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しおりを挟む「・・な、何を言ってるの」
「久しぶりだし、ちゃんとしなきゃと思って」
いきなり何を言い出すかと思えば、彼の口から出てきたのは理解できない言葉達だった。
お膳立てってなに?
「ごめん・・・なさい。言ってることがよく分からない。デートって」
浮気相手の女の子と出かけるのではないのか。こんな正装した彼とは対照的に、今の私は、何年も着ている可愛げのないスカートに、地味な色の長袖。あとは、最近買い替えたエプロンだ。
「そうだよね。今日は別に記念日でも何でもない
し」
いや、そういうことではない。
もしかして、これは浮気がバレたことに気が付いて、それをなんとかしようという魂胆なのだろうか。
「・・・他に・・誘う女の子がいるんじゃないのかしら。別に気を使わなくてもいいのよ」
「え?・・・どういう意味?」
いつもより数段かっこよく見える彼の視線から逃げるように…いや、実際は自分が思っていることを口にしてしまったがために、どんな顔をすればいいかなくなった私は、顔を伏せて足元を見た。激しい怒りも込み上げてこない。
(・・・この人はさっきから何を言ってるの)
いざこういう場に立ち合うと、実際は怒りよりも一人惨めに今まで何を頑張っていたんだろうという恥ずかしさが込み上げてきた。只々すぐに一人になりたいと強く思うだけで、下を向いた私に話しかける彼の声は、本当に何を言ってるのか分かっていないような、そんな声色だった。
(・・・靴)
そういえば…。
正装してる彼だから、もちろん靴もお出掛け用だ。足の大きさはいくつだっけ。確か、靴をプレゼントしたことがあった気がする。でもそれも何年も前の話で、その靴を彼が履いている所を最近は見なくなった。
「スージー、女の子って誰のことだい?」
「・・・」
「ごめん、でも下向いてちゃ分かんないだろ?僕を見てくれないか?」
台の上に置いていた両手は今、自身の体の前でぎゅっと握られている。振り返ったおかげで彼と正面から向き合う形になった。久しぶりに真正面で会話をしている気がした私は、下唇を噛んで目を泳がせていた。
「・・・・貴方が・・仕事場で会った子と仲良くしてるって」
こういう日のために、心を整理していた私。
「ヘレンから聞いたの。その子とデートも行ってるって・・・」
もういいのよ。
切り捨てられても大丈夫なように、心を頑張って閉ざしたから。
「・・デート?・・・あぁ食事のことかい?」
「わ、分からないわ。でもヘレンが・・・そう言ってたから。その子・・・貴方の職場に新しく配属されてきた子だって」
「・・・もしかして、ジェイのことかな」
「・・・・」
彼の口から出たその女の子の名前を聞いた私は、彼の靴から視線を上げた。少しずつ、何故かわからないが視界がぼやけてくる。
「ジェイは確かに、僕のところに配属された子だよ。お昼ご飯も一緒によく行ってるかな。夜も仕事終わりは、食事に誘われるから一緒に行くことがあるけど」
「・・・・」
「スージー、もしかして、浮気を疑ってるの?」
「だって、職場でよくその子と一緒に居るって」
「誰から聞いたんだい?」
これを聞いたのはヘレンからではない。ヘレンはそもそも彼と違う課で仕事をしているから、遠目にしか見たことがないのと、あとは噂だ。
「・・・そ、そんなのどうだっていいじゃない!とにかく、貴方が・・・っ」
浮気をしているのが悪いのよ。
そう言いそうになって、思わず拳に力が入った。
「ん~・・・確かに、その子とはだいたい一緒にいることが多いけど」
ほら、やっぱり。
優しいから、皆貴方のことを好きになるのよ。
「でも、他の女性の職員のこと、怖いって。だから、僕のところによく来るんだ。仕事も指導係だから、つきっきりになるときもあるしね」
平気でそんなことを言うカイは、私の気分を逆撫でしていることにまるで気が付いてない。
「でも、それの何が悪いんだい?ジェイは、昔年上の女性にひどい目に遭ったらしくて、苦手って言ってたから」
「・・・・」
「ジェイは、凄く繊細な子なんだ。せっかく久しぶりに僕の課に入ってきた新人だから、邪険にすることなんか出来ないよ」
最後のカイのセリフを聞いた私は、自分の中の何かが崩れ落ちて行く気がした。まるで肩透かしをくらったように、開いた口が塞がらない。
「・・・・っ」
涙さえ拭くことを忘れて、歪んでいく彼の顔をそのまま見つめていた。
「ス、スージー・・・なんで泣いてるんだい?」
「・・・なんでも・・・ないわよ」
「なんでもないわけないだろう?僕と今日デートに・・・って思って・・・色々準備してたんだけど」
何が問題なのか、分かってない貴方と、デートなんて行けるわけがないでしょ。
「・・・その子とデートに行けばいいじゃない」
「え?」
「だから、その可愛い繊細な女の子と、デートに行って2人で楽しんでくればいいじゃない!」
叫び声は上げたくない。あくまでも冷静にと、そう思っていたけど、ここまでカイが女の子を庇うなんて今までになかったから、私は涙が止まらなくて、握っていた両手をほどき、涙を拭いた。
「スージー・・・ごめん、さっきから言ってるけど、どういう意味だい?可愛い女の子って」
「だから、貴方がいつも一緒に居るジェイって子のことよ!」
涙を拭いたおかげで、彼の顔が幾分はっきりと見える。そして私が言い放った言葉に、カイは眉をひそめた。
「・・・何を言ってるんだい?ジェイは男の子だよ?」
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