水彩画の名前にちなんで

松藤 四十二

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黄色い家の際の道

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 空き家になったその家の側の道を、僕はまだよく歩いていた。高校への通学路として使い、散歩道として使った。なんの変哲もないただの道路だが、そこにはおっくんの家があった。その家には昔、僕が幼稚園のときの友だちだった、おっくんが住んでいて、今はもう彼はいない。
 おっくんは小学校に上がるときに引っ越した。遠いところだったと記憶している。でも、海外なのかただの県外なのかは覚えていない。ただ、子どもながらに、遠いところだな、と思ったのを覚えている。
 おっくんは不思議な子で、超能力を持っていた。その力を使い、よく物を浮かせたり、遠くに飛ばしたり、水をジュースみたいに甘くしたりしていた。
 おっくんはその力を親と僕にしか明かしていないと言っていた。その力は秘密と言っても過言なかった。そして、僕も、誰にもその力についてばらさなかった。親にも、おばあちゃんにも。もし、喋ったらおっくんが困るだろうなと子どもながらに思った。
 おっくんが引っ越しする前、一枚の手紙を渡してくれた。おっくんは「ピンチになったら封筒を開けて。本当にピンチのとき以外は、開けちゃダメだよ」と言っていた。
 僕はそれを忠実に守り、十七歳になるまで、その手紙を読まずに保管している。もちろん好奇心から何度か開けようとしたことがある。高熱で寝込んだときや、失恋したときや、右手の小指を折ったとき。でも、心の中の何かが引っかかって開けられなかった。そして、今に至る。本当にピンチのときがいつなのか、僕にはまだわからない。本当にピンチのときがくるのかもわからない。そして、机の引き出しにある手紙を見るたびに、まだいける。まだ本当のピンチじゃない、と思っている。
 今少しだけ疑っているのが、おっくんは超能力者ではなく、マジシャンだったのではないかということだ。
 水を甘くすることも、物を浮かせたり飛ばすことも、マジックでなんとかできそうな気もする。そして、この手紙も僕の性格を利用したお守りのような気もしている。超能力の秘密を守り通すくらい口が固く頑固だから、きっと手紙を容易に開けて読んだりしない、と思ったのではないだろうか。
 つまり、おっくんは、頭のめちゃくちゃいい、他人を思いやれる優しい子どもではなかったのだろうか。
 黄色い家を見上げながら、僕はふと思って、勝手に腑に落ちた。
 それでも気になるのは、この黄色い家がずっと空き家だということだ。売り家の看板はない。もう十年も誰も住んでいない。しかし、庭に雑草は生えておらず、外壁の黄色い塗装も剥がれていない。誰かが手入れしている気もする。ただ、それが誰なのか僕には一切わからない。
 遠くの方から、救急車のサイレンが聞こえてきた。
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