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閉ざされた街
34 それまでの事情
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「本来は率先して封印を護るべき王族が魔族に取りこまれていたのか・・・しかもスレイオンがアルディアの双子の兄弟だったとは・・・」
「ダレスさん・・・あなたに事実を隠していたことも含めて・・・申し訳ありません・・・スレイオン王子との関係は、本来なら私も含めて・・・表に出てはならない秘密だったのです・・・お許し下さい!」
ダレスとしては確認のつもりだったが、アルディアには非難に聞こえたのだろう。彼女は片膝をついて跪く。ユラント教団での正式な懺悔の作法だ。
アルディアを狙った敵の行動やミシャからの証言で、彼女が王族関係者であることは予測していたが、流石にハミルに滞在していたスレイオン王子の双子の兄弟だったとはダレスも知る由がなかった。
もっとも、王子の裏切りについてはこれまで確証がないので口にしなかったが、ダレスもその可能性についてある程度の予想はしていた。封印されていた魔族の復活は、事情を知る者の協力がいなければ不可能なことだからだ。
そして、アルディアが今回の事件解決をユラント神から命じられたのも、単に彼女が神の声を聞くことが出来る信仰心を持っていただけでないことが確定的となる。おそらくは生まれ出た頃からの運命であったのだろう。
もしかしたら、アルディアの存在そのものが自分をこの騒動に巻き込み、魔族と対決するためにユラント神によってこの世に送り出されたのかもしれなかった。
それを神の導きと呼ぶか、背負わされた業(カルマ)と呼ぶかは、主観でしかない。
「・・・いや、責めているわけじゃない。そんなことは俺にしなくて良い、立ってくれ。誰にでも隠しておきたい秘密の一つや二つはあるさ。それに事情がどうあれ、俺の役目は復活した魔族を倒すだけだ、それまでの過程を気にするつもりはない!」
ユラント神の思惑はさておき、ダレスはアルディアを許すと彼女を立ち上がらせる。彼は自分が神の代理ではなく、自身の意志で戦っていると自負している。そんなことはされたくなかった。
「ありがとうございます! ダレスさん!」
戦いになると猪突猛進となるアルディアだが、言葉の中に含まれるダレスの真意を理解したのだろう。許しを得た彼女は、再び身に纏った鎖帷子の重みに動じることなく立ち上がると、神官にはない作法、一人の女として彼の手を握りながら感謝を口にする。
手袋と手甲越しではあるが、二人はその僅かな接触で互いが数奇な運命と信頼関係で結ばれていることを確認し合った。
魔族の本体に逃げられたダレス達だが、当然いたずらに時間を消費するつもりはなかった。
アルディアが攫われていた間に起きた出来事、スレイオンとの関係と魔族の正体等の詳しい説明は、彼女の奪われた装備の探索をしながら行った。
そして、ミシャの能力によって、アルディアの装備が王族専用の湯浴み場に放置されているのを見つけ出すと、アルディアは本来の姿に戻ったのである。この間、魔族の眷属による襲撃を予期していたが、幸いなことに出くわすことはなかった。それ故にダレス達には束の間の余裕が生まれていた。
「あ、アルディア様、次は逃げた魔族の捜索ですか?」
一先ずの役目を終えたミシャだったが、すかさず次の任務を求めるようにアルディアに問い掛ける。
徐々に本来の力を取り戻しつつある魔族に時間を与えるのは得策ではない。なので彼女の判断は至極真っ当だが、それは目の前で主人と緊密な関係になりつつあるダレスへの横槍にも見えた。
「いえ・・・ミシャ、魔族の居場所を探す必要はありません。再会したことでスレイオン王子と双子としての霊的因果を再認識出来るようになったのでしょう。魔族と一体しつつあることでその気配が希薄になりつつありますが、私には彼の居場所を感じることが出来ます。スレイオン王子・・・いえ、魔族はこの街のユラント神殿に居るようです!」
「ユラント神殿? そこは魔族が封印されていた場所ではないのか?」
アルディアの言葉を疑うわけではなかったが、意外とも思える魔族の逃げ場所にダレスは確認のために改めて問い掛ける。既に彼らは互いから離れ、本来の役割に集中している。切り替えの早さは二人の共通の長所のようだ。
「ええ、魔族はその霊質を神殿の地下に封印されていたとされています。本来なら、自分を閉じ込めていた監獄に戻るようですが、魔族はそこで私達と対決する気なのだと思います!」
「・・・逃げ回るのではなく、自身に都合の良い場所で俺達を迎え撃つつもりか・・・」
自身が封印されていた場所を決戦の地に選んだ理由まではわからなかったが、ダレスは魔族の考えを推測する。わざわざ自分が不利な地で戦う者はいない。そして敵はダレス達が乗り込まざる状態にあるのを知っている。
ハミルの街は外界から結界によって閉ざされており、物資は限られている。このままの状態が続けば〝白百合亭〟等で立て籠もっている生存者はいずれ餓死してしまうだろう。だからといって結界を解いたところで魔族を世に放つだけである。
ダレス達に出来るのは罠であろうとも、魔族が待つ地に乗り込むしかないのだ。
「行くしかないな!」
今更、覚悟を確認する気はない。ダレスはアルディアとミシャ、二人の仲間に結論を告げた。
「ダレスさん・・・あなたに事実を隠していたことも含めて・・・申し訳ありません・・・スレイオン王子との関係は、本来なら私も含めて・・・表に出てはならない秘密だったのです・・・お許し下さい!」
ダレスとしては確認のつもりだったが、アルディアには非難に聞こえたのだろう。彼女は片膝をついて跪く。ユラント教団での正式な懺悔の作法だ。
アルディアを狙った敵の行動やミシャからの証言で、彼女が王族関係者であることは予測していたが、流石にハミルに滞在していたスレイオン王子の双子の兄弟だったとはダレスも知る由がなかった。
もっとも、王子の裏切りについてはこれまで確証がないので口にしなかったが、ダレスもその可能性についてある程度の予想はしていた。封印されていた魔族の復活は、事情を知る者の協力がいなければ不可能なことだからだ。
そして、アルディアが今回の事件解決をユラント神から命じられたのも、単に彼女が神の声を聞くことが出来る信仰心を持っていただけでないことが確定的となる。おそらくは生まれ出た頃からの運命であったのだろう。
もしかしたら、アルディアの存在そのものが自分をこの騒動に巻き込み、魔族と対決するためにユラント神によってこの世に送り出されたのかもしれなかった。
それを神の導きと呼ぶか、背負わされた業(カルマ)と呼ぶかは、主観でしかない。
「・・・いや、責めているわけじゃない。そんなことは俺にしなくて良い、立ってくれ。誰にでも隠しておきたい秘密の一つや二つはあるさ。それに事情がどうあれ、俺の役目は復活した魔族を倒すだけだ、それまでの過程を気にするつもりはない!」
ユラント神の思惑はさておき、ダレスはアルディアを許すと彼女を立ち上がらせる。彼は自分が神の代理ではなく、自身の意志で戦っていると自負している。そんなことはされたくなかった。
「ありがとうございます! ダレスさん!」
戦いになると猪突猛進となるアルディアだが、言葉の中に含まれるダレスの真意を理解したのだろう。許しを得た彼女は、再び身に纏った鎖帷子の重みに動じることなく立ち上がると、神官にはない作法、一人の女として彼の手を握りながら感謝を口にする。
手袋と手甲越しではあるが、二人はその僅かな接触で互いが数奇な運命と信頼関係で結ばれていることを確認し合った。
魔族の本体に逃げられたダレス達だが、当然いたずらに時間を消費するつもりはなかった。
アルディアが攫われていた間に起きた出来事、スレイオンとの関係と魔族の正体等の詳しい説明は、彼女の奪われた装備の探索をしながら行った。
そして、ミシャの能力によって、アルディアの装備が王族専用の湯浴み場に放置されているのを見つけ出すと、アルディアは本来の姿に戻ったのである。この間、魔族の眷属による襲撃を予期していたが、幸いなことに出くわすことはなかった。それ故にダレス達には束の間の余裕が生まれていた。
「あ、アルディア様、次は逃げた魔族の捜索ですか?」
一先ずの役目を終えたミシャだったが、すかさず次の任務を求めるようにアルディアに問い掛ける。
徐々に本来の力を取り戻しつつある魔族に時間を与えるのは得策ではない。なので彼女の判断は至極真っ当だが、それは目の前で主人と緊密な関係になりつつあるダレスへの横槍にも見えた。
「いえ・・・ミシャ、魔族の居場所を探す必要はありません。再会したことでスレイオン王子と双子としての霊的因果を再認識出来るようになったのでしょう。魔族と一体しつつあることでその気配が希薄になりつつありますが、私には彼の居場所を感じることが出来ます。スレイオン王子・・・いえ、魔族はこの街のユラント神殿に居るようです!」
「ユラント神殿? そこは魔族が封印されていた場所ではないのか?」
アルディアの言葉を疑うわけではなかったが、意外とも思える魔族の逃げ場所にダレスは確認のために改めて問い掛ける。既に彼らは互いから離れ、本来の役割に集中している。切り替えの早さは二人の共通の長所のようだ。
「ええ、魔族はその霊質を神殿の地下に封印されていたとされています。本来なら、自分を閉じ込めていた監獄に戻るようですが、魔族はそこで私達と対決する気なのだと思います!」
「・・・逃げ回るのではなく、自身に都合の良い場所で俺達を迎え撃つつもりか・・・」
自身が封印されていた場所を決戦の地に選んだ理由まではわからなかったが、ダレスは魔族の考えを推測する。わざわざ自分が不利な地で戦う者はいない。そして敵はダレス達が乗り込まざる状態にあるのを知っている。
ハミルの街は外界から結界によって閉ざされており、物資は限られている。このままの状態が続けば〝白百合亭〟等で立て籠もっている生存者はいずれ餓死してしまうだろう。だからといって結界を解いたところで魔族を世に放つだけである。
ダレス達に出来るのは罠であろうとも、魔族が待つ地に乗り込むしかないのだ。
「行くしかないな!」
今更、覚悟を確認する気はない。ダレスはアルディアとミシャ、二人の仲間に結論を告げた。
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