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白浜にて
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「ねえ、もうすぐ白浜だって! ほら看板見て」
休むことなく道を進んできた車は、運転する男の疲労感を体現するようにゆっくりと走っている。まだ明るくなったばかりだというのに、学校へと自転車を漕ぐ高校生が坂を下った先に見えていた。
「見えてる、ちょっと疲れたから黙っといてくれ。事故っても知らんぞ」
「事故は嫌よ」
「俺も嫌や」
「あら、意見が一致したわね」
「そうやな」
「元気ないわねえ」
「ああ」
存分に睡眠をとった朱音は、流れている音楽に負けるまいと喋っていた。男が相槌としては不十分な相槌を打つ。
「せっかくの温泉なのよ。楽しまなきゃ」
「なんでそんな能天気でおれるんや。いつ見つかるかもわからん状況やってのに」
目の前の信号機が黄色になる。男はアクセルに置いていたつま先を軽く上げると、踵を固定したまま隣のブレーキへと重ねた。その動きに従って車体が減速する。
「だからこそよ。もし途中で捕まったら、私は二度とどこにも行けないもの」
「そんなことは……」
無いとは言い切れず、言い淀む男。その眼前に、堂々とそびえ立つコンクリートの建物が見えてきた。
「おっ。見えたで」
「思っていたよりも近代的ね。旅館って言うよりもホテルみたい」
「なんでもええわ。とにかく、これでやっと眠れる」
車を駐車場に停車させると、積んであったキャリーケースを車から降ろした。
「どうや、旅行客っぽいやろ」
小さなタイヤが地面に擦れ、ゴロゴロと音を立てる。荷物の無い朱音は両の腕をパーカーの前ポケットに突っ込んで歩いていた。
「ねえ、それ貸して」
男の持つキャリーケースに朱音が手を伸ばす。その意味を察したのか男もすぐに譲った。
「確かに、こっちの方がええな。まんま大女優と付き人って感じやったし」
「そういえばお金ってあるの? 私は今ほとんど持ってないし、あなたは。ねえ」
振り向いて困り顔を見せた朱音に、「今更かいな」と男が短く返す。
「安心せえ、特に不自由せえへんくらいの金は持っとる」
「そう。なら安心した。私の分はきちんと返すね」
「別に返さんでええけどな」
そう言った男の返事を聞かないまま、朱音は先へと進む。エントランスに辿り着いた二人を、色鮮やかな着物に身を包んだ女将が迎えてくれた。
「お待ちしておりました。斎藤様でいらっしゃいますね。お荷物をお預かり致します」
所作ののひとつひとつが美しい女将は、朱音からキャリーケースを受け取ると、代わりに部屋の鍵を手渡した。
「すぐにお出かけなさいますか?」
まるで歌合せでもしているかのような透明度の高い女将の声。その言葉には二人そろって首を振り、その様子を見て女将がゆっくりと微笑んだ。
「ごゆっくりどうぞ」
左手を臍の前に添えたまま、じんわりと伸びた右手の指先は、既に扉を開いているエレベーターを指していた。荷物は自分で持っていくと伝えたが、それは柔らかく断られた。
「簡単な御説明もさせていただきますので、お部屋まで同行させていただきます」
女将が選んだ言葉や物言いは非常に柔らかいものだったが、その強い意志に女将の矜持を見ることが出来た。
部屋に到着し、女将から簡単に説明を受けた二人は、緊張がほどけたのか同時に座り込む。特に男は、そのまま畳に全体重を預け切った。
「やっとゆっくりできるなあ。晩飯までまだ六時間以上もあるし、ちょっとこのまま寝とくわ」
「えっ? 温泉入らないの? 貸切風呂も今なら空いてるって言ってたよ」
久しぶりに素顔を晒しても、パーカーのフードだけは深く被ったままの朱音。その心は既に湯煙の中に溶けていた。
「俺は大浴場でもええし後で入るわ。朱音、誰にも見つかるなよ」
「わかってるわよ。布団敷こうか?」
男は手だけで答える。
「そっか、おやすみなさい。ここまでありがとね、私はお風呂を楽しんでくるわ」
畳に体を突っ伏した男は、既に眠っていた。嘘のようないびきを背中で聞きながら、朱音が静かに部屋を出ていく。
「おっ風呂、おっ風呂ー」
鼻歌混じりで浮かれている様子ではあったが、細心の注意を払うことだけは忘れていなかった。幸運なことに誰にも会うことなく、目的の場所へと辿り着く。
「ここかな?」
先ほど女将から聞いた通り、貸切風呂には誰もいないことを示す札が立っていた。その札には『御入浴中は札を返してくださいませ』と書いてある。
その指示に従い朱音が札をひっくり返すと、『入浴中』の文字が現れた。
撮影現場を逃げ出してからの数日間。得体のしれない男との非現実的な旅路。朱音は浴槽に肩まで浸かりながら、この旅を心の底から楽しんでいた自分に気が付く。
「あと数日で終わりね」
朱音の吐く白い息が、無数に立ち上る湯気の中を揺蕩った。肌に留まる水滴が、割れんばかりに太陽の光を反射する。
今の彼女には後悔も無ければ、自分の人生を守り抜いたような達成感も無かった。
糸の切れた凧のように、ゆらゆらと各地を彷徨っている自分のことを、どうか早く忘れて欲しい。そう強く願うだけだった。
数日分を取り戻すかのような長風呂は二時間に及んだ。
部屋から持ってきた浴衣に袖を通すと、来た時と同じ慎重さで部屋へ戻る。湯上りで火照った体の朱音が目にしたのは、出ていった時と寸分も違わない光景だった。
「ただいまー。まだ寝てるの?」
畳の上に寝ころんだままの男に、朱音が屈んで声をかける。だが男からの返事は無い。
「ねえ、風邪ひくよ。あなたもお風呂に入ってきなよ」
肩をゆすろうと手を近づけた朱音の腕を、男が突然強く掴んだ。
「なに! どうしたの!?」
驚いた朱音は、すぐに手を自分の体の方へ引き込む。男の握る手に力は無く、腕は手の平からするりと抜けた。
突っ伏したままの男が、実は全く異なる他人だったら。そんな想像をしてしまった朱音の顔に恐怖の色が宿る。
「……ねえ? 起きてるの?」
男からの返事は無く、不気味に思いながらも再び腕を近づける。近づけた方と反対の手には、机にあった陶器の湯飲みを握りながら。
思い切って肩をゆすった朱音の肌に触れたのは、湯上りの肌でも感じるほどに熱を持った男の吐息だった。
「もしかして……」
男の額に手を当てた朱音は、その温度の高さに愕然とした。すぐさま立ち上がると、部屋の収納から布団を引きずり出す。
「あなた、熱があるんじゃない。黙ってたの? 待って、どうしたらいいんだろう」
行動に思考が追いつかない様子の朱音は、男の体を持ち上げようと試みたものの、成人男性の体の重さに断念する。
なるべく衝撃を加えないようにと注意を払いながら、男を少しずつ布団の上へと押し込んでいった。
「どうしよう。とりあえず電話……」
慌てながらも、男の体に布団をかける朱音の腕を、再び男が掴む。先ほどと違って意思を感じるその腕に安心したのか、浅くなっていた朱音の呼吸が少しばかり整う。
「朱音」
喉の奥から絞り出すような男の声がする。
「あなたは喋らないで。待ってて、すぐにフロントに連絡するから」
そう言って備え付けの電話へ手を伸ばした朱音だったが、男が出しうる限りの力で机を蹴飛ばした。整然と並んでいた湯飲みや茶菓子が、机のぶつかる音と共にあちこちに散らばる。
「なに!? やめてよ、驚くじゃない。安静にしてなって」
振り向いた朱音の目を、男がはっきりと見つめていた。焦点はあっていなかったが、何かを伝えようとする強い思いが、朱音の手を止める。
「……やめろ。ほっとけ」
「そんな高熱で何言ってるの? すぐにでも病院に行かないと」
「留まりたくないんや。足を止めるんが怖い。一回立ち止まってしまったら、俺は二度とどこにも行かれへん」
最後の方は聞き取れないくらいに小さくなった男の声。弱り切った男はゆっくりと言葉を漏らし始めた。
「朱音。お前は俺と一緒に逃げてるつもりかもしれへんけど、そうじゃないんや」
「どういうこと?」
「逃げるって言うのはな。行先がある奴が使う言葉なんや。俺は行く当てもなくただふらついてるだけ、やから目的地がないんや」
そのままこと切れてしまうのではないか。そう感じさせるほどに男は一気に言葉を続ける。
「なあ朱音、俺はずっと逃げてきたんや。仕事を言い訳に家庭から逃げ続けた。そしたら家族も仕事も無くして、今となっては逃げる場所が無くなってた」
短い息継ぎを挟んで言葉を続ける男の声。部屋がこれほどまでに静かでなければ、きっと目の前にいる朱音にすら届かなかっただろうと思わせる。
「やから俺は、やからこそ。朱音のことを逃がしてやりたい。今足を止めてしまったら、俺はもうどこにも逃げられへんねや」
すぐにでも横たわった方がいいと、そう誰もが思うくらいに憔悴した男。その長い言葉が途切れてからも朱音は口を開くことなく、代わりにほとんどわからないくらいの小さな頷きを二度繰り返した。
「わかってくれるんか?」
「わかったわよ。あなたがとても寂しがりやってこともね」
男に対して、これまで何度も語り掛けてきたのと同じような呆れ声で言葉を返す。
「仕方がないから付き合ってあげる。けど出発は明日よ、今日はゆっくり休んで」
朱音の言葉を聞いて安心したのか、男はそのまま布団に倒れ込み静かに目を瞑った。そんな男の耳には、フロントに電話をする朱音の声が聞こえる。
「余計やって言ってるのに」
その声は言葉にならない。聞こえてくる声と共に、男は眠りに落ちていった。
休むことなく道を進んできた車は、運転する男の疲労感を体現するようにゆっくりと走っている。まだ明るくなったばかりだというのに、学校へと自転車を漕ぐ高校生が坂を下った先に見えていた。
「見えてる、ちょっと疲れたから黙っといてくれ。事故っても知らんぞ」
「事故は嫌よ」
「俺も嫌や」
「あら、意見が一致したわね」
「そうやな」
「元気ないわねえ」
「ああ」
存分に睡眠をとった朱音は、流れている音楽に負けるまいと喋っていた。男が相槌としては不十分な相槌を打つ。
「せっかくの温泉なのよ。楽しまなきゃ」
「なんでそんな能天気でおれるんや。いつ見つかるかもわからん状況やってのに」
目の前の信号機が黄色になる。男はアクセルに置いていたつま先を軽く上げると、踵を固定したまま隣のブレーキへと重ねた。その動きに従って車体が減速する。
「だからこそよ。もし途中で捕まったら、私は二度とどこにも行けないもの」
「そんなことは……」
無いとは言い切れず、言い淀む男。その眼前に、堂々とそびえ立つコンクリートの建物が見えてきた。
「おっ。見えたで」
「思っていたよりも近代的ね。旅館って言うよりもホテルみたい」
「なんでもええわ。とにかく、これでやっと眠れる」
車を駐車場に停車させると、積んであったキャリーケースを車から降ろした。
「どうや、旅行客っぽいやろ」
小さなタイヤが地面に擦れ、ゴロゴロと音を立てる。荷物の無い朱音は両の腕をパーカーの前ポケットに突っ込んで歩いていた。
「ねえ、それ貸して」
男の持つキャリーケースに朱音が手を伸ばす。その意味を察したのか男もすぐに譲った。
「確かに、こっちの方がええな。まんま大女優と付き人って感じやったし」
「そういえばお金ってあるの? 私は今ほとんど持ってないし、あなたは。ねえ」
振り向いて困り顔を見せた朱音に、「今更かいな」と男が短く返す。
「安心せえ、特に不自由せえへんくらいの金は持っとる」
「そう。なら安心した。私の分はきちんと返すね」
「別に返さんでええけどな」
そう言った男の返事を聞かないまま、朱音は先へと進む。エントランスに辿り着いた二人を、色鮮やかな着物に身を包んだ女将が迎えてくれた。
「お待ちしておりました。斎藤様でいらっしゃいますね。お荷物をお預かり致します」
所作ののひとつひとつが美しい女将は、朱音からキャリーケースを受け取ると、代わりに部屋の鍵を手渡した。
「すぐにお出かけなさいますか?」
まるで歌合せでもしているかのような透明度の高い女将の声。その言葉には二人そろって首を振り、その様子を見て女将がゆっくりと微笑んだ。
「ごゆっくりどうぞ」
左手を臍の前に添えたまま、じんわりと伸びた右手の指先は、既に扉を開いているエレベーターを指していた。荷物は自分で持っていくと伝えたが、それは柔らかく断られた。
「簡単な御説明もさせていただきますので、お部屋まで同行させていただきます」
女将が選んだ言葉や物言いは非常に柔らかいものだったが、その強い意志に女将の矜持を見ることが出来た。
部屋に到着し、女将から簡単に説明を受けた二人は、緊張がほどけたのか同時に座り込む。特に男は、そのまま畳に全体重を預け切った。
「やっとゆっくりできるなあ。晩飯までまだ六時間以上もあるし、ちょっとこのまま寝とくわ」
「えっ? 温泉入らないの? 貸切風呂も今なら空いてるって言ってたよ」
久しぶりに素顔を晒しても、パーカーのフードだけは深く被ったままの朱音。その心は既に湯煙の中に溶けていた。
「俺は大浴場でもええし後で入るわ。朱音、誰にも見つかるなよ」
「わかってるわよ。布団敷こうか?」
男は手だけで答える。
「そっか、おやすみなさい。ここまでありがとね、私はお風呂を楽しんでくるわ」
畳に体を突っ伏した男は、既に眠っていた。嘘のようないびきを背中で聞きながら、朱音が静かに部屋を出ていく。
「おっ風呂、おっ風呂ー」
鼻歌混じりで浮かれている様子ではあったが、細心の注意を払うことだけは忘れていなかった。幸運なことに誰にも会うことなく、目的の場所へと辿り着く。
「ここかな?」
先ほど女将から聞いた通り、貸切風呂には誰もいないことを示す札が立っていた。その札には『御入浴中は札を返してくださいませ』と書いてある。
その指示に従い朱音が札をひっくり返すと、『入浴中』の文字が現れた。
撮影現場を逃げ出してからの数日間。得体のしれない男との非現実的な旅路。朱音は浴槽に肩まで浸かりながら、この旅を心の底から楽しんでいた自分に気が付く。
「あと数日で終わりね」
朱音の吐く白い息が、無数に立ち上る湯気の中を揺蕩った。肌に留まる水滴が、割れんばかりに太陽の光を反射する。
今の彼女には後悔も無ければ、自分の人生を守り抜いたような達成感も無かった。
糸の切れた凧のように、ゆらゆらと各地を彷徨っている自分のことを、どうか早く忘れて欲しい。そう強く願うだけだった。
数日分を取り戻すかのような長風呂は二時間に及んだ。
部屋から持ってきた浴衣に袖を通すと、来た時と同じ慎重さで部屋へ戻る。湯上りで火照った体の朱音が目にしたのは、出ていった時と寸分も違わない光景だった。
「ただいまー。まだ寝てるの?」
畳の上に寝ころんだままの男に、朱音が屈んで声をかける。だが男からの返事は無い。
「ねえ、風邪ひくよ。あなたもお風呂に入ってきなよ」
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男からの返事は無く、不気味に思いながらも再び腕を近づける。近づけた方と反対の手には、机にあった陶器の湯飲みを握りながら。
思い切って肩をゆすった朱音の肌に触れたのは、湯上りの肌でも感じるほどに熱を持った男の吐息だった。
「もしかして……」
男の額に手を当てた朱音は、その温度の高さに愕然とした。すぐさま立ち上がると、部屋の収納から布団を引きずり出す。
「あなた、熱があるんじゃない。黙ってたの? 待って、どうしたらいいんだろう」
行動に思考が追いつかない様子の朱音は、男の体を持ち上げようと試みたものの、成人男性の体の重さに断念する。
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「なに!? やめてよ、驚くじゃない。安静にしてなって」
振り向いた朱音の目を、男がはっきりと見つめていた。焦点はあっていなかったが、何かを伝えようとする強い思いが、朱音の手を止める。
「……やめろ。ほっとけ」
「そんな高熱で何言ってるの? すぐにでも病院に行かないと」
「留まりたくないんや。足を止めるんが怖い。一回立ち止まってしまったら、俺は二度とどこにも行かれへん」
最後の方は聞き取れないくらいに小さくなった男の声。弱り切った男はゆっくりと言葉を漏らし始めた。
「朱音。お前は俺と一緒に逃げてるつもりかもしれへんけど、そうじゃないんや」
「どういうこと?」
「逃げるって言うのはな。行先がある奴が使う言葉なんや。俺は行く当てもなくただふらついてるだけ、やから目的地がないんや」
そのままこと切れてしまうのではないか。そう感じさせるほどに男は一気に言葉を続ける。
「なあ朱音、俺はずっと逃げてきたんや。仕事を言い訳に家庭から逃げ続けた。そしたら家族も仕事も無くして、今となっては逃げる場所が無くなってた」
短い息継ぎを挟んで言葉を続ける男の声。部屋がこれほどまでに静かでなければ、きっと目の前にいる朱音にすら届かなかっただろうと思わせる。
「やから俺は、やからこそ。朱音のことを逃がしてやりたい。今足を止めてしまったら、俺はもうどこにも逃げられへんねや」
すぐにでも横たわった方がいいと、そう誰もが思うくらいに憔悴した男。その長い言葉が途切れてからも朱音は口を開くことなく、代わりにほとんどわからないくらいの小さな頷きを二度繰り返した。
「わかってくれるんか?」
「わかったわよ。あなたがとても寂しがりやってこともね」
男に対して、これまで何度も語り掛けてきたのと同じような呆れ声で言葉を返す。
「仕方がないから付き合ってあげる。けど出発は明日よ、今日はゆっくり休んで」
朱音の言葉を聞いて安心したのか、男はそのまま布団に倒れ込み静かに目を瞑った。そんな男の耳には、フロントに電話をする朱音の声が聞こえる。
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