オルフェウスVSネオ・アビス・クロニクル(ゴールデンアルカナ)

桂圭人

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オルフェウスVSコンパルション

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夜の金将宮殿。  
月光が、白銀の回廊を冷たく塗りつぶしていた。

オルフェウス=マクレインは、いつもの場所に立っている。  
金将の寝所へ続く、最後の扉の前だ。  
胸の重厚な盾型紋章が鈍く光り、白徽警衛団の制服には一糸の乱れもない。

扉が、音もなく開いた。

「やぁ」

現れたのは、左の塔の“統合形態”。  
漆黒の外套の下から、無数の金血の鎖が、蛇の群れのように這い出している。

コンパルション=オーバーラプス。

「通さない」

オルフェウスは静かに盾を構えた。  
巨大な円盾が、床に重い音を立てて据えられる。

「選択肢? 不要だ。ボクがロードする」

オーバーラプスが微笑む。  
指先が軽く鳴った瞬間、鎖符(チェインコード)が虚空を縫って飛んだ。

シュンッ。

最初の鎖が、オルフェウスの盾に直撃する。  
金血のルーンが火花を散らし、盾の表面に「IF、抵抗→即時無効化」の命令文が焼きつく。

「っ……!」

衝撃で膝がわずかに沈む。それでも盾は、びくともしない。

「意志はバグりやすい。だからボクが修正する」

次の瞬間、十数本の鎖が四方八方から襲いかかる。  
オルフェウスは盾を軸に身体を旋回させ、すべてを弾いた。  
金属と金血が衝突するたび、回廊に高周波のきしむ音が響く。

「無駄だよ。キミの防御は完璧すぎて、逆に脆い」

オーバーラプスが一歩、前へ踏み出す。  
鎖符が床を這い、オルフェウスの足元へと絡みつこうとした。

だが。

ガキィィン。

オルフェウスは自ら盾を床に叩きつけ、衝撃波で鎖を跳ね上げる。  
その勢いのまま盾を振り回し、半月状の斬撃を放った。  
盾の縁に宿った白銀の魔力が奔り、鎖を数本、真っ二つに断ち切る。

「金将は、絶対に渡さない」

「……いい目だ。でもね」

オーバーラプスが、両手をゆったりと広げた。

「もう遅い」

ズアアアアアアア――。

無数の鎖符が、天井から、壁から、床から、同時多発的に噴き出した。  
生き物の群れのようにうねりながら、オルフェウスの全身へ絡みついていく。

「《パペットフィールド》起動」

半径三十メートルが、金血の領域に塗り替えられる。  
回廊に控えていた他の衛兵たちが、突然ぴたりと動きを止め、瞳を虚ろにさせながら、オルフェウスの背後に整列し始めた。

「仲間ごと、キミを拘束するよ」

衛兵たちが一斉に剣を抜く。  
冷たい刃が、オルフェウスの背中へと殺到した。

「くっ……!」

オルフェウスは盾を背後に回し、同僚たちの斬撃を受け止める。  
衝撃が腕をしびれさせ、皮膚が裂け、血が滴る。

「やめないか!? 卑劣過ぎる!!!」

「考えるな。次はボクが思考する」

オーバーラプスの鎖符が、ついにオルフェウスの胸を貫いた。

ズブリ。

金血のルーンが、心臓のすぐそばで妖しく光を放つ。

《オーバーライド・ドミネーション》発動。

オルフェウスの瞳が、一瞬、金色に染まった。

「それじゃあ…金将の扉を、キミの手で開けてくれる?」

鎖がピンと張り、操り糸のように震える。  
オルフェウスの足が、勝手に一歩を踏み出した。

だが。

「………っ!」

その瞬間――  
盾の紋章が、純白の光を爆発させた。

白徽警衛団の誓約。  
『我は主の盾とならん。いかなる命令も、いかなる支配も、これを貫かず』

オルフェウスの意志が、鎖符の命令文を真正面からはね退ける。

「僕は……!」

血を吐きながら、彼は盾を振り上げた。

「僕は、金将の盾だああああああ!!」

ドゴォォォォン。

白銀の衝撃波が奔り、全ての鎖符を粉砕する。  
操られていた衛兵たちが解放され、その場に崩れ落ちた。

オーバーラプスが、初めてわずかに表情を歪める。

「……へえ。“絶対防御”の名は伊達じゃないみたいだね」

オルフェウスは、胸に突き刺さったままの鎖符を、自らの手で引き抜いた。  
傷口から血が噴き出す。それでも、その足取りは揺るがない。

「次は君が、僕の盾で終わる番だ」

盾を構え直し、一歩、また一歩と、確実に距離を詰めていく。

コンパルション=オーバーラプスは、静かに笑った。

「面白い。じゃあ、本気で遊ぼうか」

金血の鎖が、ふたたび無限に増殖しながら、二人のあいだに、決して交わらない戦場を広げていく。

月光の下。  
忠誠の盾と、絶対の支配は――  
まだ、終わらない。
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