ボッチを解消する方法?~そうだ、異世界から召喚しよう!~

月暈シボ

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第三話

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 何かの物音が微睡に中にあった自分の意識を覚醒させつつあった。近視感を覚えつつも、無意識に音の正体を探ろうとしたヒロキは胸に湧く大きな不安と微かに甘酸っぱいような感覚に戸惑う。
 それと同時に昨晩に見たと思われる夢のビジョンが浮かび上がった。学校の図書室にいたら突然意識を失って、気付いたら目の前に国籍不明の金髪美少女が立っていた夢だ。
『性格はともかく凄い美人だったな・・・』
 少女の顔を思い出したヒロキは微笑みながら二度寝に入ろうと寝返りを打つ。目覚まし時計が鳴るまではこうして怠惰に過ごすのが彼の癖だった。

「起きろ!ヒロキ、朝だぞ!」
 改めて問い掛けられたその声にヒロキはそれまでの眠気をかき消された。彼の脳は目まぐるしく活発化し、身体はまるで氷水を掛けられたかのように反応して寝台から飛び起きる。
 ヒロキの瞳に、癖のない見事な金髪にブラシを掛けるイサリアの姿が映った。
「おはよう、ヒロキ。君は面白い起き方をするな!そっちの世界では皆がそのように慌てて跳び起きるのか?・・・とりあえず、なんとか制服を調達して来たので、身支度を整えるついでに着替えてくれ。さすがに十五日間も同じ服を着させるわけには行かんからな。まずは洗面器で顔を洗うと良いだろう。水は綺麗にしたばかりだ」
「夢じゃなかった・・・」
「何を呆けている。ヒロキも腹は空かしておるだろう。朝食に遅れるぞ!学院長への紹介や報告はまだだが、学院の制服を着ていれば、怪しまれずに済むはずだ。君も面倒なことは腹を満たしてからの方が良いだろう?」
「それは・・・確かに・・・」
 昨夜の出来事が現実であったショックの余韻を味わう暇もなく、ヒロキはイサリアの言葉に頷く。この世界についての不安や疑問が果てしなく湧いてくるし、寝る直前に何か大事な話をしていた気もするのだが、今は彼女の指示に従うのが正解だと判断する。何しろ空腹なのは間違いないからだ。

 昨夜は学生服のまま寝かされたヒロキだったが、用意された洗面器の清潔な水で身嗜みを整えると安堵の気持ちとなる。レバーを捻れば簡単にお湯が出るような世界ではないが、衛生に対する考え方には大きな差がないようだ。
 そして、渡された学院の制服に着替えたヒロキは腕を広げながら自分の姿を眺める。制服には男女での差はなく、サイズを除けばイサリアが着ているのと全く同じだ。当然、初めて袖を通す服だが、ボタンといった衣服としての機能は現代の日本の常識と共通しているおり、問題無く着ることが出来た。日本、いや地球とは異なる文明を歩んでいる異世界だったが、衣服としての機能を追求するとこういったところは似てくるのかもしれない。また、最初はどこか照れ臭い気分であったが、実際に着てみると厳粛さを感じさせるデザインのわりに動きやすいことがわかった。
「着替え終わったよ!」
「うむ、悪くないな。脱いだ君の服はこれに・・・あと最後にこれを腰に巻いてくれ」
 身嗜みと着替えの間、後ろを向いて部屋の奥のキャビネットを漁るようにしていたイサリアが戻ってくると、ベルトとハンガーをヒロキに差し出した。

「おお・・・」
 それらを受け取ったヒロキはちょっとした歓声を漏らす。幅広の黒革のベルトにはイサリアと同じような要所を金らしき金属で飾られた短剣と、それと対照になるように先端に青い宝石で飾られた短い棒が鞘によって吊り下げられていたからだ。
「借りていいの?こんなに高そうなの・・・」
 短剣とはいえ本物の武器に興奮するヒロキだが、施された装飾からその価値を想像して問い掛ける。
「かまわない。私の予備だから気にしないでいい。士官候補生は皆、自分の短剣と杖を持つ決まりとなっているからな。使うことはないと思うが腰に巻いてくれ」
「・・・わかった!ありがとう。凄くかっこいいよ、これ!」
「うむ、そうであろう。だが、短剣は絶対に人前で抜くなよ!それはあくまでも護身用であり身分を示す飾りだからな。下手に抜くと処罰される」
「・・・なるほど、気を付ける」
 昔の武士みたいなものかとヒロキは納得すると早速ベルトを腰に巻く。イサリアの姿を見るに、どうやら短剣は正面左、棒は正面から見えないように右後ろの腰側に固定するのがここでのマナーのようだった。
「よし、ではこれから食堂に向かうぞ!」
 イサリアは僅かに傾いていたヒロキのマントを直すと満足したように告げた。

『いいか、階段を降りた先は一般寄宿寮だ。ほかの候補生達も食堂に集まってくるが、黙って私の後を・・・そうだな、身体三つ分の距離を置いて付いて来てくれ。そして食堂に入ったら、そのままさり気なく私の隣に座れ!この間は言葉を発するなよ!会話から怪しまれるかもしれないからな。ミーレはそれなりに転入生が出るから、黙っていれば皆、新しく入ったミーレだと思い込むはずだ。食事を終えたらそのまま学院長の部屋に向かうから、改めて私の後を付いて来てくれ!』
 事前に教えられとおりにヒロキはイサリアの後を五メートルほどの距離を置いて、一階の廊下を右側の窓から差し込む朝日を浴びながら他の士官候補達に紛れて歩んでいた。
 左側には等間隔にドアが並んでおり、時折その中から制服を着た同年代の少年が現れては同じ方向に向かって進んでいく。当初は緊張したヒロキだったが、少年達はイサリアの警告どおり彼の姿に特別な関心を示さなかった。

 おそらく、帝立魔導士官学院は多種多様の人種や民族の生徒達で構成されているのだろう。多数派はイサリアのような髪色が薄い人種だが、浅黒い肌や黒髪の生徒の姿もちらほらと見掛けられる。この状況では、日本人のヒロキが混じっていても彼を部外者、ましてや異世界の人間と看破するのは不可能と思われた。
 余裕の出来たヒロキはイサリアの姿を見失わないように気を付けながらも、彼女が学院の寄宿舎と呼んだこの建物の構造に付いて考える。材質の多くは石材が使われており、非常に堅牢な作りだ。
 階数は三階建てでイサリアの部屋は最上階の三階にあった。この三階部分は彼女によると優秀生達に与えられる個室を揃えた階らしい。そして一階は扉から現れる学生が全て少年であることから、男子に用意された階に違いなかった。おそらくは残った二階が女子用になるのだろう。
 ドアが並ぶ間隔からすると一般生の部屋はイサリアの部屋とほぼ同じ大きさだと思われる。だが、一度に四人ほどの候補生達が談笑しながらドアから出るところも目撃しているので、少なくとも四人以上で一部屋を使っているようだ。
 優秀生はかなり恵まれた環境を用意されていると言える。飛び級を認めている制度からして、この学院は完全実力主義ということなのかもしれない。

 優秀生との待遇の差は歴然だが、昨日聞かされたイサリアの話もありヒロキは広く快適な部屋と、狭いながらも同じ世代の少年や少女達と寝食を共にする相部屋のどちらが良いのかは簡単に判断が出来ないと思った。
 何しろ建物の規模からすると数百人の生徒が存在しているはずなのに、イサリアは試験を共に受けるパートナーを得られなかったのだ。
 そんなことを考えて廊下を歩いているとヒロキは前から届く賑やかな音に気付く。大きな空間に反響する多勢の人間達の声で雑然としていながらも、特に耳に残らないそんな類の音だ。
 イサリアに続いて雑音に包まれるようにして食堂と思わしき広間に入ったヒロキは、意識的に感嘆の声を我慢しなくてはならなかった。広間はこれで歩んでいた廊下よりも更に天井が高く、奥行も横幅の広大でこれまで彼が見たことのない空間であったからだ。
 体積的には一般的な体育館を一回りほど大きくした程だろう。それだけならここまで驚くこともなかっただろうが、荘厳な石造りの空間はヒロキに異教の神殿を思わせた。
 特に前方と思われる壁には軍勢を従えるは英雄らしき姿を描いた大きな壁画が飾られており、その写実的ながらも迫力のある描写は鬼気迫るものを感じさせる。更に広間は他にも見事と評価するしかない数々の彫刻や絵画で要所が飾られていた。
 そして広間には長テーブルが規則正しく縦四列、横五列の間隔で設置されていた。唯一の例外は前の壁画を背後にする横向きに用意された長テーブルで、それには広間を見通せるように片側だけに椅子が並べられている。
 披露宴において新郎と新婦とその親族が座る席を連想させるが、おそらくこれは貴賓席か何かなのだろうと思われた。
 縦に並べられた長テーブルには両サイド合わせて二十人が座れる席が用意されているので、この食堂は四百人以上の人間が一度に食事を摂ることが出来るようだ。

 広間の雰囲気に飲まれていたヒロキだったが、イサリアのことを思い出すと慌てて彼女の後を追う。幸いにしてヒロキが足を止めていたのは数秒に過ぎなかったようで不自然に目立つことは避けられた。
 そんな彼を余所に他の候補生達は淡々と空いている椅子を埋めて行く。どんなに素晴らしい情景や芸術作品も見慣れてしまえば日常の風景なのかもしれない。
 やがてイサリアが最前列の貴賓席から最も遠い壁側のテーブル選んだので、ヒロキも当初の計画どおりさりげなさを装って無言で隣に座る。座る席は予め場所が決まっているのではなく、食堂にやって来た順に自由に選べるようだ。これなら学生の一人や二人増えたところで目立つことはないだろう。 
 テーブル席には白いテーブルクロスの上にフォークやスプーン、皿が既に並べられており、数多くの丸いパンを乗せた籠も等間隔で置かれている。それらはヒロキの知る一般的な食器やパンとは僅かに形が異なっていたが、服装同様に大きく用途が異なるようには思えなかった。
 だが、近くのテーブルに座っている他の候補生達の誰もがまだパンに手を出さずに近くの仲間達とのお喋りを続けているところを見ると、食事の開始時間は厳格に決められているに違いない。貴賓室らしき席に座る人物達が揃ってから一斉に行われるのだろう。ヒロキは日本の学食とは異なる習慣に不安を感じながらも、香ばしい匂いを放つパンの魅力に耐えねばならなかった。
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