7 / 7
終章 歪制から共生へ
しおりを挟む
図書館地下九階の入口に、新しいプレートがかけられた。
「特別資料室・管理責任者、ガルマ=ガレクト & 結城カナタ」
中では、二人が並んで作業していた。ガルマが古い写本を「認識侵触」で丁寧に修復し、カナタがそれを記録する。かつては歪曲のためだけに使われた能力が、今は保存と継承のために使われる。
「ガルマさん、これ終わったら、今日は早く帰りませんか?」
「用事か?」
「うちでニンニクたくさん使った料理を作ろうと思って。ガルマさん、体力つけなきゃ」
彼はわずかに笑った。一年前なら考えられなかった表情だ。
「また君の実験台にされるのか」
「だって、ガルマさんが一番の美食家だから」
彼女が近づき、彼の耳元で囁いた。
「それに、今夜は特別なデザートも準備してるから」
ガルマの指が、タブレットの上で止まった。金属のリングが微かに震える。
「…仕事に集中できないではないか」
「それが目的です」
カナタは悪戯っぽく笑い、彼の白髪を軽く撫でた。
ガルマ=ガレクトは思った。
彼はまだ「混沌・暴虐・歪制・虚智」の属性を捨ててはいない。むしろ、それらは彼の本質の一部だった。ただ、かつてはそれらがすべてを支配していたが、今は──
カナタという「秩序・純粋・真実・知恵」と調和している。
彼は知識の暴君であり続けるだろう。だがその支配は、もはや世界に対してではなく、彼女を守るためだけに行使される。
そして彼女の前では、彼はただのガルマでいられる。
「よし、早く片付けよう」
彼はタブレットを閉じ、立ち上がった。コートの群青の裂け目が、蛍光灯の下で優しく輝く。
「君のニンニク料理が、待ち遠しいのだ」
カナタは嬉しそうに彼の手を取った。
地下書庫を出る時、ガルマは最後に振り返り、十年間彼だけの領域だった空間を見渡した。
変わらない暗さ。変わらない埃の匂い。変わらない古い本の背表紙。
ただ一つ、確実に変わったものがある。
彼自身だ。
「行こう」
彼は彼女の手を強く握りしめた。
かつては全てを嗤っていた白色の瞳に、今は柔らかな光が宿っていた。
知識の暴君は、愛という、最も歪みやすく、最も美しい認識を手に入れた。
そして彼は知っていた──この感情こそが、彼の唯一の、そして最も大切な「虚理の冠」ではないことを。
それは紛れもない、真実の輝きだった。
「特別資料室・管理責任者、ガルマ=ガレクト & 結城カナタ」
中では、二人が並んで作業していた。ガルマが古い写本を「認識侵触」で丁寧に修復し、カナタがそれを記録する。かつては歪曲のためだけに使われた能力が、今は保存と継承のために使われる。
「ガルマさん、これ終わったら、今日は早く帰りませんか?」
「用事か?」
「うちでニンニクたくさん使った料理を作ろうと思って。ガルマさん、体力つけなきゃ」
彼はわずかに笑った。一年前なら考えられなかった表情だ。
「また君の実験台にされるのか」
「だって、ガルマさんが一番の美食家だから」
彼女が近づき、彼の耳元で囁いた。
「それに、今夜は特別なデザートも準備してるから」
ガルマの指が、タブレットの上で止まった。金属のリングが微かに震える。
「…仕事に集中できないではないか」
「それが目的です」
カナタは悪戯っぽく笑い、彼の白髪を軽く撫でた。
ガルマ=ガレクトは思った。
彼はまだ「混沌・暴虐・歪制・虚智」の属性を捨ててはいない。むしろ、それらは彼の本質の一部だった。ただ、かつてはそれらがすべてを支配していたが、今は──
カナタという「秩序・純粋・真実・知恵」と調和している。
彼は知識の暴君であり続けるだろう。だがその支配は、もはや世界に対してではなく、彼女を守るためだけに行使される。
そして彼女の前では、彼はただのガルマでいられる。
「よし、早く片付けよう」
彼はタブレットを閉じ、立ち上がった。コートの群青の裂け目が、蛍光灯の下で優しく輝く。
「君のニンニク料理が、待ち遠しいのだ」
カナタは嬉しそうに彼の手を取った。
地下書庫を出る時、ガルマは最後に振り返り、十年間彼だけの領域だった空間を見渡した。
変わらない暗さ。変わらない埃の匂い。変わらない古い本の背表紙。
ただ一つ、確実に変わったものがある。
彼自身だ。
「行こう」
彼は彼女の手を強く握りしめた。
かつては全てを嗤っていた白色の瞳に、今は柔らかな光が宿っていた。
知識の暴君は、愛という、最も歪みやすく、最も美しい認識を手に入れた。
そして彼は知っていた──この感情こそが、彼の唯一の、そして最も大切な「虚理の冠」ではないことを。
それは紛れもない、真実の輝きだった。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
愛しているなら拘束してほしい
守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる