アレキサンダーの戦い

桂圭人

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アレキサンダーVSマッドネス

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雨が降りしきる白銀荘の外縁、崩れかけた鉄骨とコンクリートの廃墟街。
街灯が不規則に明滅する中、赤と黒のロングコートが翻った。

「くすくす……ねえ、署長さん」

白髪の男――マッドネス=カオスフレアは、首に巻いた赤い鎖を指先で遊ばせながら、舌なめずりをするように笑った。

「秩序ってさ、本当に気持ちいいの? ぎちぎちに固めた心って、叩いたらどんな音がするのかな?」

対峙するは、白銀の制服に身を包んだ大柄な男。
アレキサンダー。銀警察署長にして、この街を統べる「銀血の壁」
彼の右手にはすでに、アレサンドサイトのペンダントが白熱し、鎖と歯車がうなりを上げて巨大なチェーンソー型大剣へと変形を終えていた。
刃は純白に輝き、雨粒すら弾く。

「……黙れ」

低い、しかし貫くような声。

「君のような存在が、この街に一歩でも踏み入れることは許さん」

マッドネスの白瞳が、ぱちぱちと不規則に明滅した。

「許さない? ははっ、ははははは! いいね、それ! その『許さない』って感情、もっともっと大きくしてよ! 爆発するまで!」

次の瞬間――
マッドネスの足元から黒赤い靄が噴き出し、地面を這うように広がった。

《カオス・インフェクション》

周囲の空気が一瞬でねじ曲がり、雨音すら歪んだ悲鳴のように聞こえ始めた。
アレキサンダーは即座に動いた。
重いブーツがコンクリートを砕き、大剣を振り上げる。
チェーンソーの歯が猛回転し、白銀の火花を撒き散らしながら、真っ直ぐにマッドネスへと叩きつけられた。

ガギィィィンッ!!

だが刃は、マッドネスの目前10センチで止まった。
赤金の仮面の下で、マッドネスが目を細める。

「…………おもしろーい」

大剣の回転が、徐々に鈍っていく。
まるで何かに絡め取られるように。

《狂気吸引》

アレキサンダーの瞳が僅かに揺れた。
――頭の奥で、何かが囁く。

(秩序なんて無意味だ)

(誰も守れない)

(君はただの――)

「――黙れ」

アレキサンダーは歯を食いしばり、左手で自身の右腕を鷲掴みにした。
骨が軋む音がするほど強く。
そして――

「僕は壁だ」

大剣の鞘部分にはまってる石が再び光を放ち、大剣の回転数が一気に跳ね上がった。

ギィィィィィィン!!!

靄を切り裂き、狂気の囁きを物理的に粉砕する轟音。
マッドネスの肩口を浅く斬り裂き、赤黒い血が弧を描いて飛んだ。

「っ……!」

初めて男の笑みが、一瞬だけ凍りついた。

「――痛い、ね」

次の瞬間、マッドネスの全身から赤黒い脈動が爆発的に広がった。

《マッドネス・オーバーフロー》

範囲30メートル。全てを即座に錯乱させる禁断の領域。
廃墟の鉄骨が勝手に曲がり始め、地面が波打ち、雨粒が逆流して宙を舞う。
常人なら一瞬で発狂する領域。
だがアレキサンダーは――
動じなかった。
白い瞳が、逆に鋭さを増す。

「その程度か」

大剣を振り回し、回転する刃で狂気の靄を強制的に引き裂きながら、一気に距離を詰めた。

「――ッ!」

マッドネスが後退する。
初めての明確な防御動作。

「待って、ちょっと待ってよ署長さん! まだ本気じゃないでしょ? ねえ?」

マッドネスは鎖を振り回し、赤い軌跡で防御を構築しようとした。
だがアレキサンダーは止まらない。
チェーンソーの刃が唸りを上げ、鎖を一刀両断。
そのままマッドネスの腹部を狙って突き進む。

「終わりだ」

ガキィン!

最後の瞬間、マッドネスは仮面ごと顔を歪めて笑った。

「――くすくす……残念」

マッドネスの指先が、アレキサンダーの胸に触れた。
《狂気吸引》の極限発動。
一瞬だけ、アレキサンダーの動きが止まる。
その刹那に――
マッドネスは逆に大剣の柄を掴み、自身の方へ引き寄せた。
そして囁く。

「一緒に、狂おう?」

だが。
アレキサンダーの左手が、マッドネスの細い首を掴み上げた。
アレキサンダーの瞳が、氷よりも冷たくマッドネスを見下ろす。

「僕は壁だ。――どんな嵐が来ようと……絶対に崩れねぇ」

次の瞬間。
チェーンソーの刃が、至近距離で最高回転。

ギィィィィィィン!!!

赤と黒のコートが、血と布片となって爆ぜた。
マッドネスの身体が宙を舞い、廃墟の壁に叩きつけられる。

「……あは」

マッドネスは血まみれの口元で、まだ笑っていた。

「…………負けた、のかな」

白瞳がゆっくりと閉じていく。

「でも……楽しかったよ、署長さん」

雨が、赤と銀を洗い流していく。
アレキサンダーは大剣を地面に突き立て、静かに息を吐いた。

「次、会うとき……動物がいいな。君な」

彼は振り返らず、ただ前を向いて歩き出した。
白銀荘の夜は、まだ終わらない。
――銀の壁は、今日も揺るがなかった。
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