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プロローグ
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目覚めた時、一番最初に目にしたいものは何か?と問われた時、僕は何と答えたんだっけか。
家族の顔だっただろうか。美しい景色だっただろうか。いつも通りの代わり映えしない天井、と答えたような気もする。
そして、目覚めた時、一番最初に目にしたくないものは何か?と問われたことも、今、目覚めた瞬間に思い出した。その答えは忘れてしまったし、そもそもちゃんと答えたかどうかも分からない。
けれど今、同じ問いを投げかけられたら、僕は間違いなくこう答える。
ネズミと。
それはまさに、目覚めて一番最初に目にしたものだった。
「うおおおおっ!?」
喉の奥から自分でも驚くほどに大きな声が出る。眼前に……僕の顔の上に佇むネズミも、急の絶叫に驚いたのか、眼前にまで近づけていた鼻先を逸らし、一目散にどこかへと逃げていった。僕の方はネズミと違ってろくに動くこともできず、肩で息をしながらドクドクと撥ねる心臓を服の上から押さえつけていた。寝起きに動いたせいか頭が痛い。汗が出たのか、腋も背中もビショビショに濡れて……、
「……なんだ、これ」
そこで僕は、自分が今まで寝ていたものが、ベッドや布団のようなよくある寝具ではなく、浴槽と棺桶を足して割ったような奇妙な道具であることに気が付いた。その中には僕の肩が濡れるくらいの水が溜まっており、その水に浸かりながら僕は眠っていたようだった。
血の気が引いた。
風呂で寝て溺死の危険性があった……とか、そういうことに対してではない。
気づかなければよかった。寝たままの方が幸せだったかも。
そういった考えが本気で浮かんでくる、今、目覚めて一番最初に目にしたくない光景。
「ここは……どこだ……?」
カビと埃の臭いが漂う薄暗い部屋。冷たいコンクリートでできた床と壁。光源と言えるものは、朽ちた天井から射しこんでくる僅かな月明かりだけで、他に熱や光を持ったものは存在しない。床には幾本もの得体の知れないパイプやケーブル、チューブが這っていて、その先端は部屋の中心……僕の寝ていた浴槽に繋がっているようだった。
知らない、明らかに寂れた、得体の知れない無人の部屋。
ひゅっ、と呼吸音とも悲鳴とも取れない曖昧な叫びを喉から絞り出し、僕は急いで風呂桶から這い出た。ばしゃばしゃと激しく水音を立て、着ている服のあちこちから水が滴り落ちる。よく見てみると、その服も僕の知っている私服ではなく、患者服のような形のものだった。
なんだ、この状況は。
その疑問が頭を埋め尽くし正常な思考を塗りつぶしていく。
だが一方で、目の前にした光景があまりに衝撃的だったためか、それだけに現実感が抑えられ、脳内にギリギリで冷静な部分が残った。だがそれは理性ではなかった。ただ、生存のために行動するための本能。それがあらゆる疑問を思考の外に弾き、回答を示した。
夢だと思って逃げろ。
僕は恐怖に背を押されるまま脱出口を探し始めた。
靴は履いていなかった。天井から落ちてきたのか、コンクリートの破片が床のあちこちに散らばっていたが、それを踏む痛みも忘れていた。一瞬、朽ちた天井から逃げられるかと空を仰いだが、明らかに高さが足りていなかった。
部屋には扉が無かった。蝶番が壊れ、外れていたからだ。床を這うケーブル類は扉の向こう側から伸び、この浴槽部屋に繋がっているようだった。出口は分からず、今自分がいる場所は1階なのか。そもそも自分の知る土地なのか、何故自分はこんなところにいるのか。そんなことは後でいい。今は兎に角 動かなければならない。
道標となりそうなものは床を這うケーブル類の束しかなかったため、それを辿って走ることとした。
▽
脱出の道中は、思ったよりも簡単だった。
道中、誰とも……ネズミの一匹ともすれ違わず、妙な物音や怪奇現象が起こることもなく、足を止めることが無かったということ。そして、この場所自体が大分昔に捨てられたものなのか、扉の多くが壊れ、道を塞ぐ瓦礫も少なかったことが大きい。
これは単純に幸運だと思った。こんなところにいて幸運もないが。
走っている内に徐々に落ち着きを取り戻し、恐怖は怯えに代わった。
そして、誰かに追われているわけでもないので、体力温存のためにも歩いて脱出口をさがすことにした。その際、もたもたしていれば建物自体が倒壊するという懸念もありはしたが、そうなった時点で自身は助からないと割り切り、焦らず落ち着いて探索を続けることとした。
そうやって歩いている間に、一度は思考の隅に追いやった疑問が改めて浮かんできたが、どうにも答えが出る気はしなかった。
誘拐?
だとしたら今まで誰ともすれ違わなかったことが妙だし、本当に誘拐ならばまず見張りがいるはずだ。それがない以上、誘拐の線は考えにくい。
ここはどこなのか?
一見した印象では研究施設のように見えるが、心当たりはない。かなりの時間をかけて歩き回っても出口を中々見つけられなかったことから、大きな建物だってことしか分からなかった。
どうしてこんなところにいるのか?
知るわけがない。教えてもらいたいが誰もいない。攫われた可能性が薄いのなら、どこかからワープでもしてきたのかもしれない。
雑念のように浮かんでは消える疑問を雑に処理しながら、僕はケーブルを辿って歩き、古く見慣れない機械類が置かれた部屋を通り、しばらく廊下を彷徨い……。
ついに、外へと繋がる出口を見つけた。ひび割れ煤けたガラス扉の向こうに、青々と生い茂る木々と地面が見える。彷徨っていた時間は1時間にも満たないだろうに、緑を目にするのは随分と久しぶりに感じた。
「外っ……! やった、出れるぞ!」
その瞬間ばかりは思わず快哉を叫んだ。
一刻も早く外へ。その思いだけが頭を支配し、手足に活力を与えた。
僕の人生の中で、最も速く走れた瞬間だったと思う。
(何でこんなところにいるかとか、分からないことは多いけど今はどうでもいい! そういうのを調べるのは僕の役目じゃない! とりあえず警察に連絡……電話が無いから公衆電話? いや、まずは人がいるところまで、そして、最後には家に──)
そこまで考えた時、
ぴたり
と身体が動かなくなった。
それは比喩でも例えでも何でもなく、文字通り。
何故なら、目の前に現れたそれが、あまりにも絶望的だったからだ。
何故なら、頭に浮かんできた疑問が、あまりにも絶望的だったからだ。
外部の脅威と内部の驚異に挟み撃ちにされたからだ。
目の前のそれを、端的に表すとしたら、それは一体の怪物だった。
熊のような姿と巨体を持ち、熊のように二足で立つ、角を持った人面の怪物。
頭に浮かんできた疑問は、至極単純。だが一つではなかった。
それは連鎖して僕に襲い掛かってきた。
「どこに帰ればいいのか」
「両親や知人の顔はどんなものだったか」
「どのようにして今まで生きてきたのか」
「自分の名前は」
一般的な言葉や名前、制度といったものは「知識」として確かに頭の中にあった。
だが、僕は、僕自身のことに関する「記憶」がほとんど抜け落ちていることに気が付いた。
怪物が僕を認識する / 僕はやわらかな土に膝をついた。
怪物がぼくに向かって腕を振り上げる / ぼく はその光景を眺める。
怪物が に向かって腕を振り降ろす / は思わず、ぽつりとこぼした。
「 って……どこのだれだっけ……」
名前も帰り道もなくしたことに気づいた は、怪物の攻撃を頭に受け、
▽
「……遅かったか」
ガラスの刀を振るって血を飛ばすと、黒衣に身を包んだ男は自分が斃した怪物の死体を踏みつけながら目の前の光景を沈痛な面持ちで眺めていた。
頭部を失った、16歳程の少年だ。吹き飛ばされたと思われる頭部は、コンクリートの壁面に叩きつけられて潰れている。服装は患者服を思わせるが、デザインや造りを見るにここ最近の物ではない。随分と旧式のものだった。体格は標準的、身長は……頭部も合わせれば、恐らくは165cmほどだろうか。痩せてもおらず、極端に太ってもいない。
(孤児でも、どこぞの退屈した家出少年でもなさそうだ。この子はどこから来たんだ? そもそも、何故こんな『異界』に……いや、今はこいつの方が重要だ。素早く取り出さねば……)
男は手にしたガラスの刀の切っ先をを怪物の胸部に押し当てようし、
「……っ!?」
すぐに、頭部を失ったはずの少年に起きた異変に気が付いた。
叩きつけられ、潰れたトマトのようになっていたはずの頭部が、見る見るうちに血の赤色を、髪の黒色を、肌の色を失い、灰色の粘土状の物体へと形を変えていく。それに合わせるように、少年の体の首の部分……抉られ、赤い肉と白い骨が見えている箇所も、同じように灰色の粘土状の物体へと変化した。
頭部だった灰色の粘土と、首だった灰色の粘土は、磁石が互いを引き寄せ合うようにして近づき、くっつき、グニグニと動きながら何らかの形を形成していく。
「まさか……再生、しようとしているのか!?」
男にはそのように見えていた。そして、その認識は正しかった。
みるみる内に灰色の粘土は鮮やかな色味を取り戻し、黒い髪を、血の通う肌を、顔のパーツを作り整えていった。残されたのは、まるで無傷の、寝息を立てる少年が一人だけ。
血の跡も全て粘土状の物体と同化して消えた。
その惨劇の証拠は何も残らず、ただそれを見ていた男だけが事の真相を知っていた。
男は眼下の怪物の死体と、目の前で眠る少年を見比べた後、素早く怪物の死体から離れると、すぐに少年を抱えてその場を立ち去った。
それからおよそ10秒後。
その場には、ただ荒れた山奥の広場があるだけとなった。
コンクリート製の建物も、怪物も、そんなものこの世にはなかったかのように。
『異界』は閉じた。
男は……魔術師は、任務を放棄し、少年を小脇に夜の街へと向かった。
家族の顔だっただろうか。美しい景色だっただろうか。いつも通りの代わり映えしない天井、と答えたような気もする。
そして、目覚めた時、一番最初に目にしたくないものは何か?と問われたことも、今、目覚めた瞬間に思い出した。その答えは忘れてしまったし、そもそもちゃんと答えたかどうかも分からない。
けれど今、同じ問いを投げかけられたら、僕は間違いなくこう答える。
ネズミと。
それはまさに、目覚めて一番最初に目にしたものだった。
「うおおおおっ!?」
喉の奥から自分でも驚くほどに大きな声が出る。眼前に……僕の顔の上に佇むネズミも、急の絶叫に驚いたのか、眼前にまで近づけていた鼻先を逸らし、一目散にどこかへと逃げていった。僕の方はネズミと違ってろくに動くこともできず、肩で息をしながらドクドクと撥ねる心臓を服の上から押さえつけていた。寝起きに動いたせいか頭が痛い。汗が出たのか、腋も背中もビショビショに濡れて……、
「……なんだ、これ」
そこで僕は、自分が今まで寝ていたものが、ベッドや布団のようなよくある寝具ではなく、浴槽と棺桶を足して割ったような奇妙な道具であることに気が付いた。その中には僕の肩が濡れるくらいの水が溜まっており、その水に浸かりながら僕は眠っていたようだった。
血の気が引いた。
風呂で寝て溺死の危険性があった……とか、そういうことに対してではない。
気づかなければよかった。寝たままの方が幸せだったかも。
そういった考えが本気で浮かんでくる、今、目覚めて一番最初に目にしたくない光景。
「ここは……どこだ……?」
カビと埃の臭いが漂う薄暗い部屋。冷たいコンクリートでできた床と壁。光源と言えるものは、朽ちた天井から射しこんでくる僅かな月明かりだけで、他に熱や光を持ったものは存在しない。床には幾本もの得体の知れないパイプやケーブル、チューブが這っていて、その先端は部屋の中心……僕の寝ていた浴槽に繋がっているようだった。
知らない、明らかに寂れた、得体の知れない無人の部屋。
ひゅっ、と呼吸音とも悲鳴とも取れない曖昧な叫びを喉から絞り出し、僕は急いで風呂桶から這い出た。ばしゃばしゃと激しく水音を立て、着ている服のあちこちから水が滴り落ちる。よく見てみると、その服も僕の知っている私服ではなく、患者服のような形のものだった。
なんだ、この状況は。
その疑問が頭を埋め尽くし正常な思考を塗りつぶしていく。
だが一方で、目の前にした光景があまりに衝撃的だったためか、それだけに現実感が抑えられ、脳内にギリギリで冷静な部分が残った。だがそれは理性ではなかった。ただ、生存のために行動するための本能。それがあらゆる疑問を思考の外に弾き、回答を示した。
夢だと思って逃げろ。
僕は恐怖に背を押されるまま脱出口を探し始めた。
靴は履いていなかった。天井から落ちてきたのか、コンクリートの破片が床のあちこちに散らばっていたが、それを踏む痛みも忘れていた。一瞬、朽ちた天井から逃げられるかと空を仰いだが、明らかに高さが足りていなかった。
部屋には扉が無かった。蝶番が壊れ、外れていたからだ。床を這うケーブル類は扉の向こう側から伸び、この浴槽部屋に繋がっているようだった。出口は分からず、今自分がいる場所は1階なのか。そもそも自分の知る土地なのか、何故自分はこんなところにいるのか。そんなことは後でいい。今は兎に角 動かなければならない。
道標となりそうなものは床を這うケーブル類の束しかなかったため、それを辿って走ることとした。
▽
脱出の道中は、思ったよりも簡単だった。
道中、誰とも……ネズミの一匹ともすれ違わず、妙な物音や怪奇現象が起こることもなく、足を止めることが無かったということ。そして、この場所自体が大分昔に捨てられたものなのか、扉の多くが壊れ、道を塞ぐ瓦礫も少なかったことが大きい。
これは単純に幸運だと思った。こんなところにいて幸運もないが。
走っている内に徐々に落ち着きを取り戻し、恐怖は怯えに代わった。
そして、誰かに追われているわけでもないので、体力温存のためにも歩いて脱出口をさがすことにした。その際、もたもたしていれば建物自体が倒壊するという懸念もありはしたが、そうなった時点で自身は助からないと割り切り、焦らず落ち着いて探索を続けることとした。
そうやって歩いている間に、一度は思考の隅に追いやった疑問が改めて浮かんできたが、どうにも答えが出る気はしなかった。
誘拐?
だとしたら今まで誰ともすれ違わなかったことが妙だし、本当に誘拐ならばまず見張りがいるはずだ。それがない以上、誘拐の線は考えにくい。
ここはどこなのか?
一見した印象では研究施設のように見えるが、心当たりはない。かなりの時間をかけて歩き回っても出口を中々見つけられなかったことから、大きな建物だってことしか分からなかった。
どうしてこんなところにいるのか?
知るわけがない。教えてもらいたいが誰もいない。攫われた可能性が薄いのなら、どこかからワープでもしてきたのかもしれない。
雑念のように浮かんでは消える疑問を雑に処理しながら、僕はケーブルを辿って歩き、古く見慣れない機械類が置かれた部屋を通り、しばらく廊下を彷徨い……。
ついに、外へと繋がる出口を見つけた。ひび割れ煤けたガラス扉の向こうに、青々と生い茂る木々と地面が見える。彷徨っていた時間は1時間にも満たないだろうに、緑を目にするのは随分と久しぶりに感じた。
「外っ……! やった、出れるぞ!」
その瞬間ばかりは思わず快哉を叫んだ。
一刻も早く外へ。その思いだけが頭を支配し、手足に活力を与えた。
僕の人生の中で、最も速く走れた瞬間だったと思う。
(何でこんなところにいるかとか、分からないことは多いけど今はどうでもいい! そういうのを調べるのは僕の役目じゃない! とりあえず警察に連絡……電話が無いから公衆電話? いや、まずは人がいるところまで、そして、最後には家に──)
そこまで考えた時、
ぴたり
と身体が動かなくなった。
それは比喩でも例えでも何でもなく、文字通り。
何故なら、目の前に現れたそれが、あまりにも絶望的だったからだ。
何故なら、頭に浮かんできた疑問が、あまりにも絶望的だったからだ。
外部の脅威と内部の驚異に挟み撃ちにされたからだ。
目の前のそれを、端的に表すとしたら、それは一体の怪物だった。
熊のような姿と巨体を持ち、熊のように二足で立つ、角を持った人面の怪物。
頭に浮かんできた疑問は、至極単純。だが一つではなかった。
それは連鎖して僕に襲い掛かってきた。
「どこに帰ればいいのか」
「両親や知人の顔はどんなものだったか」
「どのようにして今まで生きてきたのか」
「自分の名前は」
一般的な言葉や名前、制度といったものは「知識」として確かに頭の中にあった。
だが、僕は、僕自身のことに関する「記憶」がほとんど抜け落ちていることに気が付いた。
怪物が僕を認識する / 僕はやわらかな土に膝をついた。
怪物がぼくに向かって腕を振り上げる / ぼく はその光景を眺める。
怪物が に向かって腕を振り降ろす / は思わず、ぽつりとこぼした。
「 って……どこのだれだっけ……」
名前も帰り道もなくしたことに気づいた は、怪物の攻撃を頭に受け、
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「……遅かったか」
ガラスの刀を振るって血を飛ばすと、黒衣に身を包んだ男は自分が斃した怪物の死体を踏みつけながら目の前の光景を沈痛な面持ちで眺めていた。
頭部を失った、16歳程の少年だ。吹き飛ばされたと思われる頭部は、コンクリートの壁面に叩きつけられて潰れている。服装は患者服を思わせるが、デザインや造りを見るにここ最近の物ではない。随分と旧式のものだった。体格は標準的、身長は……頭部も合わせれば、恐らくは165cmほどだろうか。痩せてもおらず、極端に太ってもいない。
(孤児でも、どこぞの退屈した家出少年でもなさそうだ。この子はどこから来たんだ? そもそも、何故こんな『異界』に……いや、今はこいつの方が重要だ。素早く取り出さねば……)
男は手にしたガラスの刀の切っ先をを怪物の胸部に押し当てようし、
「……っ!?」
すぐに、頭部を失ったはずの少年に起きた異変に気が付いた。
叩きつけられ、潰れたトマトのようになっていたはずの頭部が、見る見るうちに血の赤色を、髪の黒色を、肌の色を失い、灰色の粘土状の物体へと形を変えていく。それに合わせるように、少年の体の首の部分……抉られ、赤い肉と白い骨が見えている箇所も、同じように灰色の粘土状の物体へと変化した。
頭部だった灰色の粘土と、首だった灰色の粘土は、磁石が互いを引き寄せ合うようにして近づき、くっつき、グニグニと動きながら何らかの形を形成していく。
「まさか……再生、しようとしているのか!?」
男にはそのように見えていた。そして、その認識は正しかった。
みるみる内に灰色の粘土は鮮やかな色味を取り戻し、黒い髪を、血の通う肌を、顔のパーツを作り整えていった。残されたのは、まるで無傷の、寝息を立てる少年が一人だけ。
血の跡も全て粘土状の物体と同化して消えた。
その惨劇の証拠は何も残らず、ただそれを見ていた男だけが事の真相を知っていた。
男は眼下の怪物の死体と、目の前で眠る少年を見比べた後、素早く怪物の死体から離れると、すぐに少年を抱えてその場を立ち去った。
それからおよそ10秒後。
その場には、ただ荒れた山奥の広場があるだけとなった。
コンクリート製の建物も、怪物も、そんなものこの世にはなかったかのように。
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男は……魔術師は、任務を放棄し、少年を小脇に夜の街へと向かった。
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