いている?
誰も抱きしめられないのなら...誰かを傷つけるだけなら、いっそ前足にでも退化してしまえばいいのだ。
カエルのように地面にくっつけておけばいい。
生気を失ったような彼女になにも言うことが出来ず、「また連絡する」とだけ囁いて、彼女の部屋をあとにした。
「いなかったことにしたかった?」
彼のセリフをそのまま繰り返す。
「中途半端に優しい奴はいない方がマシだって思うこともあるだろう。中途半端に優しい奴と中途半端なことをしたことが許せないってこともありうるんじゃないか?女の気持ちはわからないがね。」
「いなかったことに...なかったことにしたかったんだよ。」
そうだ。僕自身がよく知ってるんじゃないか。
ほのかにメールを送ったときに...その返信を読んだときに感じたことだった。
家に帰ってすぐに彼女にメールを送った。もちろん心配だったし、できることなら日本を発つ前に二人の間の数値を元の値にもどしたかった。
とにかく、もう一度会って話したかった。
「×××さんは、私にもう一度会ってどうしたいんですか?」
僕は何がしたかったのだろう...?
「ドバイに発つあなたに私は何をしてもらえるの?」
そう、僕にはできることなどなかったのだ。
数か月後、彼女も海外に発ったらしい。僕の紹介したエージェントで。彼女自身の生活にけじめをつけるために。そして、しばらくして彼女の連絡先が消えていることに気がついた。
「あんなことするべきじゃあなかったんだな...」
僕はもう一度カエルに尋ねる。
カエルは立ちあがり、ドアに手をかけ、部屋を出ながら最後に振り返った。
「まあ、可愛い9つ下の女の子とヤれたんだ。結果オーライだろ。おまえは自分をなんだと思ってるんだ?聖者かおまえは?」
真っ赤に裂けた口からケラケラと嗤い声を漏らしながら、カエルは部屋から出ていった。
僕は閉められたドアをしばらく眺めていた。
もう、とうに闇は溶けて、朝日が窓から差し込んでいる。
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