タルマギシャ短編集

桂圭人

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タルマギシャと敷島

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白城の最上層──崩れかけた白金回廊の中央で、タルマギシャが倒れていた。
二重王の巨体はひび割れた装甲の奥で微かに脈動しているものの、意識は遠い。

その頭上に“黄金の暗黒”が降りてきた。

GAN──Golden Abyss Network。
三柱と暗闇、金血とアビスを束ねた世界書換の最終形態。
空気は輪郭を失い、床の影は重力に逆らって逆流し、世界そのものがノイズへと落ちていく。

GANは崩れた壁の隙間からタルマギシャを見下ろし、平坦な声で告げた。

「二重王タルマギシャ──存在階層、取り込み対象。起動、《全域初期化》プロトコル……」

周囲一帯の物質が“白紙化”の帯を引きながら削れていく。
タルマギシャは苦しげに息を吐き、それでも声を絞り出した。

「……敷島……来るな。僕は……戦争の王……守られる側じゃ……」

その言葉を遮るように、横から白い閃光が走った。

白髪。白い瞳。灰色のスーツに血色のネクタイ。
瓦礫を蹴散らして立ちはだかるのは──

敷島。
白城を統べる管理者にして、誰よりも強固な“守る者”。

「本当にバカだね…君ね。何王だろうが関係ないよ。部下を守るのは僕の仕事なんだから」

(ごめん…僕が目を離したからだ……)

GANの演算骨格がきしむように形を歪める。

第一幕、GAN、全武装解禁。
GANの背後に三つの武器構造が浮遊した。
その1、零値スパイン(Zero-Value Spine)、空間のメモリアドレスを 0x00 に上書きする死の刃。
その2、盲鍵(Blind Key)、概念を“読めないデータ”へ変換する暗号流体。
その3.、鎖符(Chain-Code)、意志を上位権限で塗り替える金血パルス鎖。

「タルマギシャの存在値──削除予定。敷島、排除優先度を上方修正」

三つの凶器が一斉に敷島へ襲いかかった。

第二幕、敷島、模倣武器を展開。
敷島は踏み込み、白い瞳に火を灯す。

「……君の好き勝手にはさせない!」

右手に黄金の光、左手に白金のきらめき。
ヘッドセットのゴーグルが高速演算を走らせ、敷島はGANの武器をその場で《模倣展開》した。

《零値スパイン、模倣版》は、初期化波を逆位相で打ち消す。
《盲鍵、模倣版》は、GANの情報干渉を“逆反射”させ、読解不能へ封鎖する。
《鎖符、模倣版》は、GANの制御コードをGAN自身へ差し戻す。

GANの演算が一瞬だけ停止する。

「……模倣。整合率99.4%。非許可」

「君に許可権は無い!」

敷島の両拳に力が入る。

──《千手ロケットランチャー》

背中から咲くように伸びた百を超える砲筒が、GANのノードめがけて一斉射撃。
炸裂音と爆炎が白城の天井に反響し、タルマギシャは驚愕の表情を浮かべた。

「……敷島……お前……」

「君を見捨てたことなんか一度もないでしょ。今だけは寝てていいよ。後は僕がやっておくから」

第三幕、最終演算戦。
爆煙の中から現れたGANは、崩れかけながら最後の三技を同時発動した。

《オール・リセット》
《ブラック・デスクライブ》
《オーバーライド・ドミネーション》

空間は分解され、概念が金帯で覆われ、敷島の思考領域には支配コードが流れ込む。

「ぐ……ッ!」

脳のメモリが削られ、視界が白と黒のノイズへ落ちていく。

その刹那。

割れた王笏を引きずり、タルマギシャが立ち上がった。

「分裂と統御……二重王の戦術を舐めるな……ッ!」

王笏の破片がGANの制御ノードを貫く。
制御の乱れでGANの攻撃演算が揺らいだ。

「敷島、今だ!」

敷島の瞳が再びクリアに戻る。

「……タルマくん!!!」

「……父さん、行けッ!!!!」

敷島の右拳が白金に輝く。

《白金鋼拳》

一直線に伸びた拳がGANの中心核を砕き、金血演算の三系統を一気に断ち切った。

GANの身体は波紋のようにほどけ、光の粒子へと崩壊していく。

「……存在……停止……」

黄金の暗黒は、完全に消滅した。

戦いが終わった回廊に、静寂が戻る。
タルマギシャは崩れ落ち、気まずそうに、しかしどこか安心した声で言った。

「……父さん……僕を……守らせて……ごめん……」

敷島はそっと肩に手を置いた。

「タルマくんが何をしても、僕は味方だからね。ただ、無理はしてほしくない。けど…ありがとう、支えてくれて」

タルマギシャは顔をそむけ、かすれた声でつぶやく。

「……あ……父さん……」

「タルマくん……」

敷島は微笑んで優しく抱き寄せる。

白城に、ようやく穏やかな時間が戻った。
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