岐れ路

nejimakiusagi

文字の大きさ
12 / 22

12 列車を乗り換える、もしくは線路を新しく築く

しおりを挟む
なぜ、そもそも僕は去年、ニュージーランドにいたのか。
もちろん僕がそれを選択したからではあるのだが、選択をするのにも理由は必要であるはずだ。特にそれが仕事を一度辞めて、海外に渡航したりする場合には。

人生において、僕は列車を乗り換える、もしくは線路を新しく築く、そのどちらかをしたかったのだ。

それほど28歳の頃の僕にはたくさんのことが起きた。いや、28歳の、という言い方は適切ではないかもしれない。きっとそれは質の悪い病のように何年も前から僕を少しずつ蝕んでいたのだろう。あるいはその病を加速させていたのは僕自身だったのかもしれない。

そして言うまでもなく僕はボロボロに傷ついていた。
選択はしたのではなく、せざるおえなかったのだと思う。とにかく僕はもう"そこ"にいるわけにはいかなかったのだ。

そのことに関しては後々ゆっくりと語っていこう。

今、思い出すべきなのは、兆候についてだ。泉を失ったあとの僕にはなにかが起こったか?そしてその前になにか兆候のようなものはあったか。

はっきりいうと、ニュージーランドで僕はたくさんの女の子とデートをした。

なぜ、そうなったのか?

僕の年齢の男で海外に勉強に来ているというのが、とても珍しいということが一つの理由になるかもしれない。

あくまで僕の持論だが、まともな29歳の男性は、とつぜん仕事を辞めて、海外に勉強をしにきたりしないものだ。

結婚をしているひとも少なくないだろうし、そうでなくても積み上げてきたキャリアが特定の会社にある場合が多いからだ。

しかし、女性はどうかというとそうでもない。
僕と似たような年齢の女性が、海外渡航を決心する例は世間に溢れているようだ。

これは僕の考えではなく、出会った女性たちから直に聞いた話しだが、彼女たちは結婚というイベントと、そのあとに訪れるであろう人生が姿を明確に現す前に、仕事のキャリアなんかよりも、とにかく貪欲に人生を楽しみたいのだそうだ。

僕と同じように、様々な形で傷を負い、なにかを失い、日本を飛びだしてきたものもいたし(やはりこのケースは多いようだった)、中には、他人からすれば幸福のように見える状況を自ら捨て去り、新しい人生を見つけにきたというものもいた。

何を伝えたいかというと、いずれにせよ、彼女たちはそれなりに成熟した大人の女性たちなのだ。
そして同時に、期待をバックパックにたっぷり詰め込んだ海外旅行の初心者でもある。

20歳そこそこの大学生の男の子や、英語ではディテールを伝えることが難しいキウイの男性たちでは(ニュージーランドでは現地の人々をキウイと呼ぶ)会話をもて余すことが多いというわけだ。

そんなわけで、僕はよく彼女たちとデートをした。

しかし、未来において、彼女たちのほとんどは、ただ僕を通り過ぎていくだけだろう。そして、僕も彼女たちを引き留めたりはしない。

解っているのだ。

悲しくても大抵のケースは僕らの親しさは一時的なものなのだ。

もちろん、未来に日本でまた再会できることもあるだろうし、それはとても素敵なことだと思う。

しかし、所詮は海外という共通の空間と時間を共有し、またそこから生まれる孤独感と戦うために作られた幻影に操られていることは否めない。

しかし、ニュージーランドのことを思い出すとき、僕の記憶の中にファミリーの知恵とアンナ以外で色褪せない女の子が一人だけいる。

彼女の名前は「優実」という。
僕の妹と同じ歳で、そして同じ名前だ。

ニュージーランドで同じベッドで寝たのは彼女だけだった。












しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合短編集

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

病弱な彼女は、外科医の先生に静かに愛されています 〜穏やかな執着に、逃げ場はない〜

来栖れいな
恋愛
――穏やかな微笑みの裏に、逃げられない愛があった。 望んでいたわけじゃない。 けれど、逃げられなかった。 生まれつき弱い心臓を抱える彼女に、政略結婚の話が持ち上がった。 親が決めた未来なんて、受け入れられるはずがない。 無表情な彼の穏やかさが、余計に腹立たしかった。 それでも――彼だけは違った。 優しさの奥に、私の知らない熱を隠していた。 形式だけのはずだった関係は、少しずつ形を変えていく。 これは束縛? それとも、本当の愛? 穏やかな外科医に包まれていく、静かで深い恋の物語。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

処理中です...