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18 ストロベリー・クリームまみれのTシャツと桃太郎のお面を身につけて
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そして、僕はいよいよ「彼」と対面することとなる。
それは、桃花の誕生日パーティーの日だった。
彼女は相変わらず僕には理解のできない性格をしていて、誕生日は人に祝ってもらうのを待っているものではなく、自分自身でパーティーを企画して、友達を大勢招待して楽しむものだという考えだそうだ。
まあ、外国で生きていくには、このくらいの自己主張の強さは必要かもしれない。
手作りの招待状をスタッフ全員に配り、寮のキッチンを当日の三日も前からピンクの風船でいっぱいに飾っているのを見ると、これは確かに心からお祝いしてあげなければいけないな、という気がしてくる。
世の中には色々な人が、色々な方法で自らの人生を楽しみ、幸せになろうとしているのだ。そして、自らその権利を主張できる人間は確かに強い。彼女を見ているとそれを実感させられる。
不思議な心配事に悩まされてはいるものの、なんだかんだ僕もこのパーティーは楽しみにしていた。
竜太郎に感じていた変なわだかまりも解消したし、基本的にスタッフのことはみんな好きなので、たまには大人数で集まって大騒ぎするのも悪くない。
僕はその日、閉店のシフトだったのでパーティーに到着したときには午前2時を回っていた。先に飲んでいた面子に煽られ、疲労した身体に一気にウイスキー・コークを流し込んだ。
これが良くなかったようで、一時間も経たない内にハリケーンのような酔いに襲われ、立っているのか難しくなってしまった。
ピンクの風船で飾られた空間、苺のバースデー・ケーキ、桃花が準備をしたお面を被ってふざけているスタッフの姿、すべてがグルグルと回転していた。
今夜は朝まで騒ぐと桃花が宣言していたので、少し休憩をして、また参加することにしよう。
僕はほんの数時間、自分の部屋のベッドで眠りに落ちた。意識がなくなる直前、耳元で誰かが吐息を吹きかけるように嗤ったような気がしたが、僕は構わなかった。
目が覚めた僕は、みんなが騒いでいるキッチンに向かった。少し頭痛がしたが、このまま朝まで寝てしまうと、抜け出すときに、「仮眠をとるだけだから、必ずもどるから」 と桃花とした約束を破ってしまうことになる。さすがに誕生日パーティーの主役とした約束を破るわけにはいかない。
僕にだってそのくらいの常識はあるのだ。
キッチンの扉を開けると、何が起こったのか、ストロベリー・クリームまみれの顔面と拍手喝采でみんなが迎えてくれた。
仮眠をとるためにパーティーを抜けたことを非難されるかと思ったが、どういうことだろう。
「×××、ずるいよ ! 自分だけ顔を洗ってくるなんて ! 自分から始めておきながら ! 」
ウエイトレスのコたちが笑いながら叫ぶ。
「しかし、サー、やるね !! ルナさんにあんなことするなんて ! 」
ウエイターの奴らもニヤニヤしながら肩を叩いてくる。
「×××さん、今日はどうしたんですか?随分、陽気じゃあないですか」
竜太郎はほんの少し困ったような顔で話しかけてきた。
彼らの言葉と理解が龍のように舞い、こめかみに直撃した。頭の中で花火が暴発したかのように、僕の意識は覚醒し、自分の部屋へと走る。
部屋からキッチンに来るとき・・・すれ違ったお面を被ったままの男。トイレに行くだけのスタッフだと思ったが・・・彼はおそらく僕の部屋へと入っていったのだ。
部屋のドアを開け放つ。
彼は僕のベッドに腰掛けていた。ストロベリー・クリームまみれのTシャツと桃太郎のお面を身につけて。
「そのお面、外しなよ」
僕は自分を落ち着かせるために、わざとゆっくりと言う。
彼もゆっくりと手をお面に伸ばす。
「やあ」
彼は僕が毎朝、歯を磨き、顔を洗うときに、鏡に映る顔とまったく同じ顔をしていた。
それは、桃花の誕生日パーティーの日だった。
彼女は相変わらず僕には理解のできない性格をしていて、誕生日は人に祝ってもらうのを待っているものではなく、自分自身でパーティーを企画して、友達を大勢招待して楽しむものだという考えだそうだ。
まあ、外国で生きていくには、このくらいの自己主張の強さは必要かもしれない。
手作りの招待状をスタッフ全員に配り、寮のキッチンを当日の三日も前からピンクの風船でいっぱいに飾っているのを見ると、これは確かに心からお祝いしてあげなければいけないな、という気がしてくる。
世の中には色々な人が、色々な方法で自らの人生を楽しみ、幸せになろうとしているのだ。そして、自らその権利を主張できる人間は確かに強い。彼女を見ているとそれを実感させられる。
不思議な心配事に悩まされてはいるものの、なんだかんだ僕もこのパーティーは楽しみにしていた。
竜太郎に感じていた変なわだかまりも解消したし、基本的にスタッフのことはみんな好きなので、たまには大人数で集まって大騒ぎするのも悪くない。
僕はその日、閉店のシフトだったのでパーティーに到着したときには午前2時を回っていた。先に飲んでいた面子に煽られ、疲労した身体に一気にウイスキー・コークを流し込んだ。
これが良くなかったようで、一時間も経たない内にハリケーンのような酔いに襲われ、立っているのか難しくなってしまった。
ピンクの風船で飾られた空間、苺のバースデー・ケーキ、桃花が準備をしたお面を被ってふざけているスタッフの姿、すべてがグルグルと回転していた。
今夜は朝まで騒ぐと桃花が宣言していたので、少し休憩をして、また参加することにしよう。
僕はほんの数時間、自分の部屋のベッドで眠りに落ちた。意識がなくなる直前、耳元で誰かが吐息を吹きかけるように嗤ったような気がしたが、僕は構わなかった。
目が覚めた僕は、みんなが騒いでいるキッチンに向かった。少し頭痛がしたが、このまま朝まで寝てしまうと、抜け出すときに、「仮眠をとるだけだから、必ずもどるから」 と桃花とした約束を破ってしまうことになる。さすがに誕生日パーティーの主役とした約束を破るわけにはいかない。
僕にだってそのくらいの常識はあるのだ。
キッチンの扉を開けると、何が起こったのか、ストロベリー・クリームまみれの顔面と拍手喝采でみんなが迎えてくれた。
仮眠をとるためにパーティーを抜けたことを非難されるかと思ったが、どういうことだろう。
「×××、ずるいよ ! 自分だけ顔を洗ってくるなんて ! 自分から始めておきながら ! 」
ウエイトレスのコたちが笑いながら叫ぶ。
「しかし、サー、やるね !! ルナさんにあんなことするなんて ! 」
ウエイターの奴らもニヤニヤしながら肩を叩いてくる。
「×××さん、今日はどうしたんですか?随分、陽気じゃあないですか」
竜太郎はほんの少し困ったような顔で話しかけてきた。
彼らの言葉と理解が龍のように舞い、こめかみに直撃した。頭の中で花火が暴発したかのように、僕の意識は覚醒し、自分の部屋へと走る。
部屋からキッチンに来るとき・・・すれ違ったお面を被ったままの男。トイレに行くだけのスタッフだと思ったが・・・彼はおそらく僕の部屋へと入っていったのだ。
部屋のドアを開け放つ。
彼は僕のベッドに腰掛けていた。ストロベリー・クリームまみれのTシャツと桃太郎のお面を身につけて。
「そのお面、外しなよ」
僕は自分を落ち着かせるために、わざとゆっくりと言う。
彼もゆっくりと手をお面に伸ばす。
「やあ」
彼は僕が毎朝、歯を磨き、顔を洗うときに、鏡に映る顔とまったく同じ顔をしていた。
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