ネオアビスクロニクル(ゴールデンアルカナ)誕生話

桂圭人

文字の大きさ
3 / 4

三塔爆誕:一話

しおりを挟む
白城島総合事務所、最上階。
全面ガラス張りの壁越しに広がるのは、鉛色の海と、絶え間なく打ち寄せる波の白泡だけだった。
室内は無音に近い。空調の微かな唸りと、土佐の指が金のモノクルを軽く叩く乾いた音だけが響く。
デスクの上に並ぶのは、十数件の緊急通報記録。
すべて「三塔」関連。
内容は多岐にわたるが、共通するのは「異常なウィルス拡散」「不可解な迷惑行為の連鎖」「ネットワークの深層で蠢く何か」だ。
土佐は白い髪を後ろに流し、金のモノクルを右目に押し当てた。
白色の瞳が、スクリーンに映る赤い警告アイコンを冷たく映し出す。

「またか……」

彼の声は低く、感情がほとんど乗っていない。
まるで機械がログを読み上げるようだった。
通報元はバラバラだ。
民間セキュリティ企業、複数の国家機関、匿名ハッカー集団、さらには闇サイトの管理人まで。
共通するのは「白城にしか対処できない」という一文。
土佐はゆっくり息を吐き、左手でデスクの端を叩いた。
瞬間、部屋の照明がわずかに暗くなり、壁面全体がホログラムディスプレイに変わる。
そこには、白城島上級保安官のリストが浮かび上がった。
全員、白い髪。
全員、白色の瞳。
全員、灰色のコートに赤いラインを纏った、同じ制服姿の男たち。
土佐の指がリストをスクロールする。
13名。
ちょうど一小隊分。

「香椎(かしい)をリーダーに、初鷹(はつたか)をサブ。残りは適宜配置……」

彼は独り言のように呟きながら、指を止めた。
画面に映る13人の顔写真が、静かに並んでいる。
誰も笑っていない。誰も怯えていない。ただ、無機質にこちらを見返しているだけだ。

「これで……最後になるかもしれないな」

土佐は小さく笑った。
しかしその笑みには、温かみなど微塵もなかった。
彼は椅子の背もたれに体を預け、通信パネルに触れた。
低く、命令口調で告げる。

「全上級保安官、13名。ただちに装備を整え、ブリーフィングルームへ集合せよ。任務内容は『三塔』――対象はコンパルション、コンデムネイション、コーアーションの三中枢。目的は調査および可能であれば制圧。失敗は許容しない。
――以上」

通信が切れると同時に、土佐はモノクルを外した。
白い瞳が、ガラス越しに広がる海を見つめる。

「生きて帰れると思うなよ」

彼の声は誰にも届かない。
ただ、波の音に飲み込まれるように消えていった。
数分後。
白城島の地下格納庫では、13人の男たちが整列していた。
灰色のコートに赤いライン、白色のワイシャツ、赤いネクタイ、黒いブーツの踵が、コンクリートに硬く響く。
香椎が一歩前に出た。
リーダーとして、静かに全員を見渡す。

「全員、聞こえているな」

声は低く、抑揚がない。
それでも、そこに宿る重みは、13人全員の背筋を伸ばさせた。

「僕たちは白城の刃だ。折れることも、曲がることも、錆びることもない。――行くぞ」

13の軍帽子のつばが、一斉に下がる。
赤いラインが、薄暗い照明の下で血のように光った。
ブリーフィングは短かった。
土佐からの映像資料、三塔の推定位置、既知の脅威レベル、そして――
「生還率の見込みは極めて低い」という一文。
誰も質問しなかった。
誰も動揺しなかった。
ただ、13人全員が、同じ白い瞳で前を見据えていた。
輸送機のエンジン音が、低く唸り始める。
白城島の滑走路に、黒い機影がゆっくりと動き出した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

王国の女王即位を巡るレイラとカンナの双子王女姉妹バトル

ヒロワークス
ファンタジー
豊かな大国アピル国の国王は、自らの跡継ぎに悩んでいた。長男がおらず、2人の双子姉妹しかいないからだ。 しかも、その双子姉妹レイラとカンナは、2人とも王妃の美貌を引き継ぎ、学問にも武術にも優れている。 甲乙つけがたい実力を持つ2人に、国王は、相談してどちらが女王になるか決めるよう命じる。 2人の相談は決裂し、体を使った激しいバトルで決着を図ろうとするのだった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

ドマゾネスの掟 ~ドMな褐色少女は僕に責められたがっている~

ファンタジー
探検家の主人公は伝説の部族ドマゾネスを探すために密林の奥へ進むが道に迷ってしまう。 そんな彼をドマゾネスの少女カリナが発見してドマゾネスの村に連れていく。 そして、目覚めた彼はドマゾネスたちから歓迎され、子種を求められるのだった。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

春に狂(くる)う

転生新語
恋愛
 先輩と後輩、というだけの関係。後輩の少女の体を、私はホテルで時間を掛けて味わう。  小説家になろう、カクヨムに投稿しています。  小説家になろう→https://ncode.syosetu.com/n5251id/  カクヨム→https://kakuyomu.jp/works/16817330654752443761

処理中です...