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オルフェウスVSイグノランス
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白銀の回廊に、重い靴音が響く。
金将の寝殿へ続く最後の門。その前に立つのは、白徽警衛団近衛、オルフェウス=マクレイン。
両手に構えたのは、重量三百キロを超える盾型紋章。
表面に刻まれた百の瞳は、今はすべて閉じている。
向かい側に、闇が立っていた。
「よぉ、そこのお偉いさぁん、遊ぼうよ」
幾度となく青二才を貪り喰ってきたような声。
だが、その輪郭は視界の端で常に揺らぎ、焦点が合わない。
アビス=グノマティカ。
無知の深淵そのもの。
オルフェウスは無言で盾を前に構えた。
言葉はいらない。金将の命を預かる者にとって、敵はただの「敵」だ。
「ねえ……キミは何を守ってるの?」
アビスが一歩踏み出す。
その足元から、白い検閲線が床を這い始めた。
瞬間、オルフェウスの視界の左端に、金の帯が走る。
(……左腕が、消えた?)
いや、消えていない。
ただ「そこに左腕がある」という事実だけが、認識できなくなった。
痛みすらない。痛みという情報そのものが「読めないデータ」に変換されている。
「反応が鈍いね。じゃあ…キミの名前すら思い出せなくさせてあげようか?」
アビスが右手を掲げる。
掌に浮かぶのは、鍵でも刃でもない、ただの「形のない形」
盲鍵《Blind Key》
それを軽く振るだけで、空気が腐った。
《ヌル・プロトコル》発動。
大気中に無数のバグが散布され、音も、匂いも、温度も、すべてが「語られる前に破損」していく。
オルフェウスの耳に届くはずの自分の呼吸音すら、ノイズに上書きされた。
「……ッ!」
それでも彼は動いた。
動けた。
記憶が白く塗りつぶされていこうとも、身体に刻まれた忠義だけは、まだそこにある。
盾を振り上げ、真正面から突進する。
距離、三メートル。
アビスが、愉快そうに微笑んだ。
「無駄だよ…キミが今から何をしようとしてるか、ボクにも“読めない”んだからぁ……」
その瞬間、オルフェウスの視界の中心に、真っ黒な帯が横断した。
《ブラック・デスクライブ》
盾ごと、彼の存在図形がマスクされる。
アビスの目には、もう「誰かがそこにいる」という事実すら映っていない。
ただの空白。
ただの、無。
――だが。
空白が、動いた。
ガキィィィン!!
重低音と共に、盲鍵が弾き飛ばされる。
アビスの手首が、初めて“不自然に”曲がった。
「……え?」
空白の中心から、声が漏れる。
いや、正確には声ではない。「声だったもの」が、無理やり形を保とうとする残響だ。
「僕は、覚えている!」
盾の表面に刻まれた百の瞳が、一斉に見開かれる。
閉じていたのは、敵の「認識」を遮断するため。
今、そのすべてがアビスを直視する。
直視し、決して「読めないデータ」への堕落を許さない。
「金将の名を、君の汚れた概念で塗り替えるな!」
次の瞬間、盾が振り下ろされる。
それはもはや防御の楯ではなく、断罪の鉄槌だった。
オルフェウスは、アビス=グノマティカの胸を、真正面から叩き潰す。
「――理解は、贅沢じゃない」
腐食した大気の中で、オルフェウスの声だけが、はっきりと響く。
「守るべきもののために、必要なものだ」
白い検閲線が、ガラス片のように砕け散る。
無知の深淵に、初めて「読める傷」が刻まれた。
アビスがよろめく。
これまで幾度も青二才を喰ってきたその顔に、初めて、幼さの残る驚愕が浮かぶ。
「……へえ。まだぁ…読めるヤツがいたんだ……」
血のように濃い金色の液体が、盲鍵からぽたぽたと滴る。
オルフェウスは盾を構え直した。
左腕は、まだ認識できない。
だが、構わない。右腕だけで十分だ。
金将の寝殿は、まだ無事に、背後にある。
「次は君が、僕を“忘れる”番だ」
白い近衛は、闇へ向かって再び踏み出した。
その背で、百の瞳が燃えている。
決して、目を閉ざすことなく。
金将の寝殿へ続く最後の門。その前に立つのは、白徽警衛団近衛、オルフェウス=マクレイン。
両手に構えたのは、重量三百キロを超える盾型紋章。
表面に刻まれた百の瞳は、今はすべて閉じている。
向かい側に、闇が立っていた。
「よぉ、そこのお偉いさぁん、遊ぼうよ」
幾度となく青二才を貪り喰ってきたような声。
だが、その輪郭は視界の端で常に揺らぎ、焦点が合わない。
アビス=グノマティカ。
無知の深淵そのもの。
オルフェウスは無言で盾を前に構えた。
言葉はいらない。金将の命を預かる者にとって、敵はただの「敵」だ。
「ねえ……キミは何を守ってるの?」
アビスが一歩踏み出す。
その足元から、白い検閲線が床を這い始めた。
瞬間、オルフェウスの視界の左端に、金の帯が走る。
(……左腕が、消えた?)
いや、消えていない。
ただ「そこに左腕がある」という事実だけが、認識できなくなった。
痛みすらない。痛みという情報そのものが「読めないデータ」に変換されている。
「反応が鈍いね。じゃあ…キミの名前すら思い出せなくさせてあげようか?」
アビスが右手を掲げる。
掌に浮かぶのは、鍵でも刃でもない、ただの「形のない形」
盲鍵《Blind Key》
それを軽く振るだけで、空気が腐った。
《ヌル・プロトコル》発動。
大気中に無数のバグが散布され、音も、匂いも、温度も、すべてが「語られる前に破損」していく。
オルフェウスの耳に届くはずの自分の呼吸音すら、ノイズに上書きされた。
「……ッ!」
それでも彼は動いた。
動けた。
記憶が白く塗りつぶされていこうとも、身体に刻まれた忠義だけは、まだそこにある。
盾を振り上げ、真正面から突進する。
距離、三メートル。
アビスが、愉快そうに微笑んだ。
「無駄だよ…キミが今から何をしようとしてるか、ボクにも“読めない”んだからぁ……」
その瞬間、オルフェウスの視界の中心に、真っ黒な帯が横断した。
《ブラック・デスクライブ》
盾ごと、彼の存在図形がマスクされる。
アビスの目には、もう「誰かがそこにいる」という事実すら映っていない。
ただの空白。
ただの、無。
――だが。
空白が、動いた。
ガキィィィン!!
重低音と共に、盲鍵が弾き飛ばされる。
アビスの手首が、初めて“不自然に”曲がった。
「……え?」
空白の中心から、声が漏れる。
いや、正確には声ではない。「声だったもの」が、無理やり形を保とうとする残響だ。
「僕は、覚えている!」
盾の表面に刻まれた百の瞳が、一斉に見開かれる。
閉じていたのは、敵の「認識」を遮断するため。
今、そのすべてがアビスを直視する。
直視し、決して「読めないデータ」への堕落を許さない。
「金将の名を、君の汚れた概念で塗り替えるな!」
次の瞬間、盾が振り下ろされる。
それはもはや防御の楯ではなく、断罪の鉄槌だった。
オルフェウスは、アビス=グノマティカの胸を、真正面から叩き潰す。
「――理解は、贅沢じゃない」
腐食した大気の中で、オルフェウスの声だけが、はっきりと響く。
「守るべきもののために、必要なものだ」
白い検閲線が、ガラス片のように砕け散る。
無知の深淵に、初めて「読める傷」が刻まれた。
アビスがよろめく。
これまで幾度も青二才を喰ってきたその顔に、初めて、幼さの残る驚愕が浮かぶ。
「……へえ。まだぁ…読めるヤツがいたんだ……」
血のように濃い金色の液体が、盲鍵からぽたぽたと滴る。
オルフェウスは盾を構え直した。
左腕は、まだ認識できない。
だが、構わない。右腕だけで十分だ。
金将の寝殿は、まだ無事に、背後にある。
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