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21 羊の皮の大きさは、それを被る狼の大きさに比例する
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目が覚めると僕は暗闇の中にいた。
人の話し声が聞こえる。扉に目をやったところで、そこが普段僕が住んでいるドバイの白い部屋でないことに気がついた。
そこはニュージーランドで住んでいたフラットの僕と優午が使っているベッドの上だった。
そこで僕はそれが夢の中だとようやく理解する。
これも過去に僕が体験したワンシーンなのだ。
扉を少しずらしてリビングを見ると優午と知恵が身体を寄せてじゃれ合っていた。
その晩の数日前、優午が知恵に二度目の告白をして、晴れて二人はカップルになったのだった。
僕はもちろん嬉しかった。二人のことはどちらも好きだったし、優午にずっと相談をされていた手前、告白に成功してほしいと心から思っていた。
そして、僕は優午に相談をされているときに彼に一つの提案をしていた。
「もしも、おまえが告白に成功したら、フラットを出ていこうと思っているんだ。
ニュージーランドにいる期間は限られているし、日本に帰ったらおまえらは遠距離恋愛になるだろう。二人の時間を大切にさせてやりたいんだけど、どうかな」
しかし、優午はこれを嫌がった。
「オレは今のこの家族みたいな関係が大好きだし、それは知恵とカップルになったとしても何も変わらない。知恵だってそんなことは望まないと思う」と。
本音をいうなら二人の時間を大切にさせてやりたいという優しさの他に、恋人同士になる二人と暮らすことへの心配や煩わしさもあり、そのような提案をしたのだが、優午や知恵が家族のような関係を崩したくないと本気でそう望むのであれば、僕はそれでもいいかな、とそのときは思った。
しかし、その状況が現実化したあと、夜中に二人が身体を寄せあってする囁くような会話は、思いのほか僕の心を乱し、苛立たせた。
しかし、僕は自分の弟や娘みたいに可愛く思ってる彼らにそんな負の感情をぶつけたくはなかった。
だからそんなときはイヤフォンを両耳に押し込み、完全なる眠りがやってくるまで、暗闇の中で椅子に腰かけて音楽を聴き続けたのだった。
暗闇の中、誰もいないはずの広いベッドの上にぼんやりと浮かび上がる影が見えた。
それは羊の着ぐるみを着た彼だった。
これは僕の夢の中だ。彼の姿がはっきりと見える。しかし現実世界においてのこのとき、僕は脳内で彼と会話をしただろうか・・・どうも記憶が曖昧で思い出すことができない・・・。
「やあ」
「ねえ、今はマズくないかい?優午と知恵がすぐそこにいるんだ。君との会話が聞こえてしまうよ」
「分かってないなぁ。二人は君のことなんか気にしちゃあいないさ。今、二人の世界に君なんか存在していないんだよ」
「・・・相変わらず、君は人を傷つける言い方をするね」
「君が分からず屋だからだよ。いつまで羊の皮を被って、好い人を演じるつもりなんだい?」
「羊の皮を被っているのは、まさに君じゃあないか・・・ニュージーランドだからそれを選んだのかい?」
彼は真剣に言っているのだろうが、ユーモラスな冗談に聞こえ、ほんの少しだけ和んでしまう。
「それに、僕は好い人を演じているつもりなんかないさ。ただ、自分の信念に逆らうことはしたくないだけなんだ」
「信念ねぇ・・・」
彼の小馬鹿にしたような笑い方が癇に障り、先程の和んだ空気は霧のように散った。
「なあ、そろそろ素直になれよ。君は間違いなく苛立っている。
幸せになって君のことを忘れてしまったような彼らに対して。そして孤独な自分自身に対して。
感情を内側に隠して好い人ぶってる奴は我慢したまますべてが終わるぞ。所詮、一番大切なのはみんな自分だ。他人がどう思うかなんて気にするな」
反論をしようとしたところで、僕は微妙な彼の変化に気がついて動きを止めた。
「ねえ、君・・・なんかだんだんと毛皮が膨らんでないかい?さっきより大きくなってる・・・」
彼はニヤニヤしながら答える。
「羊の皮の大きさは、それを被る狼の大きさに比例する。ただそれだけのことだよ。皮が破れる前になんらかの処置を施さなければならない。そう思わないかい?」
彼の被っている羊の毛皮がはち切れそうなほどにパンパンに膨らんだ・・・。
そこで、はっと僕は夢から覚めた。
ニュージーランドの頃のことを夢にみたのは久々だ。
夢から覚めたあとも、現実の世界においてのあの晩、彼と会話をしたかどうかは思い出せない・・・。
しかし、僕はあの晩の数日後、腹を割って優午と話した。
家族みたいな生活を崩したくないと決めたのはおまえ自身だ。気持ちは十分に解る・・・しかし、知恵と恋人同士の生活をしたいのなら、やはり自分は疲れてしまうので出ていく、と。
その結果、優午も知恵も理解をしてくれ、僕らはニュージーランドの生活を家族のような絆を壊さないまま終わらせられた。
そう、負の感情や心と向き合い、コントロールしていくことも重要なのだ。
僕は最近それができていただろうか?
人の話し声が聞こえる。扉に目をやったところで、そこが普段僕が住んでいるドバイの白い部屋でないことに気がついた。
そこはニュージーランドで住んでいたフラットの僕と優午が使っているベッドの上だった。
そこで僕はそれが夢の中だとようやく理解する。
これも過去に僕が体験したワンシーンなのだ。
扉を少しずらしてリビングを見ると優午と知恵が身体を寄せてじゃれ合っていた。
その晩の数日前、優午が知恵に二度目の告白をして、晴れて二人はカップルになったのだった。
僕はもちろん嬉しかった。二人のことはどちらも好きだったし、優午にずっと相談をされていた手前、告白に成功してほしいと心から思っていた。
そして、僕は優午に相談をされているときに彼に一つの提案をしていた。
「もしも、おまえが告白に成功したら、フラットを出ていこうと思っているんだ。
ニュージーランドにいる期間は限られているし、日本に帰ったらおまえらは遠距離恋愛になるだろう。二人の時間を大切にさせてやりたいんだけど、どうかな」
しかし、優午はこれを嫌がった。
「オレは今のこの家族みたいな関係が大好きだし、それは知恵とカップルになったとしても何も変わらない。知恵だってそんなことは望まないと思う」と。
本音をいうなら二人の時間を大切にさせてやりたいという優しさの他に、恋人同士になる二人と暮らすことへの心配や煩わしさもあり、そのような提案をしたのだが、優午や知恵が家族のような関係を崩したくないと本気でそう望むのであれば、僕はそれでもいいかな、とそのときは思った。
しかし、その状況が現実化したあと、夜中に二人が身体を寄せあってする囁くような会話は、思いのほか僕の心を乱し、苛立たせた。
しかし、僕は自分の弟や娘みたいに可愛く思ってる彼らにそんな負の感情をぶつけたくはなかった。
だからそんなときはイヤフォンを両耳に押し込み、完全なる眠りがやってくるまで、暗闇の中で椅子に腰かけて音楽を聴き続けたのだった。
暗闇の中、誰もいないはずの広いベッドの上にぼんやりと浮かび上がる影が見えた。
それは羊の着ぐるみを着た彼だった。
これは僕の夢の中だ。彼の姿がはっきりと見える。しかし現実世界においてのこのとき、僕は脳内で彼と会話をしただろうか・・・どうも記憶が曖昧で思い出すことができない・・・。
「やあ」
「ねえ、今はマズくないかい?優午と知恵がすぐそこにいるんだ。君との会話が聞こえてしまうよ」
「分かってないなぁ。二人は君のことなんか気にしちゃあいないさ。今、二人の世界に君なんか存在していないんだよ」
「・・・相変わらず、君は人を傷つける言い方をするね」
「君が分からず屋だからだよ。いつまで羊の皮を被って、好い人を演じるつもりなんだい?」
「羊の皮を被っているのは、まさに君じゃあないか・・・ニュージーランドだからそれを選んだのかい?」
彼は真剣に言っているのだろうが、ユーモラスな冗談に聞こえ、ほんの少しだけ和んでしまう。
「それに、僕は好い人を演じているつもりなんかないさ。ただ、自分の信念に逆らうことはしたくないだけなんだ」
「信念ねぇ・・・」
彼の小馬鹿にしたような笑い方が癇に障り、先程の和んだ空気は霧のように散った。
「なあ、そろそろ素直になれよ。君は間違いなく苛立っている。
幸せになって君のことを忘れてしまったような彼らに対して。そして孤独な自分自身に対して。
感情を内側に隠して好い人ぶってる奴は我慢したまますべてが終わるぞ。所詮、一番大切なのはみんな自分だ。他人がどう思うかなんて気にするな」
反論をしようとしたところで、僕は微妙な彼の変化に気がついて動きを止めた。
「ねえ、君・・・なんかだんだんと毛皮が膨らんでないかい?さっきより大きくなってる・・・」
彼はニヤニヤしながら答える。
「羊の皮の大きさは、それを被る狼の大きさに比例する。ただそれだけのことだよ。皮が破れる前になんらかの処置を施さなければならない。そう思わないかい?」
彼の被っている羊の毛皮がはち切れそうなほどにパンパンに膨らんだ・・・。
そこで、はっと僕は夢から覚めた。
ニュージーランドの頃のことを夢にみたのは久々だ。
夢から覚めたあとも、現実の世界においてのあの晩、彼と会話をしたかどうかは思い出せない・・・。
しかし、僕はあの晩の数日後、腹を割って優午と話した。
家族みたいな生活を崩したくないと決めたのはおまえ自身だ。気持ちは十分に解る・・・しかし、知恵と恋人同士の生活をしたいのなら、やはり自分は疲れてしまうので出ていく、と。
その結果、優午も知恵も理解をしてくれ、僕らはニュージーランドの生活を家族のような絆を壊さないまま終わらせられた。
そう、負の感情や心と向き合い、コントロールしていくことも重要なのだ。
僕は最近それができていただろうか?
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