13 / 22
マフラーと嘘
しおりを挟む
俺は二週間を無駄に費やした。いや、もしかしたら有意義に過ごしたのかもしれない。何に縛られることもなく、俺は睡眠と怠惰な時間を思う存分楽しんだ。だが、それでは納得しない人が二人いた。
その一人は俺で、もう一人は紅根だ。
彼女はまだ何も分からないのかと十二月の一週を過ぎたところで催促をし始めた。友達は自殺をしたのだと噂を流し、その理由をつきとめてくれる誰かがいつか現れるのを待っていたくらい穏やかな人物だと思っていたが、どうやら違ったようだ。いや、でも俺のようなものが現れたからこそ焦っているのかもしれない。餌をおあずけされた犬のような状態なのかもしれない。
そして、その気持ちが俺にも少しある。ただ俺の場合は餌をおあずけされているのに加え、メス犬をおあずけされているのだ。
だが焦ったところでどうしようもない。時間が経つのを待つしかない。
そしてその日はやってくる。体も頭も鈍ったような気がしたが、宵月の声を聞くと、体の奥で何かが動いた。
彼女は火曜日に、また公園で会えないかと聞いてきた。俺はそれに二つ返事を返し、どうやって二つのことを成功させようかと考えた。
火曜日、俺は公園でマフラーを貰った。赤い手編みのものだった。そして、同じ毛糸を使った手袋を宵月はしていた。
「早めのクリスマスプレゼントだけど」と一週間後にあるイベントを待ち切れなかったかのよう彼女は言った。
「ありがとう」俺はそう言いながら、クリスマスの日をどうやって過ごすか考えた。名案というものは浮かばず、ただただ、脳裏にベッドがちらちらと見え隠れしているだけだった。
「……クリスマスの日空いてる?」
「うん」彼女は頷き、俺の考えを知ってか知らずか、もしくは彼女も何か期待をしているのか笑顔になった。
とりあえず俺は彼女の手を取り、両手で包んだ。
俺は二週間という長い期間中、自殺の理由と性欲というものを頭の中に入れておくことに疲れたらしい。俺は思うがままに彼女に告白し、待ってましたとばかりに宵月は俺の恋人になった。あとはクリスマスの日か、そのあたりに彼女と遊んで、それから友達のことを聞けばいい。きっと、紅根は遅いと怒るだろうが、仕方ないじゃないか。
「あ、そういえば」と俺はこの二週間の生活を思い出しながら言った。「この二週間なにやってたの?」
宵月は恥ずかしそうに笑った。
「実はマフラー編んでたの」
へぇ、そうなんだ。嬉しいなあ。
そんなことを俺が心から言うと思ったのなら、彼女には見る目がないねと言わざるを得ない。
もし俺が心までも彼女に恋していたとしたら、彼女の言葉を鵜呑みにし、心踊り、全てを受け入れただろう。だが、俺は宵月の外見と体にしか興味がない。そして俺はどうしても、香月君のことが引っかかっている。
もしかして、君、この二週間を香月君と別れるために費やしたんじゃないの?
そう言いたくて仕方がない。
「実はさ……」
「なに?」宵月が可愛く首を傾げた。
「俺、あの、二週間前さ、次いつ会えるかなって電話したじゃん……」
宵月がうん、うんと頷く。
「実はあの前に彼女と別れたんだ」
「え?」
「ごめん。なんか……。元々うまくいってなかったし……。あのファミレスで会ったやつらは、元カノの友達でさ。なんか、ごめん。騙していたみたいで。それに浮気相手みたいにさせてしまって」
「ううん。大丈夫」今度は首を横に振った。
さぁ、君も暴露してくれるか。
「気にしないで。昔のことは忘れて、前見よ、前」
言わないか……。
俺たちはその後、近くのコーヒーショップに寄り、そのままそこで別れた。結局、宵月と香月君との関係を確定することはできなかった。
だが、別に俺がその関係を暴く必要ないわけで。しかし俺のせいで、もしくは宵月のせいで、憤り、焦り、不安で、絶望に似た感情を持っている人間がいることには間違いない。
その夜、俺は紅根から電話を貰った。机の上で、クリスマスのために買った情報誌をめくっているときだった。
「もしもし」
「もしもし」落ち着いた声の中に、どこか揚がっている節があった。「連織くん?」
「もちろんそうだよ。どうしたの?」
「あのさ、突然、香月君が、連織くんのこと聞いてきたんだけど」
「へぇ。何て?」
「連織くんに彼女がいるのかどうかって」
ほう。
「なんて答えたの?」
「いないと思うけど、宵月さんとデートしたっていう噂があるって言った」
俺は声に出して笑った。
「どうしたの?」
「いいや。それで、香月君はどんな様子だった?」
「電話で話しただけだからよく分からないけど、ちょっと間が開いて『へぇ』って言って……。それで終わり。すぐに電話切られた」
ショックを受けている彼の姿が容易に想像できる。
「なるほど。可哀そうにな」俺は本当にそう思って言った。
「宵月さんと彼って付き合ってたの?」
「さぁ。でも、俺はそう思うけどね」
「ふーん。……で、進展は?」
「宵月さんは俺の彼女だよ」
「……え? ああ、そうなの?」
「そうだよ」
「つまり、香月君から彼女を奪ったの?」
「人聞きが悪いな。俺の予想だけど、俺が奪ったんじゃなくて、宵月が香月くんを捨てたんだよ」
部屋のガラス戸が揺れた。風がひどいようだ。
「ふーん。まぁ、そうかもね。というか、私の言った進展って、理由の方なんだけど」
「そっちはクリスマス終わりに聞くから、もう少し待ってくれよ」
「なんで? 彼女なんでしょ? ちゃちゃっと聞いてよ」
今それを聞いて、変な空気になったらどうしてくれるんだよ。君が代わりに俺と寝てくれるのか、とはさすがに言えないが「まぁ、待ってくれよ。俺にも他にやりたいことがあるんだよ」とだけ伝えた。
「……なるほどね。まぁ、変な風邪にかからないようにね。おやすみ」
「おやすみ」
電話を切ると、俺は変にうれしくなった。こんな会話をしたのは、どのくらいぶりだろうか。
カーテンを閉めるため、窓に近づくと、冷えた空気が肌の数センチ先にあるのを感じた。空には雲がなかったが、いつ雪が降ってもおかしくなさそうな寒さだった。
その一人は俺で、もう一人は紅根だ。
彼女はまだ何も分からないのかと十二月の一週を過ぎたところで催促をし始めた。友達は自殺をしたのだと噂を流し、その理由をつきとめてくれる誰かがいつか現れるのを待っていたくらい穏やかな人物だと思っていたが、どうやら違ったようだ。いや、でも俺のようなものが現れたからこそ焦っているのかもしれない。餌をおあずけされた犬のような状態なのかもしれない。
そして、その気持ちが俺にも少しある。ただ俺の場合は餌をおあずけされているのに加え、メス犬をおあずけされているのだ。
だが焦ったところでどうしようもない。時間が経つのを待つしかない。
そしてその日はやってくる。体も頭も鈍ったような気がしたが、宵月の声を聞くと、体の奥で何かが動いた。
彼女は火曜日に、また公園で会えないかと聞いてきた。俺はそれに二つ返事を返し、どうやって二つのことを成功させようかと考えた。
火曜日、俺は公園でマフラーを貰った。赤い手編みのものだった。そして、同じ毛糸を使った手袋を宵月はしていた。
「早めのクリスマスプレゼントだけど」と一週間後にあるイベントを待ち切れなかったかのよう彼女は言った。
「ありがとう」俺はそう言いながら、クリスマスの日をどうやって過ごすか考えた。名案というものは浮かばず、ただただ、脳裏にベッドがちらちらと見え隠れしているだけだった。
「……クリスマスの日空いてる?」
「うん」彼女は頷き、俺の考えを知ってか知らずか、もしくは彼女も何か期待をしているのか笑顔になった。
とりあえず俺は彼女の手を取り、両手で包んだ。
俺は二週間という長い期間中、自殺の理由と性欲というものを頭の中に入れておくことに疲れたらしい。俺は思うがままに彼女に告白し、待ってましたとばかりに宵月は俺の恋人になった。あとはクリスマスの日か、そのあたりに彼女と遊んで、それから友達のことを聞けばいい。きっと、紅根は遅いと怒るだろうが、仕方ないじゃないか。
「あ、そういえば」と俺はこの二週間の生活を思い出しながら言った。「この二週間なにやってたの?」
宵月は恥ずかしそうに笑った。
「実はマフラー編んでたの」
へぇ、そうなんだ。嬉しいなあ。
そんなことを俺が心から言うと思ったのなら、彼女には見る目がないねと言わざるを得ない。
もし俺が心までも彼女に恋していたとしたら、彼女の言葉を鵜呑みにし、心踊り、全てを受け入れただろう。だが、俺は宵月の外見と体にしか興味がない。そして俺はどうしても、香月君のことが引っかかっている。
もしかして、君、この二週間を香月君と別れるために費やしたんじゃないの?
そう言いたくて仕方がない。
「実はさ……」
「なに?」宵月が可愛く首を傾げた。
「俺、あの、二週間前さ、次いつ会えるかなって電話したじゃん……」
宵月がうん、うんと頷く。
「実はあの前に彼女と別れたんだ」
「え?」
「ごめん。なんか……。元々うまくいってなかったし……。あのファミレスで会ったやつらは、元カノの友達でさ。なんか、ごめん。騙していたみたいで。それに浮気相手みたいにさせてしまって」
「ううん。大丈夫」今度は首を横に振った。
さぁ、君も暴露してくれるか。
「気にしないで。昔のことは忘れて、前見よ、前」
言わないか……。
俺たちはその後、近くのコーヒーショップに寄り、そのままそこで別れた。結局、宵月と香月君との関係を確定することはできなかった。
だが、別に俺がその関係を暴く必要ないわけで。しかし俺のせいで、もしくは宵月のせいで、憤り、焦り、不安で、絶望に似た感情を持っている人間がいることには間違いない。
その夜、俺は紅根から電話を貰った。机の上で、クリスマスのために買った情報誌をめくっているときだった。
「もしもし」
「もしもし」落ち着いた声の中に、どこか揚がっている節があった。「連織くん?」
「もちろんそうだよ。どうしたの?」
「あのさ、突然、香月君が、連織くんのこと聞いてきたんだけど」
「へぇ。何て?」
「連織くんに彼女がいるのかどうかって」
ほう。
「なんて答えたの?」
「いないと思うけど、宵月さんとデートしたっていう噂があるって言った」
俺は声に出して笑った。
「どうしたの?」
「いいや。それで、香月君はどんな様子だった?」
「電話で話しただけだからよく分からないけど、ちょっと間が開いて『へぇ』って言って……。それで終わり。すぐに電話切られた」
ショックを受けている彼の姿が容易に想像できる。
「なるほど。可哀そうにな」俺は本当にそう思って言った。
「宵月さんと彼って付き合ってたの?」
「さぁ。でも、俺はそう思うけどね」
「ふーん。……で、進展は?」
「宵月さんは俺の彼女だよ」
「……え? ああ、そうなの?」
「そうだよ」
「つまり、香月君から彼女を奪ったの?」
「人聞きが悪いな。俺の予想だけど、俺が奪ったんじゃなくて、宵月が香月くんを捨てたんだよ」
部屋のガラス戸が揺れた。風がひどいようだ。
「ふーん。まぁ、そうかもね。というか、私の言った進展って、理由の方なんだけど」
「そっちはクリスマス終わりに聞くから、もう少し待ってくれよ」
「なんで? 彼女なんでしょ? ちゃちゃっと聞いてよ」
今それを聞いて、変な空気になったらどうしてくれるんだよ。君が代わりに俺と寝てくれるのか、とはさすがに言えないが「まぁ、待ってくれよ。俺にも他にやりたいことがあるんだよ」とだけ伝えた。
「……なるほどね。まぁ、変な風邪にかからないようにね。おやすみ」
「おやすみ」
電話を切ると、俺は変にうれしくなった。こんな会話をしたのは、どのくらいぶりだろうか。
カーテンを閉めるため、窓に近づくと、冷えた空気が肌の数センチ先にあるのを感じた。空には雲がなかったが、いつ雪が降ってもおかしくなさそうな寒さだった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
隣に住んでいる後輩の『彼女』面がガチすぎて、オレの知ってるラブコメとはかなり違う気がする
夕姫
青春
【『白石夏帆』こいつには何を言っても無駄なようだ……】
主人公の神原秋人は、高校二年生。特別なことなど何もない、静かな一人暮らしを愛する少年だった。東京の私立高校に通い、誰とも深く関わらずただ平凡に過ごす日々。
そんな彼の日常は、ある春の日、突如現れた隣人によって塗り替えられる。後輩の白石夏帆。そしてとんでもないことを言い出したのだ。
「え?私たち、付き合ってますよね?」
なぜ?どうして?全く身に覚えのない主張に秋人は混乱し激しく否定する。だが、夏帆はまるで聞いていないかのように、秋人に猛烈に迫ってくる。何を言っても、どんな態度をとっても、その鋼のような意思は揺るがない。
「付き合っている」という謎の確信を持つ夏帆と、彼女に振り回されながらも憎めない(?)と思ってしまう秋人。これは、一人の後輩による一方的な「好き」が、平凡な先輩の日常を侵略する、予測不能な押しかけラブコメディ。
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる