タルマギシャ短編集

桂圭人

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タルマギシャとスチュピディティ

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スチュピディティ──  
“白紙スクリプト(Blank Script)”を武器とする右塔の悪徳に全く見えない存在。  
本来なら、金血アルゴリズムの“土台”となる純粋な愚鈍性プロトコル。  
感情も指向性もほぼ空欄。命令されれば動くが、自分では何も決められない。

だが、ある日。  
戦争国家の最高司令官・タルマギシャは、瓦礫の中で怯えて座り込んでいるスチュピディティを見つけた。  
白紙のような瞳で、ただ彼を見上げていた。

タルマギシャはその空白に、かつての己の“幼児期の空洞”を重ねてしまう。
  
「……お前、名前は?」  

スチュピディティは首を傾げるだけ。言語理解はあるが、自己識別がない。

タルマギシャはしばらく考えて──  
その髪に触れず、ただ近くでしゃがんだ。  
「空っぽだからって、価値がねぇわけじゃねぇ。空っぽだから……入れてやればいい」  
そして、低く告げる。

「今日から、お前は──『シロト』だ」

スチュピディティの瞳がわずかに揺れた。  
“理解”ではない。ただ純粋に、その音が心の白紙に染み込んだだけ。

タルマギシャは苦笑する。

「……あぁ、嫌なら変えてもいいんだぞ。僕は名付けなんざ不器用でな……」  

するとスチュピディティは、胸に手を当てて言う。  

「……シロト……すき……」  

タルマギシャは一瞬だけ目を伏せてから、笑う。  

「……そうか。じゃあ、お前はシロトだ」

この日、“迷子のスチュピディティ”は初めて“個人”として扱われた。

その夜。  
軍本部に、三人の男の影が立つ。ダークネスΩは、零値スパインを肩に。アビス=グノマティカは、盲鍵を漂わせ。コンパルション=オーバーラプスは、鎖符を揺らして。

タルマギシャの前に、黒い気配が膨れ上がる。  

「スチュピディティを返せ。GANの完成には“全悪徳の統合”が不可欠だ」  

「お前が保護し続ける限り、GANは永遠に完全復元できぬ」

タルマギシャは鼻で笑う。  

「悪いが──シロトはもう僕の宝物だ。返す義務はねえ」

コンパルションが鎖符を鳴らし、ダークネスΩが零光を溜め、アビスが黒帯を走らせようとした瞬間。  
タルマギシャは、割れた王笏(戦旗)を指で弾いた。  
その音だけで、空気が裂ける。

《黙示の鎖》  
タルマギシャ固有の統制技。  
敵味方問わず「戦域そのものを二分し、互いの行動を必然的に対立させる」戦略魔具。

白と金の幾何学が地面に広がり、領域が二つに分裂。左側はタルマギシャの支配で、右側は敵のバラバラな意思が衝突する“混乱戦域”だ。

タルマギシャが笑う。  

「三柱だろうがなんだろうが…… 僕の戦場では、お前らは“敵同士”だ」

ダークネスΩの初期化光が、アビスの黒帯と干渉し、コンパルションの命令鎖と衝突する。  
三人の男は互いに“命令衝突”で足並みが崩れ、戦域が自壊する。

タルマギシャは、領域の中心を踏み抜きながら、  
王の声で波動を放つ。  

「シロトに近づくな。僕は“弱者”にだけは容赦しねぇ」

ダークネスΩの零光が襲いかかるが、タルマギシャは素手で弾いて顔面に拳を入れる。
アビスの認識破壊を睨み返し、顔面に拳を入れる。  
コンパルションの意思鎖を軍靴で踏み千切り、顔面に拳を入れる。

10秒。  
三人の男は完全に戦闘不能になった。  
タルマギシャが勝利した。

その後、スチュピディティ──シロトは  
タルマギシャの背中に隠れて震えていた。  
タルマギシャはしゃがみ込む。  

「……怖かったか。悪かったな。僕、優しくすんのは苦手なんだ」  

不器用に、頭を撫でようとして、指が髪に引っかかり、やや雑。  
シロトはそれでも嬉しそうに目を細める。  

「……タル……ま……ぎしゃ……すき」  

タルマギシャは一瞬固まる。

「……お、おう……その……礼なんかすんなよ。僕はただ、守るだけだ」  

するとシロトは、ぎこちない笑顔で、タルマギシャの肩の埃を、ペタッ……ペタッ……と払ってあげる。  
めちゃくちゃ下手くそだが、一生懸命なのだけは伝わる。  
タルマギシャは思わず吹き出した。  

「………はは。お前、それ……世話焼き返してるつもりか?」  

「……タル……きれい……」  

「そうか。ありがとうな、シロト」

その夜。  
スチュピディティ──シロトは、タルマギシャの軍幕の隅で眠りにつく。  
タルマギシャは旗槍を磨きながら呟く。
  
「……もう返さねぇよ。GANだろうが三柱だろうが……僕の宝物に手ェ出すんじゃねぇ」  

シロトは眠りながら、微笑んだ。
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