4 / 10
第一章
圧倒的な黒
しおりを挟む不思議な感覚だった。
どうしてか、体が何かに包まれているようで。
あったかくて、だけど、冷たくて。
明るくて、昏くて。
まるですべてが矛盾したような空間で――僕は、だれかに話しかけられていた。
「――ねえ、まだ痛いの?」
――つらくないよ。
「――ねえ、憎くない?」
――憎くないよ。
「――今望むなら、あなたの代わりに報いてあげる」
――今は……望まないよ。滅ぼしたくないし、滅ぼす理由もないもの。だから、心配しないで。
そうやって伝えたいのに……僕の体は、思うように動かない。
口が開くことはなく、どうしてか僕は涙を流し続けるのみ。
まるで、その声は、遠くも近くもない。
心臓の裏で響くような、不思議な声の持ち主。
――だれなんだろうなぁ、この人。
今この場所で動くのは、頭のみだ。だから、誰が話しかけてきているのか考えてみることにした。
僕が覚えている最後の光景。それは、僕が倒したはずの狼の魔物が誰か男女を追いかけているところだった。
あと少しであの二人、やられるな――そう思ったところで、僕の意識は落ちてしまったのを覚えている。
「―――じゃあ、あの二人を助けてあげようか?」
突如また、その声が聞こえた。
二人を助ける、か。一人は僕を見つめていたなぞ少女だということは覚えている。
けど、僕もう一人のことを知らない。村が滅ぶことは回避したいものの……うん、特に知らない青年が死ぬことに関しては全く何も思わないかな。
あの人が村の人なら少しは違うんだろうけどね。
「……あの青年は、村の住民よ?」
まるで、あきれてることを隠す気がないような声。そして言葉。
あれ? 僕今誰かわからない謎の女性(推定)にあきれられてるの?
……でも、あの青年村の住人だったんだ。多分、僕がいたずらしても嘘をついても何も言ってこなかった人なんだろうね。何人かいたよ、そういう人。
もれなくそういう人に関しては顔すら覚えてないんだ、僕。
嫌いだもの、そういう人。まださっきみたいな好奇心を含んだ視線を当てられるほうがましだよ。その態度が僕に興味がないことを証明しちゃってるもの。
最初からゼロだったが好感度ダダ下がりだね。
「……じゃあ、助けないでいいのね?」
いやそういうわけではなくて……あの人たちが助かったら狼が来るってことを村に伝えてくれるかもしれないし、できるならあの少女のほうだけ助けることってできないかな?
あの青年はどうなったっていいからさ。生贄にでもささげるよ? 見えないし喋れないからわからないけど、寝ている人間に干渉するなんて人じゃできるはずないし……神様とか、魔族とか。そんな感じのサムシングなんじゃないのかな? 君。普通に心読んでるし、人間よりすごいのは確かでしょ。
「驚かれないのはもう一切置いておくとして……はあ」
どしたん? 話きこか?
「私の話しかけている相手が強欲すぎるという問題があってね?」
ほーん、それは彼氏が悪いわ。
「彼氏じゃないわよ……」
僕ならそんな思いさせへんのにね。
「あんた……ッ!」
だからさ――それじゃ、頼んだ。
「……代償として、あの少女の記憶はもらうわよ」
……まあ、死なないならいいか。
声が笑ったように聞こえた。
その笑みが優しいのか、冷たいのか――僕にはもう、わからなかった。
そして、その声に承認の意図を思い浮かべた瞬間——
――僕の意識は、再び暗転した。
◆ ◆ ◆
炎が空気を裂いた。
ルードの背が、燃えるような光の中に飲み込まれていく。
叫ぶ声すら出なかった。息が、熱に奪われる。
魔物の喉が鳴る。牙が光る。
――終わる。そう思った瞬間だった。
空が、割れた。
真昼の森のはずなのに、光が消えた。
音も、風も、熱も――何もかもが凍る。
ただ、ひとつ。黒が流れ込んできた。
黒い液体のようでもあり、影のようでもあり、形を持たない“圧”だった。
それが、少年——〝名無し〟の体から溢れ出ていた。
狼が一歩退く。低く唸りながらも、本能的に怯えているのが分かる。
だが、黒は止まらない。
地を這い、空を掴み、まるでこの世界の理を侵食していくように広がっていった。
少年――いや、〝ソレ〟はゆっくりと立ち上がる。
目が、見えなかった。そこにあるのは空洞。
けれど確かに“見る”という行為だけが存在している気がした。
次の瞬間、狼たちの身体が裂けた。
斬ったのではない。潰れたのでもない。
まるで「存在という線」を、一本だけ抜き取られたように、崩れ落ちた。
音が戻る。
風が吹く。
倒れた狼の残骸から、黒い靄が立ちのぼる。
それを、“名無し”がゆっくりと振り返って見下ろした。
私と、目が合った。
息が詰まる。
何もされていないのに、心臓が握られたような感覚に襲われる。
足が勝手に後ずさる。
でも、その“存在”は、何の敵意も持っていないように見えた。
ただ、静かに手を伸ばして――
――私に、触れようとした。
「……や、め――」
光が走った。
視界が白に塗りつぶされ、意識が遠のいていく。
手を伸ばそうとしたけど、体が動かない。
倒れる間際に見えたのは――〝名無し〟が頭を押さえてうずくまる、そんな様子だった。
◆ ◆ ◆
「――!!」
起きた瞬間、ものすごい頭痛がした。
うずくまりながら、声なき声を上げ――そして五分くらい。
頭痛は収まり、僕は再び立ち上がった。
あたりを見渡してみる。そこに狼さんの姿はなく、僕の前後に二人の人が倒れているのみだった。
◆
うーん、不思議。
目の前に……というか僕の真下でうずくまっている僕を見つめていた少女A。多分瀕死。
そして、僕の真後ろで血を流して倒れている青年A。多分すでに死体。
起きたらこんな二人の人間に囲まれていて、不思議がらない人はいないと思う。
というか、どうなったんだろうか? あの狼の魔物さん。
多分、少女Aには傷とか一切ないし夢に出てきた謎の人物が守ってくれたんだろうけど……もう倒されたのかな?
前回狼の魔物を倒した時、たしか塵になって消えていった。今周りを見渡しても魔物の影なんてないし、多分もう消え切ったあとなんだろう。
……処理しないでいいのはありがたいけど、あれだなぁ。できれば消えないで欲しい。
いやまぁ自業自得要素はあると思うけど、やっぱり証拠がないせいで僕が疑われるんだし。殺さず痛めつけようにも僕にはそこまでの力がない。
悲しいけど、このまま当分は無視されるコースを直行かな。今でも通用する嘘とか、考えとかないと。
「取り敢えず、処理しないとね」
気を取り直し、僕は青年Aの死体を右肩に、そして少女Aを左肩に担いで村へと向かうのだった。
ちなみに、やっぱり僕はまた強く……早くなっていた。
◆
「――お前……殺した、のか?」
村に入ろうと入り口まで帰ってきたら、門番の人に驚いた顔で見られた。
まあ、その疑問が浮かぶのも納得できなくはない。
両肩に血塗れの青年少女をを抱えてるんだもの。僕が見たら……うん、真っ先に逃げるね。絶対に人殺しだって勘違いしちゃう。流石にまだ死にたくはないもの。
――でも、僕が殺したわけじゃないから……?
たぶん。おそらく。めいびー。実際はどうか知らない。もしかしたら代償というか生贄というか、狼さんたちを倒すために使われちゃったかもしれない。ほら、夢の中で僕許可しちゃったからね。
なんとなくで言っただけなんだけど、もしかしたら本気にして殺しちゃってたかもしれない。
僕の体が乗っ取られてたであろう時の記憶がないから、何もわからないんだ。
で、でもまぁ! 僕の意志じゃないからね。
僕の意思で僕が手を下して殺したわけじゃないから!!
――さて、それじゃあ誤魔化さなければ。
どうしようか、僕の専売特許の嘘でもついてみようか。
でもなぁ……信じてくれるかな?
――というか、信じてもらう意味なんてあるのかな。
〝嘘つきの少年〟、そのレッテルのせいで僕はもうこの村の人々にかまってもらうことができないに等しい。
悲しいことに、どんな嘘をついても魔物が来たぞと真実を言ったとしても「あぁ、嘘なんでしょ」で済まされてしまうから。
――だったら……この状況を利用する、という手もあるのでは?
僕が嫌なのは、この村が滅ぼされてしまうことだ。
多分、この青年Aが殺された時のように知らない人が殺されても微塵も何も思わないだろう。
多分、僕は〝村の人が死ぬ〟ことが嫌なんじゃなくて〝この村がなくなる〟ことが嫌なのかもしれない。まあ、所詮は自分の深層心理を理解できない嘘つき少年のくだらないよそうなんだけどね。
だったら――そうならない限りは自由にしちゃおうじゃないか。
別に、滅ぼされないなら何でもいいんだし……青年の死くらい、僕のせいにしちゃおうじゃないか。
いいじゃん、僕。かしこいじゃん。そうすれば、僕は誰かにかまってもらうことができるだろう。
所詮僕が望むのは誰かとのつながり、つまりはかまってほしいその一つ。
牢に入れられたりしたら、その時はその時で考えよう。
「――あら、気づいちゃったか。そうだよ、この二人は―――僕が殺した」
とりあえず、気軽に爆弾を落としてみることにした。
ちなみに少女Aが死んでるかどうかは知らん。適当に言っただけだもの。
あとがき――――
なんと明日、学校の人に会いに行くフィールドワークという名目でとある小説家さんと一緒に温泉に行きます!
楽しみすぎる……ってことで多分明日は更新がないと思うのでご了承ください!!
ぜひとも星、いいね、コメント、フォローをおねがいします!
面白いと思った方はぜひともよろしくお願いします!
そうじゃなくてもいいねしてくれると嬉しいです!
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
ブラック国家を制裁する方法は、性癖全開のハーレムを作ることでした。
タカハシヨウ
ファンタジー
ヴァン・スナキアはたった一人で世界を圧倒できる強さを誇り、母国ウィルクトリアを守る使命を背負っていた。
しかし国民たちはヴァンの威を借りて他国から財産を搾取し、その金でろくに働かずに暮らしている害悪ばかり。さらにはその歪んだ体制を維持するためにヴァンの魔力を受け継ぐ後継を求め、ヴァンに一夫多妻制まで用意する始末。
ヴァンは国を叩き直すため、あえてヴァンとは子どもを作れない異種族とばかり八人と結婚した。もし後継が生まれなければウィルクトリアは世界中から報復を受けて滅亡するだろう。生き残りたければ心を入れ替えてまともな国になるしかない。
激しく抵抗する国民を圧倒的な力でギャフンと言わせながら、ヴァンは愛する妻たちと甘々イチャイチャ暮らしていく。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?
ギャルい女神と超絶チート同盟〜女神に贔屓されまくった結果、主人公クラスなチート持ち達の同盟リーダーとなってしまったんだが〜
平明神
ファンタジー
ユーゴ・タカトー。
それは、女神の「推し」になった男。
見た目ギャルな女神ユーラウリアの色仕掛けに負け、何度も異世界を救ってきた彼に新たに下った女神のお願いは、転生や転移した者達を探すこと。
彼が出会っていく者たちは、アニメやラノベの主人公を張れるほど強くて魅力的。だけど、みんなチート的な能力や武器を持つ濃いキャラで、なかなか一筋縄ではいかない者ばかり。
彼らと仲間になって同盟を組んだユーゴは、やがて彼らと共に様々な異世界を巻き込む大きな事件に関わっていく。
その過程で、彼はリーダーシップを発揮し、新たな力を開花させていくのだった!
女神から貰ったバラエティー豊かなチート能力とチートアイテムを駆使するユーゴは、どこへ行ってもみんなの度肝を抜きまくる!
さらに、彼にはもともと特殊な能力があるようで……?
英雄、聖女、魔王、人魚、侍、巫女、お嬢様、変身ヒーロー、巨大ロボット、歌姫、メイド、追放、ざまあ───
なんでもありの異世界アベンジャーズ!
女神の使徒と異世界チートな英雄たちとの絆が紡ぐ、運命の物語、ここに開幕!
※不定期更新。
※感想やお気に入り登録をして頂けますと、作者のモチベーションがあがり、エタることなくもっと面白い話が作れます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる