ネオアビスクロニクル(ゴールデンアルカナ)誕生話

桂圭人

文字の大きさ
1 / 4

ダークネス爆誕

しおりを挟む
白城島の沿岸部は、貿易船が寄港した後が一番汚れる。  
コンテナの破片、流木、プラスチックの欠片、そして時折、誰も気づかない「何か」が打ち上げられる。  
波が引いた後の砂浜は、いつも湿った匂いが立ち込めていた。
須磨はいつものように清掃担当として一人で歩いていた。  
灰色のコートに赤いラインが一本、袖と下端を走る。  
白色のワイシャツの襟にも赤いライン、赤いネクタイが首元で締まる。  
軍帽子のつば近くにも赤いラインが一本。  
コートの裏地のカーキ縦線が、風にわずかに揺れる。  
黒いブーツが、濡れた砂を踏むたびに鈍い音を立てた。  
白い髪、白い瞳。  
白城の上級保安官でありながら、貿易後の後始末を黙々とこなす男。
今日の獲物は少なかった。  
プラスチック袋を拾い、流木を束ね、コンテナの破片を回収。  
波打ち際まで来ると、視界に異物が映った。
新品のタワー型デスクトップPC。  
黒い筐体に銀のラインが入った、明らかに高級品。  
ケースは無傷で、埃一つ付いていない。  
貿易船から落ちたものだろう。  
どさくさに紛れて紛れ込んだ、何か。
須磨は眉を寄せた。  

「こんなところで……?」

周囲を見回すが、人影はない。  
波の音だけが響く。  
彼はしゃがみ、ケースの側面に手を伸ばした。  
拾って持ち帰り、報告書に記載すればいい。  
そう思った瞬間――
ケースの表面が、波打った。
一瞬の錯覚かと思った。  
だが、次の瞬間、筐体の前面パネルがゆっくりと開く。  
いや、開くというより、裂けた。  
金属が肉のようにめくれ、内側から白と銀が混ざった粘液のようなものが溢れ出す。  
それは光を吸い込む闇そのものだった。

「――!?」

須磨の指先が触れた瞬間、闇が爆発的に広がった。  
ケースから伸びた無数の白と銀の混ざった糸が、須磨の腕を絡め取る。  
灰色のコートの袖が引き裂かれ、赤いラインが灰色に染まる。  
彼は後ろに飛び退こうとしたが、すでに遅い。
闇は須磨の体を飲み込み始めた。  
足から、黒いブーツごと。  
スラックスが溶けるように沈み、ジャケットが内側から食い荒らされる。  
白色のワイシャツが灰色に変色し、赤いネクタイが千切れて落ちる。  
軍帽子の赤いラインが、最後に闇に呑まれる。
須磨の白色の瞳が、恐怖ではなく――驚愕で大きく見開かれた。

「な……」

言葉は途切れた。  
闇は彼の口を塞ぎ、喉を、肺を、すべてを飲み込んだ。  
体がケースの中に引きずり込まれる。  
灰色のコートが最後にひらりと翻り、中に消えた。
沿岸部に、再び静寂が戻る。
ケースは、再び閉じた。  
表面は新品のままだが、今度は内側から微かな脈動が伝わる。  
黒い筐体が、ゆっくりと立ち上がる。  
ケースの前面に、須磨の白い瞳が浮かび上がった。  
いや、須磨の瞳を模した、冷たい光。
ダークネスは、体を得た。
新品のタワー型デスクトップは、砂浜に立ったまま、波の音を聞きながら静かに息を潜める。  
中から、低い電子ノイズのようなものが漏れていた。  
それは、満足げな吐息だった。
須磨の清掃は、ここで終わった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...