【完】キスのその先

ぷりん

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 「カイ・・・デートって・・・・どこに行くのかしら」

 最初の彼からの声かけ。
 目的は私をデートに誘うことだったらしいけど、あんな話になってしまい、結局時間がおして彼が予約していたレストランはタイムオーバーで行けなくなってしまった。

 「どこってデートだよ」

 もともと華やかな場所に行く用の服を最近はこしらえていなかったから私にとってみれば結果オーライではあるけど…。

 「こ、こんな格好・・・」
 「とても似合ってる。僕が作らせたんだ。サイズもぴったりだろう?スージーは普段から踵が高い靴を履かないから、それに合わせて作ってもらったんだ」

 にこやかに嬉しそうにそう話すカイは、普段どおりに戻った様子だ。

 (確かに歩きやすいけど・・・)

 寝室で話を終えて暫く抱き合っていた私達は、カイの突然の「あっ!!」という声に、体を離した。
 レストランはもう駄目になったけど、彼が用意してくれていた服を着て今は外に出かけている。

 そして久しぶりの夜の街。
 こんな格好で、彼と腕を組んで歩くだなんて。
 想像がつかなかった私は、周りの視線を気にしていた。
 デートだと言い張って、ゆっくりと歩くカイの隣にいる私は、周りからどう見られているのだろうか。せめて帽子でもあれば顔を少し隠せるのに。

 「う、嬉しいけど・・・」
 「どうしたんだい?あぁ、夜ご飯を食べ損ねたからお腹減ってる?」

 いや、違う。そういうのではない。そういうのではないんだけど…。

 「行き先は・・・」
 
 外は暗いのに、お店から漏れる光のせいで、思ったよりも明るい夜の街。行き交う人は皆楽しそうだ。すれ違う人にぶつからないようにカイがうまくエスコートしてはくれているものの、どこに行くか教えてくれない。

 (レストランの名前は教えてくれたけど、そこにはもう行かないし・・・)

 「内緒だよ。最近できたとこだから、スージーはきっと知らない」
 「・・・?」

 だんだん寒くなってきた今日此頃。冬に向けて準備が始まってきたのは、なにも季節だけではない。人間だってそれに合わせて変わっていく。最近は冬が来るのが嫌だった。日が落ちるのが早くなるから、気分も暗くなる。窓の外を見ては時計を確認して、ため息をついていた。
 でも、今日はそんなことする暇も、考える暇もない。

 (冬の匂い・・・)
 
 少し乾いた風に、頬をすり抜けるひんやりとした冷たい空気が彼と密着して熱くなった身体を少しだけ冷ましてくれていた。
 結局どこに行くかは、教えてくれなくて、彼のエスコートを頼りに暫く夜の街を歩いていた。

 ◇◇◇


 「・・・ここは」
 「最近できたんだ。珍しいよね、こんなホテル」
 「・・・・」
 「本当は、今日君をデートに誘って、夜ご飯を食べて、少し歩いて、君が好きそうなお店に入って買い物して、」

 カイが連れてきてくれた場所は、街の少し外れたところに最近できたホテルだった。 街の外れにしては、人が多い。できたばかりで、話題に上がっているのだろうか。それでもホテルなんて、こんなところで何をするのだろう。お金なんて持ってきてない。レストランの代わりにここでご飯を食べるとか?

 「っていうプランだったんだけど」
 「あぁ・・・」

 受け付けを済ませて、エレベーターを待ちながら、そう話すカイ。『けど』という切り返しに、罪悪感でいっぱいになった。でも、そもそも知らされてなかったから、私のせいでもない気がする。

 「このホテルだけは間に合った。良かった」
 「・・・予約してたの?」
 「そうだよ。予約しないと来れないしね」

 予約していた?それじゃあ夜ご飯ではない?
 
 「・・・何をするの?」
 「今日はここに泊まるんだよ」
 「・・・・へ?」
 「確かに記念日でも何でもないし、お互いの誕生日でもないけど」

 ようやく来たエレベーターからチンっと音が鳴って扉が開くと、人が結構出てきた。そして全員が降りたあと、言いかけの言葉を残して、カイと私はエレベーターに乗った。
 降りた人はたくさんいたけど、エレベーターに今乗っているのは私達だけだ。

 「・・・泊まるって何を」

 カイが手を伸ばした先にあったのは、行き先を告げる階数のボタンだった。チラッと見ると28階まである。そしてカイは少し下の25階を押した。

 「少し気分を変えたほうがスージーもいいかなって。職場の人に教えてもらったんだ」
 「・・・気分?」
 「うん」

 あっという間にエレベーターは25階に着いた。
 よく分からないけど、ここに泊まるということは、家に戻るのは明日になる。だから猫達を両親に預けたのかと、そんなことを考えていた私は、カイにエスコートされて部屋の前についたことに気がついていなかった。

 「入って」
 「う、うん・・・」

 鍵をカードで開けて、扉を押したカイに言われて先に入った部屋。
 デスクライトだけに照らされたその部屋は、カーテンがオープンになっていて閉鎖的な感じはしない。というか…。

 「凄く・・・広いね。でもここに泊まるって・・・」
 
 未だにカイの意図している事がよくわからない。こんな豪華な部屋に泊まることなんてしなくても家があるのに。気分転換なら夜の街のデートでもじゅうぶんだ。

 「うん」

 部屋の中を色々見渡しながら、辿り着いた先は気になった窓の外。

 (うわ・・・・綺麗)

 そして見下ろしたその窓から振り返って、カイに視線を送ろうとした私だったけど、急に背中に違和感を感じて振り返ることができなかった。
 妙に熱い気がするその違和感。

 「・・・カイ・・」
 「うん」
 「なんで・・・うんしか言わないの・・・?」

 窓の外を見ることしか出来なくなった私は、お腹に彼の腕が回ったのを感じた。

 「ずっとどうしようか考えてたんだ」
 「・・・・」
 「いつも君は早く寝るから、きっと疲れてるんだろうと思ってなかなか誘えなかった」

 ずっと切っていない髪は長く伸びてしまっていていつもはゴムでくくっているけど、今日はおろしたままだ。でもそのおかげで首は寒くない。

 「スージーが嫌がることはしたくないから、はっきり言ってほしいけど、君はもう僕のことは欲しくない?」
 「・・・・」

 密着された背中に、お腹に回った手、そしてカイが聞いてきた問いかけに、こんな私でも彼が意図している事がだんだん分かってきた。
 
 ずっと、もう子どもができないんだと思うようになってから、彼からの誘いをやんわり断るようになってきた私。いつしか彼からの誘いもなくなってしまっていた。

 (・・・・なんて愚かな)

 「そんなこと・・・・ないわ」
 
 ずっとサインを断り続けていたのは、私の方で、一つだめだと他のことも遮断してしまう性格になってしまったのは、いつからなのか。
   
 はっきりと貴方が欲しいと今更言えない私は、彼の言葉を否定するので精一杯だった。

 「本当?」
 
 窓の外は眺めが良くて、まるでイルミネーションを見ているかのようだ。そして手持ち無沙汰で慣れない心臓のドキドキに戸惑った私は、おろしたままで少し邪魔になっていた髪を耳にかけた。

 「・・・・カイっ」
 
 でもそんな行動は、もしかしたら取らないほうが良かったのかもしれない。今度は耳に違和感を感じて、それが彼の名前を呼んだときに、吐息となってでてしまった。


 「君を抱きたい」
 

 
 

 
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