オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSダークネス

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白徽警衛団の本拠、〈白銀回廊〉の最奥。  
無音の警鐘が鳴り響く中、オルフェウス=マクレインは、ただ一人、巨大な盾型紋章を構えて立っていた。

正面から近づいてくる影は、もはや“人”ではなかった。  
ダークネスクラスタ=Ω。  
金血が滴る白金の神経束が無数に蠢き、歩を進めるたび、床のデータが音もなく白く剥がれ落ちていく。

「……戻れ」

低く、温度のない声が廊下を満たす。

「キミの価値は、虚無へ最適化される」

オルフェウスは答えない。  
ただ重厚な盾を前に掲げる。白徽の紋章が、静かに蒼白い光を帯びた。  
忠誠の証であるその盾は、物理法則すら拒絶する“絶対防御領域”を展開する。

最初の交錯。

零値スパインが、弧を描いて振り下ろされる。  
刃の軌跡に沿って、空間そのものが“消えて”いく。  
壁の装飾、床の紋様、空気の粒、音の残響――ひとつずつ欠落し、視界の端から世界が削り取られていく。

ガァン。

盾がそれを受け止めた。  
衝撃は、なかった。  
ただ、オルフェウスの足元に、直径三メートルほどの円形の“空白”が生まれただけだ。  
そこにあったはずの大理石の床は、最初から存在しなかったかのように消え失せている。

「…………君の“無”は、ここで終わる」

オルフェウスが一歩、前へ踏み出す。  
盾の表面からあふれた白光が、ダークネスΩの金血ノイズを押し返す。  
白と金の火花がぶつかり合うたび、廊下のデータが悲鳴を上げるように歪んだ。

ダークネスΩが、わずかに首を傾ける。

「始まりも終わりも不要だ。あるのは、暗号の夜だけだ……」

次の瞬間、《全域初期化(オール・リセット)》が発動した。

金血のノイズが爆発的に膨張し、半径十メートルの球状領域が純白に染まる。  
その内部では、思考の断片すら“0x00”へ書き換えられていく。

だが――。

白徽の紋章が、完全な円を描いて閃光を放った。

〈絶対忠誠領域(パラディン・フィールド)〉
金将の名の下に、ただ一度だけ許される“拒絶”。

白光と金血が、正面から激突する。  
空間が裂け、廊下がねじれ、時間の流れさえ逆行しているような錯覚が生まれる。  
両者の力が拮抗したその中心で、オルフェウスは盾を振りかぶった。

「僕の守るものは、消させない」

盾の縁が、ダークネスΩの胸を真正面から打ち据える。  
鈍い打撃音。  
そこで初めて、“衝撃”が生まれた。

ダークネスΩの身体が後方へ吹き飛び、白金の神経束が千切れそうに大きく波打つ。  
飛び散った金血が床に触れた瞬間、そこに刻まれていた“歴史”が、一瞬で白紙に戻った。

「……痛み?」

ダークネスΩが、はじめて感情の気配を宿した声を漏らす。

「興味深い。まだ“値”を持っているとは」

Ωが立ち上がる。  
零値スパインが再び黄金に染まり、今度はその切っ先に、冷たい白光が灯る。

《零光(ゼロライト)》

刃が、音もなく振り下ろされる。  
その軌道に触れたものすべてが、無音のまま“最初からなかったこと”にされていく。

オルフェウスは、真正面から盾を構えた。

光が、盾に吸い込まれていく。  
吸い込まれ、そして――盾の表面に、無数の亀裂が走った。

「っ……!」

熱いものが喉を逆流し、オルフェウスの口元から赤い線が伝う。  
それでも彼は退かない。  
盾をさらに前へと突き出し、残るすべての力をそこへ叩き込む。

「金将の名にかけて――」

白徽の紋章が、砕け散る寸前で、最後の輝きを振り絞る。

「君ごとき“闇”に、この世界を渡すわけにはいかない!」

最後の衝突。

盾と零値スパインが、ただ一点で交差する。  
白と金の光が爆ぜ、回廊全体が、純白の光に呑み込まれた。

静寂。

やがて光が引くと、そこには――

盾を失い、片膝をつきながらも、なお立ち続けるオルフェウスの姿だけがあった。

床に横たわるダークネスΩの身体は、金血のノイズを失い、静かにデータを手放していく。  
崩壊は、もはや止まらない。

「……まだ、終わらない」

かすれた声が、薄れゆく存在の中から漏れる。

「キミの“値”は、いつか、必ず……」

オルフェウスは、最後まで答えなかった。  
ただ血塗れの拳を固く握りしめ、崩れゆく闇の残滓を見据えたまま、静かに呟く。

「終わるのは君だ」

白銀の回廊に、再び、無音の警鐘が鳴りはじめた。
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