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イグノランス爆誕
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白城島の外周巡回路は、夜になると霧が足元を這うが、今日は昼だ。
波の音が遠くから届き、足音だけが唯一の現実を刻む。
富士はいつものように一人で歩いていた。
白い浴衣の袖に青紫の朝顔と昼顔が、月明かりにぼんやり浮かぶ。
短い白髪の後ろに金のクリップが光り、両腕の金のブレスレットが歩くたびに小さく擦れる。
紫の紐で結ばれた白の下駄が、土を軽く叩く。
白城の警備隊長として、この孤島の境界を護るのは彼の日常だった。
今日はいつもより、日が眩しい。
視界が白く滲み、足元が少しぼやける。
富士は特に警戒もせず、ただ淡々と巡回路を進んでいた。
巡回はルーチン、何年も同じ道を歩いてきた。
だからこそ、気づかなかった。
崖際に差し掛かった瞬間――
地面が、ぽっかりと消えた。
しかし、彼は声を出すことは無かった。
まるでテレビの芸人が仕掛けられた落とし穴に落ちるような、間の抜けた驚き。
紫の紐が翻り、白い下駄が宙を蹴る。
バランスを取ろうと腕を回すが、もう遅い。
浴衣の裾がふわりと広がり、青紫の花柄が月光に一瞬だけ映える。
そのまま、富士の体は大穴に吸い込まれた。
ズルッ……ドッ。
落下音は短く、鈍く響いた。
土煙が舞い上がり、すぐに溶ける。
穴は再び静かに口を開けたまま、何事もなかったようにそこにあった。
数十分後。
淡路が巡回を引き継ぐために現れた。
白い髪、白い瞳。
腰に差した金のブレードが、月光を冷たく反射する。
淡路は無線を呼びかけるが、応答はない。
不審に思い、巡回路を進むと――大穴を見つけた。
彼は慎重に近づき、縁を覗き込む。
底はやはり見えない。
しかし、その時。
穴の底から、ゆっくりと「何か」が浮上し、穴が「ソレ」に吸収された。
白い浴衣、金の朝顔と夜顔の柄、金の紐で結ばれた白の下駄。
足袋の足が、土を踏むたびに微かな音を立てる。
後ろ髪に金の三角型クリップ、両腕に金のブレスレット。
富士の姿だった。
淡路の瞳がわずかに揺れた。
偽りの富士は、無言で淡路を見据える。
白色の瞳の奥に、底知れぬ空洞が広がっている。
人間のものではない。
認識不能な闇そのもの――イグノランス=アビス。
淡路は即座に金のブレードを抜いた。
刃が月光を浴びて輝く。
「――隊長じゃないな」
偽富士は答えず、ただゆっくりと歩み寄る。
足袋の底が土を擦る音だけが、静かに響く。
淡路が斬りかかる。
金のブレードが弧を描き、偽富士の首を狙う。
しかし、相手は一瞬で身を翻し、刃をかわした。
反撃の掌底が淡路の胸に叩き込まれ、彼は数メートル吹き飛ばされる。
淡路は地面に転がり、すぐに体勢を整える。
息を荒げながら立ち上がるが、偽富士はすでに背を向けていた。
次の瞬間、偽富士の背中から金の機械羽根が展開した。
金属の羽が昼の空気を切り裂く鋭い音を立てる。
淡路が再び斬りかかろうとしたその時――
偽富士は無言で羽根を一閃。
体が宙に浮き、青空へと滑空していく。
金の朝顔と夜顔の柄が、闇に溶けるように遠ざかる。
足袋の白さが、最後に月光に浮かび、一瞬で消えた。
淡路は膝をつき、無線を握りしめた。
「こちら淡路……! 富士隊長失踪確認。富士の姿を模した不審者出現。現在、空へ逃亡……! 至急、応援要請……!」
声が震えていた。
その頃、保安官寮の管理室。
見島は淡路からの緊急通報を聞き、記録用紙に淡々とペンを走らせる。
白い瞳が、静かに文字を刻む。
- 富士(警備隊長)失踪
- 大穴からの成り代わり存在出現
- 外見:富士と同一
- 行動:淡路との交戦後、金の機械羽根で空へ逃亡
- 会話:なし
- 脅威レベル:極高
見島はペンを置き、窓の外を見た。
夜空に、一筋の金色の軌跡が残り、ゆっくりと消えていく。
島の闇が、また少し深くなった。
おまけ★
初瀬のコメント
警備隊長として置いてるけど、島国だから初瀬だけでよくね?とか思ってんけど、初瀬は島国の外の周りを巡回してるんだよね。で、富士さんは島国の中を巡回してる設定です。
それで、富士さんは辞職した三笠を墓場まで想い馳せまくるだけなんだけど、作中に三笠は一切出てこないし、逆に富士さんを想う奴なんて、誰一人もいねぇから使ってみました。すいませんが、富士さんを想う人っていますか?
私は作る前に富士さん(モデルが戦艦)のことを徹夜で検査しまくったんですけど、無理でした。
作中の三笠はプリ小説のどっかにいるんで探してください★
波の音が遠くから届き、足音だけが唯一の現実を刻む。
富士はいつものように一人で歩いていた。
白い浴衣の袖に青紫の朝顔と昼顔が、月明かりにぼんやり浮かぶ。
短い白髪の後ろに金のクリップが光り、両腕の金のブレスレットが歩くたびに小さく擦れる。
紫の紐で結ばれた白の下駄が、土を軽く叩く。
白城の警備隊長として、この孤島の境界を護るのは彼の日常だった。
今日はいつもより、日が眩しい。
視界が白く滲み、足元が少しぼやける。
富士は特に警戒もせず、ただ淡々と巡回路を進んでいた。
巡回はルーチン、何年も同じ道を歩いてきた。
だからこそ、気づかなかった。
崖際に差し掛かった瞬間――
地面が、ぽっかりと消えた。
しかし、彼は声を出すことは無かった。
まるでテレビの芸人が仕掛けられた落とし穴に落ちるような、間の抜けた驚き。
紫の紐が翻り、白い下駄が宙を蹴る。
バランスを取ろうと腕を回すが、もう遅い。
浴衣の裾がふわりと広がり、青紫の花柄が月光に一瞬だけ映える。
そのまま、富士の体は大穴に吸い込まれた。
ズルッ……ドッ。
落下音は短く、鈍く響いた。
土煙が舞い上がり、すぐに溶ける。
穴は再び静かに口を開けたまま、何事もなかったようにそこにあった。
数十分後。
淡路が巡回を引き継ぐために現れた。
白い髪、白い瞳。
腰に差した金のブレードが、月光を冷たく反射する。
淡路は無線を呼びかけるが、応答はない。
不審に思い、巡回路を進むと――大穴を見つけた。
彼は慎重に近づき、縁を覗き込む。
底はやはり見えない。
しかし、その時。
穴の底から、ゆっくりと「何か」が浮上し、穴が「ソレ」に吸収された。
白い浴衣、金の朝顔と夜顔の柄、金の紐で結ばれた白の下駄。
足袋の足が、土を踏むたびに微かな音を立てる。
後ろ髪に金の三角型クリップ、両腕に金のブレスレット。
富士の姿だった。
淡路の瞳がわずかに揺れた。
偽りの富士は、無言で淡路を見据える。
白色の瞳の奥に、底知れぬ空洞が広がっている。
人間のものではない。
認識不能な闇そのもの――イグノランス=アビス。
淡路は即座に金のブレードを抜いた。
刃が月光を浴びて輝く。
「――隊長じゃないな」
偽富士は答えず、ただゆっくりと歩み寄る。
足袋の底が土を擦る音だけが、静かに響く。
淡路が斬りかかる。
金のブレードが弧を描き、偽富士の首を狙う。
しかし、相手は一瞬で身を翻し、刃をかわした。
反撃の掌底が淡路の胸に叩き込まれ、彼は数メートル吹き飛ばされる。
淡路は地面に転がり、すぐに体勢を整える。
息を荒げながら立ち上がるが、偽富士はすでに背を向けていた。
次の瞬間、偽富士の背中から金の機械羽根が展開した。
金属の羽が昼の空気を切り裂く鋭い音を立てる。
淡路が再び斬りかかろうとしたその時――
偽富士は無言で羽根を一閃。
体が宙に浮き、青空へと滑空していく。
金の朝顔と夜顔の柄が、闇に溶けるように遠ざかる。
足袋の白さが、最後に月光に浮かび、一瞬で消えた。
淡路は膝をつき、無線を握りしめた。
「こちら淡路……! 富士隊長失踪確認。富士の姿を模した不審者出現。現在、空へ逃亡……! 至急、応援要請……!」
声が震えていた。
その頃、保安官寮の管理室。
見島は淡路からの緊急通報を聞き、記録用紙に淡々とペンを走らせる。
白い瞳が、静かに文字を刻む。
- 富士(警備隊長)失踪
- 大穴からの成り代わり存在出現
- 外見:富士と同一
- 行動:淡路との交戦後、金の機械羽根で空へ逃亡
- 会話:なし
- 脅威レベル:極高
見島はペンを置き、窓の外を見た。
夜空に、一筋の金色の軌跡が残り、ゆっくりと消えていく。
島の闇が、また少し深くなった。
おまけ★
初瀬のコメント
警備隊長として置いてるけど、島国だから初瀬だけでよくね?とか思ってんけど、初瀬は島国の外の周りを巡回してるんだよね。で、富士さんは島国の中を巡回してる設定です。
それで、富士さんは辞職した三笠を墓場まで想い馳せまくるだけなんだけど、作中に三笠は一切出てこないし、逆に富士さんを想う奴なんて、誰一人もいねぇから使ってみました。すいませんが、富士さんを想う人っていますか?
私は作る前に富士さん(モデルが戦艦)のことを徹夜で検査しまくったんですけど、無理でした。
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