神世界は色鮮やかでこんなにも輝いている

ジョーカー伯爵

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新生活の始まり

1話 ここはナニケン?

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 よし、まずは状況を整理しよう。

 深呼吸をして気持ちを落ち着けた蓮は、ゆっくりと首を動かし辺りを見回す。 
 場所は…どこだ?
 辺りは木がその枝を広く伸ばしており、地面には草が生い茂っている。太陽は丁度真上で輝き、時間帯的に正午である事が考えられる。

 おそらくここは何処かの森の中。少なくとも自分が住んでいる近辺ではないことは確かだ。かと言ってどこか遠くの地にいるという可能性も低い。 蓮自身、外出するとすれば学校かすぐ近くの本屋に行く程度である。まさかこんな所に居るとは考えてもみなかったが……。

「森の中、か……」

 何故か分からないが、今現在蓮の頭の中で、「ある~日♪森の中♪」と可愛い子供達が輪を描きながら踊り歌っている。多分現状等から推定される事象を脳が勝手に推測した結果なのだろう。

「あはは、もし今熊とかに襲われたりしたらものすごくヤバイ状況。だよな……」

 あはは、と生笑いをしてそんな事を考える。なんといっても今の装備は学校の制服装備。こんな時に野生の動物なんかに襲われでもしたら一貫の終わりである。

 そんな時、例のが起こった。

 いつからか蓮の中に生まれた、一種の特殊能力“未来視”。

 これまでの半年間、まるで音信不通だった筈の未来視がここに来て突然として発動されたのだ。未来視が発動されると、蓮の視界にはノイズが走り、未来で起こりうる映像が映し出される。 

「――?」

 映し出された映像は、木々が生い茂る森の中。 視界は左右に振れ、ある一点の草むらを見ている。すると草むらが揺れた。勢いよく飛び出す何かの動物。
 困った事に、肝心の部分はモヤがかかっており、現れたモノが動物であるということしか分からない。

 そこで映像は終わり、レンの視界は元に戻る。

 閉じた目細く開け、目に滲みる日差しの光を感じながら辺りを見渡す。

「あっ……」

 そして察した。

 そこが未来視が見せた映像と同じ場所だという事に。すると予告どおり、目の前の草むらが揺れ始めた。

「あぁ……マジかよ」 

 まさか、自分が建ててしまったフラグをこうも綺麗に回収してしまうとは思ってもみなかった。
 ため息混じりに言葉を吐いている間、まだかまだかと揺れ続けた草むらから、その主が姿を現した。

 現れたのは、可愛いい野ウサギ!
 ハッハッハ、可愛らしいじゃないか。
 その野ウサギは愛らしい瞳をしており今でも連れて帰りたいくらい可愛い!

 ……。
 ……。
 ……なーんてな!はいはい、そうですよ。現実逃避してましたよ!

 実際に出てきたのは、狼に近い姿をして、頭には角、大きさは2メートルを超え、眼光を赤黒く光らせ、口の牙は鋭く尖り、涎を垂らしこちらを見ているナニか。

 ハッキリ言っておこう。狼のほうがまだ可愛く感じる。
 
 というか何だお前は……

「あれぇ?熊じゃないのね、っというかこの状況……俺は狙われてるって事、かな?」 

 現状、この場にいるのは蓮のみであり、ここは森の奥深く、かつ学校の制服装備だ。寧ろ殺して下さいと言ってるもの。それに、お腹を空かせた獣にとっては格好の獲物である事間違いなし。

「よし!どぉどぉ、落ち着け!俺を食べたところで腹を壊すだけだし、きっとおいしくないぞ!」 

 「グルルル」と喉を鳴らし威嚇してくる黒いナニカを必死に宥める。しかし、そんな苦労も無駄のようで、 そのナニカはどんどん距離を縮めていき―――

「ク゛ルァァァァァァァ」 

 咆哮を上げ、こちらに向かって飛び込んで来る。

「いやぁぁぁ!勘弁してくれよ!」 

 情けない声をあげながら逃亡を開始。

 前世で何か過ちでもしたのかと、悔やみながら全力疾走で逃げる。

 その間際、後ろとの距離を確認すると蓮の考えるより遥か向こうにソレは居た。
 どうやら、幸いな事に見た目に反してあまり足は早くないようだ。運動不足の蓮でさえ逃げ切れるほどの遅さだ。 

 そこから数分間走り続け、遠くまで逃げれたと思い、少し足を緩めた。 

 もう安全。そう思っていた矢先、残念な事に何か糸のような物が足に引っ掛かった。

「――あれ?」 

 不意の出来事に油断して、足元を取られた蓮。どうやら拍子で転んだらしい。 
 しかし災難は終わらず、起き上がろうとした蓮に災難はまだ続く。
 間髪入れずに引っ掛かった糸はどういう仕組みか、右足に絡まり、そのまま近くの木の枝へ逆さ吊りにされた。

「うぉ!ちょっ、何なんだよ!よりにもよってこんな時に!」 

 必死に解こうとする。しかし、解こうにも宙吊りで場所が安定しないし、焦っているため、かえって糸が絡まってしまう。 

 そうこうしているうちに、案の定さっきの奴に追いつかれた。

「ク゛ルルルルルルルルル」 
「あれ?本気でヤバイよな…」 

 体中から冷たい汗が出る。

 対する獣は待ちに待った食事の時間に興奮し、辺りに涎を撒き散らしながら吠え、蓮向かって飛び掛る。

(あ、終わった……)

 命が終わる瞬間は、もうちょっと時間があると思っていたが、それな事無く蓮は死を覚悟を決めた。

 しかし、蓮の耳に入ったのは死を与える獣の牙で無く、何処からか聞こえた女の子の声。

光斬魔ルス・エペナイデン!」 

 突然聞こえた声と同時に、蓮の後ろから四発の光の刃が繰り出され、襲ってきた獣は、瞬く間に光の刃によってばらばらにされた。
 その肉の残骸が地面に落ちてゆく音は、さながら料理店で職人が肉を捌き、それを鍋に入れる様。

 光の刃は同時に、蓮の足に絡まっているロープも切っていた。

 「痛っ」と尻から落ち反動で思わず後込む。

 そこに件の女の子が近寄る。

「ふぅ、間一髪だったね。……大丈夫?」

 助けてくれたのは自分と同い年と思われる女の子。紅色の長い髪を後ろで一つに結び、肌は触らなくても分かるほど艶やかであり、引き込まれそうな赤い瞳で此方を見つめる。

 明らかに蓮の見た事ない美少女である。まさに絵に書いた様なとはこの事だろう。

「あ、ありがとう……ございます」

 蓮は体に付いたほこりをパタパタと叩き、舞い上がった砂埃にせき込むながら彼女の美貌に思わず魅入ってしまう。

「敬語なんていいよ!私達、多分歳同じくらいだよね?」

 目線を元に戻した蓮。その少女の言葉を聞いてハッと意識を戻す。

「ぁ、はぁ……」

 生返事を返して、再び彼女を見る。

(やっぱそういうのなのか?いや……それとも……でもなぁ……もしかするのか……)

 脳内で自問自答。結局自己解決出来ないと判断した蓮は、勇気を振り絞って、先程から気になっていた彼女の美貌とは別のモノを指摘する事にした。

「大変失礼と思っていながら聞くんだけど……もしかして君はコスプレイヤー……とか?」

 蓮が気になって仕方ない事。それは少女の服装について。彼女が身に纏っているモノは、蓮が見たこともないようなもので、強いて言うなら、漫画やアニメで見たような服装と言った方が適切であろう。 

 人間の弱点となる胸部に銀色の甲殻で武装し、着ている白いマントはさながら騎士の様。更に腰に下げている剣を見ると、銃刀法違反なんて言われるこのご時世に剣を持って歩くとしたらコスプレサミットかなんかの帰りだろう。
 つまるところ、蓮は目の前の美少女に見惚れはしたが、服装を見て引いてもいる今日この頃。
 
 すると少女は“コスプレ”という言葉に怒ったのか、眉を額の真ん中へ寄せ、ぷくぅーっと頬を膨らませると蓮に物申す様に近寄る。

「ちょっと?こすぷれ?が何だか知らないけど、人の事を馬鹿にするのはよくないんじゃないかな?」
「いやぁ……でも今のご時世そんな恰好する人居ないと思うし。それに剣とか持ってるのはちょっとどうかと……」
「あ!今絶対私の事、変な人って思ってるでしょ!?」
「いや、そんな事は……」

 明らかに引いてる顔の蓮に少女は更にぷんすかと頬を膨らませて怒っている。その顔も可愛らしく愛らしい。

「いい!?この服はアテンシア家に伝わる立派な正装なの!貴方こそ、その変な服装はなに!見たことない顔だし!あっ!もしかして、黒使団の手下!?」 

 何かよく分からない事を言って、腰に付けていた剣を抜き、構える。 実によく手入れされた剣だった。蓮の実家は古くから御崎流という剣術を受け継いでおり、蓮は祖父より次期跡取りとして目を付けられている。
 そんな実力を持つ蓮が見ても、少女の抜いた剣が実に美しいか言うまでもない。抜剣された細剣は、持ち主を綺麗に映し出しており、同時に標的となっている蓮の姿も映している。

「おいおい!ちょっと待てって!黒使団がなんだか知らないけど、俺は獣に襲われて逃げている途中で何かの罠に引っかかって、吊されてたの!襲われてるの見てただろ!」 
「そんなの誰が信じるものですか!私を騙すための演技かもしれないじゃない!そもそも吊され…………………………………………………………………………………………………………………………………………………………て…………え、今……なんて?逃げている途中で何って?」

 殺気立つ少女だったが、次の瞬間、少女は出そうとした言葉を飲み込み、蓮の言い放った言葉の再確認を行った。

「だから、獣に襲われて、逃げてる途中にロープで吊されたの!危うく美味しく頂かれそうになったし……」 
「そ、そぅ……」

 すると何だろう。先程とは明らかに少女の様子がおかしい。それに顔がだんだんと赤くなっていくし、最終的には下を向いて俯いてしまった。

(…………あっ)

 それを見た蓮は察した。 

「君か」

 この三文字の言葉にどれだけの力があるのであろうか、少女の体がビクつき明らかな挙動不審となった。 

「ち、ちちちちちち、ちち、ち、違います…………よ」 

 さらに声までも弱々しくなっていき、先ほどの威勢は何処へ行ったのやらと思わせる弱気さ。

「俺、君のおかげで餌にされかけたんだけど」 
「そ、そぉですかぁぁぁー」
「俺、危うく死にかけたんだけど」
「へ、へぇぇぇぇぇぇぇー」
「とっても怖かったんだけど」
「うぅぅぅ~~」
「………………(ジーーーーーー)」
「で、でも!最終的には私が助けたんだから、問題はないはずよ!」 

 割と本気で責めて、最後は懇親のジト目の無言。それを食らった少女は、小さく唸りながら、結局自白した。

 てか、まさか開き直ってくるとは。流石の蓮もビックリである。少女はそれに気づいてか、ハッとなり顔をさらに赤めていく。最終的には泣きそうな顔になった。 

「うぅっ、ぅぅ~」

 てか、泣き始めた。

 まぁ、さすがに女の子に泣かれてしまうと責めるものも責められない。

「はぁ……まぁでも、助かったのは君のおかげだし、別に気にしなことにするよ。だからほら、泣かないで?」 

 蓮はため息をつき、少女に優しくほほえむ。 

「だよね!私悪くないよね!」
「ちなみにさっきの今のため息は、しょうがなくだから。別に誰も許すとは言ってませんよ?」
「はい、ごめんなさい!」 

 少女は頭を下げ、綺麗な謝罪姿を見せる。

「あの、お詫びと言ってはなんだけど、この近くに私の住んでる街があるから、そこで何かさせて」 

 そして顔を上げた少女は気前よく、蓮に謝罪の償いをしたいと言っている。 

「街か…」 

 現在地が分からない蓮にとって、それはちょうど良いタイミングだった。 

 街へ行けばここがどこだか分かるはずだし、何かの手がかりがあるからだ。そこなら何とか帰れる手段だって手に入るだろうし。

「なら、お言葉に甘え——」

 その時だったーーー

「ク゛ルァァァァァァァ」

 その獰猛な鳴き声を耳にするのは、ほんの数分前のこと以来だが、確かにその声は蓮の中に恐怖を植え付けていた。

 夢であってくれと願いつつ、恐る恐る後ろを振り向く。そして、そこに居た悪夢が夢で無いと分かった。そこにいたのは蓮の願いとは裏腹の現実。
 確かにバラバラとなり、その最後を確認したはず。しかし獣はそんなことなかったと言わんばかりに元の姿で登場した。

「おい、嘘だろ……なんで生きてんだよ」

 余りの事に蓮は咄嗟に逃げようと少女を見る。彼女の攻撃が効いていないと分かった今、彼女を置いて逃げる訳にはいかない。そこは流石に男として譲れないものがあるってやつだ。

だが、

「あれ、おかしいな?決まったと思ったのに、やっぱりコアを壊さないと倒せないか」 

 逃げようとする蓮とは違い、少女はそう言って襲いかかってくる獣に向かって、剣を振り上げる。 振り上げたその剣は、激しい光に包まれて、直視できないほどに輝いている。 

光斬撃 ルス・エペナイデン!」 

 剣を振り下ろすと、そこから無数の光の刃が繰り出される。 

(これはさっきの…!) 

 斬撃は獣を襲い、肉を切り裂き、臓器を潰す。勝負はあっという間に終わり、割れた獣の肉塊から黒く光る玉が現れた。 最後に残った光の刃がその玉を壊すと、地面に落ちた獣の肉片は砂となり、風に吹かれ消えていった。 今度こそ獣の最後である。

「私ももまだまだ未熟ね。ごめんね、倒せたと思ったんだけど……って、どうしたの?」
「えっ…と、君は、いったい?」 

 蓮の思考はパニック状態となり、もはや目の前の現実に頭が追いついていかない。 唯一口から出た言葉でさえ蓮自身が言っているのかどうかも分からないのだ。

「あっ、自己紹介がまだだったね」 

 すると少女は、よくぞ聞いてくれたと言わんばかりの笑みで振り向き、その動きに合わせるように少女の着ているコートなびかせ、胸に手を当てた。 

「私の名前はアイリ・アテンシア!今は無きアテンシア家の一人娘にして、『光明都市ルーチェ』代表の王候補!」 

 決まった、と小声が聞こえた気がするが気にしないことにしよう。 

 アイリと名乗る少女は、蓮の表情をちらちら見ながら様子を窺っている。きっと何かの反応がほしいのであろう。 
 しかし、今起こっている出来事に頭が追いついていない蓮は、アイリの決め台詞に反応する余裕は無い。 

「それで、あなたの名前は?」 

 諦めてか、小さくため息を吐くと、アイリはニッコリ笑いながら蓮の名を訪ねる。 

「俺は…御崎蓮」 
「ミサキレン?珍しい名前だね。発音的に金商都市の方かな?まぁいいや。なら…レンって呼ぶね! 私のことはアイリでいいわ」 

 まさか、自分の名前を珍しいと言われる日が来るとは、というかそれを言うなら君の名前も充分変だからな!蓮は心の中で呟いた。 

「よろしくね!レン!」 

 アイリは、手を出して握手を促す。 

 少し時間が経過してくれたおかげか、蓮は元の落ち着きを取り戻し、アイリの手を握る。その手は、白く、細く、まさに女の子の手。今日こうして異性に触れるときが来るとは……。

 蓮は、よく分からない覚悟を決め、アイリの手を強く握った。温かい。それが蓮から出てきた初めの感想であった。なんて小さな手なのだろう。その存在は脆く、今にも壊れてしまいそうな。

「どうしたの?」 
「えっ?あ、あぁ、こちらこそよろしく、アイリ」 

 余韻に浸っている蓮にアイリは不思議そうな顔で蓮の顔を覗いた。 
 まさか女の子に触るのは初めてです!とは言えない。変な誤解をされまいと、急いで蓮は挨拶を返す。 

「ふふっ、変なの。とりあえず今はこの森から出よっか。こっち!着いてきて」 

 アイリは笑った。その笑顔は愛らしく、とても可憐だ。 

 そのままアイリに促され、蓮が獣から逃げてきた道を歩いて行った。 蓮はその後を、置いて行かれまいとアイリの隣に並び街へと向かう。 

「それにしてもどうしてこっちに逃げてきたの?こっちに逃げても、森は深くなる一方だし、下手したらさっきのよりも、もっと凶暴なのに襲われてたよ」 
「え……もしかしてさっきのよりもヤバイのが?」 
「はぁ……あのね、さっきの魔獣はこの辺りでもかなり弱い方の部類よ?仮にあのまま深くまで行って『アレ』に襲われたりなんかしたら、逃げる間もなく食べられてたかもね」 

 アイリは呆れ顔と、呆れ声で言った。彼女の言う『アレ』というのが一体何なのか分からないが、考えるのも嫌なので考えないことにした。 

「でもアイリはさっき森の奥から来たけど…」 

 話を戻して、蓮は尋ねる。アイリはその森の奥から現れたのだ。 危険な地帯であると本人が言っているのにも関わらずり

「私は街の安全を守る役目を担ってて、その一貫で、森に異変がないか見ながら、街の安全確保を行わないといけないの。さっきの罠だって、魔獣駆除を行うために仕掛けたのよ。まぁ、結局レンが引っかかっちゃったけどね」 

 アイリは苦笑いをして、レンに「ごめんなさい」と小さく呟いた。 
 もう気にしていないレンは、その姿を見て、かわいいな、と思っているだけである。 

「まあ、仮に襲われても、魔法で蹴散らしちゃえばいいもの!」 

 そう言って細い腕付いた靱やかな筋肉を見せつける。なんて勇敢な女の子なのだろう。真っ先に逃げようとしたレンは少し負い目を感じてしまう程。それと同時に、自分と同じくらいの年の子が、命がけで街の安全を守ってることに感心した。 

「それは、昔から?」 
「うん。最初はとっても怖くて付き添いの人と一緒にしてたんだけど、だんだん慣れてきちゃって、いつの間にか一人で。でもうちの使用人からは、「危ないですから勘弁してください」なんて言われちゃうけど」 

 淡々としゃべるアイリの表情には、死と隣り合わせの調査に対する恐怖や自分の勤めに対する義務感といった感情は何一つ感じていないように見えた。 それは、ただ自分がやりたいからしているのか、それとも別の何かか。

 そんな事を考えながら進むと、木々の向こうに何かが見えた。そしてアイリが声を掛ける。

「もうすぐ森を抜けるから。抜けてすぐにある街に私の家があるんだ」 

 アイリが指指さす方には、大きな街が広がる。

「そういえば、ここは何県なの?」 

 忘れていた訳では無いが、森を抜ける直前で蓮はアイリに現在地を問うた。

 すると帰ってきた反応は、思いもよらぬ回答。

「ナニケン?何それ?何かの剣?」 

 レンの質問にアイリは質問で訪ねる。 

「……ん?」

 そうだ。よくよく考えてみると、何不自由なく普通に会話をしていたが、アイリの言葉には不自然な単語がたくさん出てきた。 

 魔法ってなに?
 魔獣ってなに?ってか何だったんだよ、あのバケモノ! 

 色々考えてたレンの頭には、一つの可能性が見えた。正直、信じられるはずのない、ノンフィクションの仮説。漫画とか小説とかでしか聞いたことの無い現象が、若しかすると自身の身に起きている。かもしれない…………。

 最終確認のつもりで、蓮は生唾を飲んでアイリに訪ねた。

「えっ…と、ちなみに街の名前ってのは…?」 
「街?『光明都市ルーチェ』だけど何か?」 

……どこだよ、それ。

 アイリの言った単語を聞いて、レンは仮説は最早半分以上確信へと変化し始めた。 

 これは何かの夢だ…。

 レンは、頬を引っ張る。痛い。あぁ、これは…あれだ。別の……異世界に来たってやつだ。 

 有り得ない現実を前にレンは頭の中が真っ白になった。 

「ねー!ねー!ナニケンってどういう剣なの?凄いの?強いの?おーい!聞いてる?」 

 遠くを眺めるレンをよそに、アイリは無邪気に質問を続ける。 

 かくして、御崎蓮17歳の異世界物語は、始まった。
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