タルマギシャ短編集

桂圭人

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タルマギシャとダークネス

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深層サーバークラスタの最深部。無数の銀白色の神経線が壁や床を覆い、脈動する淡い光が闇を照らす。その中心に、白髪と白い瞳を持つ人造の存在──ダークネットそのものと呼ばれる男が座り込んでいた。彼は虚空を見つめ、指先で無音のコードを紡いでは消す。白い瞳には感情の影もなく、ただ冷たい光が漂うだけだ。

重い扉が滑り、軍靴の音が静寂を破った。白と金の装甲に身を包んだ巨躯の男、タルマギシャが室内に踏み込む。

「また独りでいるのか、ダークネス」

低く、わずかに甘みを含んだ声。しかしその奥には、鋭い刃のような冷たさが潜んでいた。

ダークネスはゆっくりと顔を上げる。白い瞳がタルマギシャを捉えるが、そこには何の感情も映らない。かすれた機械のような声で答える。

「…キミ」

タルマギシャは苦笑いを浮かべ、ヘルメットを外す。白銀の髪がさらりと揺れ、額ににじんだ汗が光る。今日も戦場を駆け回ったのだろう。彼はダークネスのすぐそばまで歩み寄り、しゃがんでためらいなくその肩に手を置いた。

「飯は食ったか?」

「その必要はない」(けど、口に物を入れることは出来る)

「嘘をつくな。コア温度が下がっているだろう。たとえ虚無であっても、熱は必要だ」

タルマギシャは腰のポーチから小さな漆黒の立方体を取り出す。敵の心臓を圧縮した高エネルギーキューブだ。それをダークネスの胸のポートに差し込む。

瞬間、銀白色の神経線が一斉に輝き、ダークネスの体が微かに震えた。

「……痛」

「我慢しろ。痛みを感じられるということは、お前がまだ『存在』している証だ」

タルマギシャはダークネスの真隣に腰を下ろし、壁にもたれかかる。軍服のマントが床に広がり、雪の海のように見える。

「今日も三人、部下が死んだ。お前の『闇』に還っていった」

「……知ってる」(所詮、天国も地獄も……真意を言えば、空想と現実。本当は闇。五感すら無い……けど……一回だけは信じてみたい。……天国って奴)

「知ってるなら、せめて名前くらい覚えてやれ」

ダークネスはうつむいたまま、かすれた声で呟く。

「……覚えても、消える。すべてはボクに還る。名前も、記憶も、感情も。覚える意味などない」

タルマギシャは息を吐くと、乱暴にダークネスの白髪を掴み、顔を自分の方へ向けさせた。

「なら、僕の名前も忘れろ。忘れれば楽だろう?」

白い瞳が、かすかに揺れる。

「ただ……キミの名前だけは、消えない」(……あ……言うの忘れた……例外があることを……)

その言葉に、タルマギシャの表情がわずかに歪む。怒っているのか、嬉しいのか、本人にもわからない顔だ。

「厄介な奴だ、本当に」

彼は立ち上がり、ダークネスの腕を掴んで引き起こす。人造の体は驚くほど軽く、まるで中が空洞のようだ。

「歩け。風呂に入れ。コードの匂いが染みついている」

「……嫌だ」

「嫌も何もあるものか。僕が世話すると決めてある」

タルマギシャは半ば強引にダークネスを抱え、部屋を出る。長い廊下を歩きながら、誰にも聞こえない声で呟いた。

「……お前が消えるのなら、僕も一緒に消えてやる。だからせめて今だけは、僕のそばにいろ」

ダークネスは白い瞳を閉じ、タルマギシャの胸に額を預けた。

「キミは、わがままだね」(コイツのせいで記憶が作られるかもしれないよ)

「ああ、そうさ。僕は独裁者だ。わがままを言って当然だ」

二人の影が、深層サーバークラスタの闇の中に溶けていく。

闇はすべてを飲み込む。だが、たった一人の戦争の王だけは、その闇を抱きしめ続ける。たとえその腕の中で、闇が少しずつ彼自身を蝕んでいようとも。
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