虚理の冠に咲く一輪

桂圭人

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終章 歪制から共生へ

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図書館地下九階の入口に、新しいプレートがかけられた。

「特別資料室・管理責任者、ガルマ=ガレクト & 結城カナタ」

中では、二人が並んで作業していた。ガルマが古い写本を「認識侵触」で丁寧に修復し、カナタがそれを記録する。かつては歪曲のためだけに使われた能力が、今は保存と継承のために使われる。

「ガルマさん、これ終わったら、今日は早く帰りませんか?」

「用事か?」

「うちでニンニクたくさん使った料理を作ろうと思って。ガルマさん、体力つけなきゃ」

彼はわずかに笑った。一年前なら考えられなかった表情だ。

「また君の実験台にされるのか」

「だって、ガルマさんが一番の美食家だから」

彼女が近づき、彼の耳元で囁いた。

「それに、今夜は特別なデザートも準備してるから」

ガルマの指が、タブレットの上で止まった。金属のリングが微かに震える。

「…仕事に集中できないではないか」

「それが目的です」

カナタは悪戯っぽく笑い、彼の白髪を軽く撫でた。
ガルマ=ガレクトは思った。
彼はまだ「混沌・暴虐・歪制・虚智」の属性を捨ててはいない。むしろ、それらは彼の本質の一部だった。ただ、かつてはそれらがすべてを支配していたが、今は──
カナタという「秩序・純粋・真実・知恵」と調和している。
彼は知識の暴君であり続けるだろう。だがその支配は、もはや世界に対してではなく、彼女を守るためだけに行使される。
そして彼女の前では、彼はただのガルマでいられる。

「よし、早く片付けよう」

彼はタブレットを閉じ、立ち上がった。コートの群青の裂け目が、蛍光灯の下で優しく輝く。

「君のニンニク料理が、待ち遠しいのだ」

カナタは嬉しそうに彼の手を取った。
地下書庫を出る時、ガルマは最後に振り返り、十年間彼だけの領域だった空間を見渡した。
変わらない暗さ。変わらない埃の匂い。変わらない古い本の背表紙。
ただ一つ、確実に変わったものがある。
彼自身だ。

「行こう」

彼は彼女の手を強く握りしめた。
かつては全てを嗤っていた白色の瞳に、今は柔らかな光が宿っていた。
知識の暴君は、愛という、最も歪みやすく、最も美しい認識を手に入れた。
そして彼は知っていた──この感情こそが、彼の唯一の、そして最も大切な「虚理の冠」ではないことを。
それは紛れもない、真実の輝きだった。
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