【本編完結】オメガの貴公子は黄金の夜明けに微笑む

中屋沙鳥

文字の大きさ
35 / 53

34.子どもたちの幸せ

しおりを挟む


◇◇◇◇◇


「それでフロレルは、アントワーヌとはどのような話をしたのだ?」
「はい、アントワーヌは、しばらくの間わたくしに公爵家に留まってほしいと思っているらしいのです」
「ほう……」
「あらまあ……」

 談話室でジョゼフとシャルロットに向かい合って腰をかけるフロレルは、家族にしか見せないふわりとした笑みを浮かべて問いに答える。フロレルの言葉にジョゼフは楽し気に笑みを浮かべ、シャルロットは意外なことが起きたかような声を上げて口元を扇で隠した。

「きっと正式にショコラ公爵家の継嗣となったので緊張しているのでしょう。いつまでも側にいてくれなどと甘えられてしまいました。アントワーヌが、可愛いアンヌに戻ったかのように錯覚したほどです」

 そう言ってから薔薇の香りのお茶を口にするフロレルは、優雅で美しい。

「アントワーヌはフロレルに、伴侶になって番となりたいと申し込んだと言っていたのだが」
「ええ、そんなことも言っていました。アントワーヌは、きっと安心したいのだと思います。好きな人ができたら、気が変わりますよ」
「あら、フロレルがアントワーヌの好きな相手だとは思わなかったのかしら?」
「……? アントワーヌは、そのようなことは全然言ってはいませんでしたが?」

 フロレルは、ジョゼフの確認に首を横に振り、シャルロットの質問には首を傾げた。
 アントワーヌのフロレルに対する恋慕を知っているジョゼフとシャルロットは、フロレルに何も伝わっていないことに少々の驚きを禁じ得なかった。

 特に、あの策士で腹黒いアントワーヌが、フロレルに気持ちを伝えられていないということについて。

 優秀なフロレルであったが、オメガと診断されてすぐにシャルルとの婚約が決まったため、色恋沙汰には縁がなかった。

 はっきり言ってその方面には鈍いといえる。

 だから、はっきりアルファとしてオメガのフロレルを愛していると伝えなければ、単なる親愛と思われる可能性があるのをアントワーヌは知っているはずだとジョゼフとシャルロットは思っていた。二人はこの状況になって、アントワーヌも色恋については駄目だったのだとようやく理解した。
 しかしジョゼフとシャルロットは、アントワーヌから聞いた話とフロレルが受け止めている話のずれを面白がる人間でもある。

「フロレルは、どうしてアントワーヌが貴方に伴侶になってほしいと言ったと思うの?」
「わたくしを伴侶として番になってしまえば、ショコラ公爵家の利にはなるでしょう。そのこともアントワーヌの考慮のうちなのではありませんか? わたくしにも考える時間をくれると言っていました。その間に、アントワーヌが望む人が見つかればその方が良いに決まっています」

 シャルロットの問いに答えて微笑むフロレルには、自分が愛されて求められているというような意識は全く見られない。

 その様子を見て、ジョゼフとシャルロットは顔を見合わせて苦笑いを浮かべた。

 たとえ求愛がうまくいかなくても、最終的にアントワーヌの望みは部分的には叶うだろう。しかし、恋する一人の男としては不本意極まりないだろうとジョゼフは思う。
 また、シャルロットは、アルファがオメガに愛を乞うために様々な方策を取るのは当たり前だと思っている。ジョゼフがそうであったのだ。だからアントワーヌには努力が足りないと、シャルロットは思う。

 フロレルに側にいることを許されたアントワーヌ。彼がこれからフロレルの愛を得るためにどのようなことをするのか。
 ジョゼフもシャルロットもそれを楽しみにすることにした。

 その後は、古代語の研究の進捗を話し、明日は新しくできたカフェにアントワーヌと行く約束をしていると二人に伝えて、フロレルは談話室を退出した。


 ジョゼフとシャルロットは、侍女に新しいお茶を淹れることを命じ、寄り添いあう。

「わたしも読みが甘かったな。このようなことになるとは」
「ええ、わたくしにとっても予想外だったわ」
「どうなって行くのか、見ものだな」
「ふふふ、そうね」
 
 フロレルにも、アントワーヌにも幸せになってもらいたいと思っているのに、面白がっているのは不謹慎だろうか。
 ジョゼフはそう思いながら、愛するシャルロットの顔を見つめる。

「フロレルの心を掴む誰かが現れたら、アントワーヌはどうするかしらね」
「それは……、フロレルのために、そのような人物は現れないことを祈るしかないな」

 愛するオメガに対するアルファの執着心には、恐ろしいものがある。アントワーヌのような上位アルファであれば猶更だ。
 フロレルがアントワーヌ以外の者を愛したら、どうなるかわからない。
 アントワーヌはフロレルを囲い込んで離さなくなるだろうし、フロレルの相手は生きていられないかもしれない。
 いざとなればジョゼフが何とかするだろうとシャルロットは思っている。そして、ジョゼフには動く用意はある。

 だけどそれは、良いことではないとも二人は思っていた。

 だから、ジョゼフもシャルロットもフロレルとアントワーヌに任せることにしたのだ。

「わたくしたちの子どもが、二人とも幸せになりますように」
「そうだな。それを祈ろう」

 微笑むシャルロットの頬に、ジョゼフは口づけを落とした。



しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

「オレの番は、いちばん近くて、いちばん遠いアルファだった」

星井 悠里
BL
大好きだった幼なじみのアルファは、皆の憧れだった。 ベータのオレは、王都に誘ってくれたその手を取れなかった。 番にはなれない未来が、ただ怖かった。隣に立ち続ける自信がなかった。 あれから二年。幼馴染の婚約の噂を聞いて胸が痛むことはあるけれど、 平凡だけどちゃんと働いて、それなりに楽しく生きていた。 そんなオレの体に、ふとした異変が起きはじめた。 ――何でいまさら。オメガだった、なんて。 オメガだったら、これからますます頑張ろうとしていた仕事も出来なくなる。 2年前のあの時だったら。あの手を取れたかもしれないのに。 どうして、いまさら。 すれ違った運命に、急展開で振り回される、Ωのお話。 ハピエン確定です。(全10話) 2025年 07月12日 ~2025年 07月21日 なろうさんで完結してます。

王女が捨てた陰気で無口で野暮ったい彼は僕が貰います

卯藤ローレン
BL
「あなたとの婚約を、今日この場で破棄いたします!」――王宮の広間に突然響いた王女の決別宣言。その言葉は、舞踏会という場に全く相応しくない地味で暗い格好のセドリックへと向けられていた。それを見ていたウィリムは「じゃあ、僕が貰います!」と清々しく強奪宣言をした。誰もが一歩後ずさる陰気な雰囲気のセドリック、その婚約者になったウィリムだが徐々に誤算が生じていく。日に日に婚約者が激変していくのだ。身長は伸び、髪は整えられ、端正な顔立ちは輝き、声変わりまでしてしまった。かつての面影などなくなった婚約者に前のめりで「早く結婚したい」と迫られる日々が待っていようとは、ウィリムも誰も想像していなかった。 ◇地味→美男に変化した攻め×素直で恐いもの知らずな受け。

伯爵家次男は、女遊びの激しい(?)幼なじみ王子のことがずっと好き

メグエム
BL
 伯爵家次男のユリウス・ツェプラリトは、ずっと恋焦がれている人がいる。その相手は、幼なじみであり、王位継承権第三位の王子のレオン・ヴィルバードである。貴族と王族であるため、家や国が決めた相手と結婚しなければならない。しかも、レオンは女関係での噂が絶えず、女好きで有名だ。男の自分の想いなんて、叶うわけがない。この想いは、心の奥底にしまって、諦めるしかない。そう思っていた。

ノーマルの俺を勝手に婚約者に据えた皇子の婚約破棄イベントを全力で回避する話。

Q矢(Q.➽)
BL
近未来日本のようでもあり、中世の西洋のようでもある世界。 皇国と貴族と魔力が存在する世界。 「誰が皇子と婚約したいなんて言った。」 過去に戻った主人公が、自分の死を回避したいが故に先回りして色々頑張れば頑張るほど執着されてしまう話。 同性婚は普通の世界。 逃げ切れるかどうかは頑張り次第。 ※ 生温い目で優しく暇潰し程度にご覧下さい。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

愛してやまなかった婚約者は俺に興味がない

了承
BL
卒業パーティー。 皇子は婚約者に破棄を告げ、左腕には新しい恋人を抱いていた。 青年はただ微笑み、一枚の紙を手渡す。 皇子が目を向けた、その瞬間——。 「この瞬間だと思った。」 すべてを愛で終わらせた、沈黙の恋の物語。   IFストーリーあり 誤字あれば報告お願いします!

公爵家令息と幼馴染の王子の秘め事 ~禁じられても溺愛は止められない~

すえつむ はな
BL
代々王家を支える公爵家の嫡男として生まれたエドウィンは、次代の王となるアルバート王太子の話し相手として出会い、幼い頃から仲の良い友人として成長した。 いつしかエドウィンの、そしてアルバートの中には、お互いに友人としてだけでない感情が生まれていたが、この国では同性愛は禁忌とされていて、口に出すことすら出来ない。 しかもアルバートの婚約者はでエドウィンの妹のメアリーである…… 正直に恋心を伝えられない二人の関係は、次第にこじれていくのだった。

トップアイドルα様は平凡βを運命にする【完】

新羽梅衣
BL
ありきたりなベータらしい人生を送ってきた平凡な大学生・春崎陽は深夜のコンビニでアルバイトをしている。 ある夜、コンビニに訪れた男と目が合った瞬間、まるで炭酸が弾けるような胸の高鳴りを感じてしまう。どこかで見たことのある彼はトップアイドル・sui(深山翠)だった。 翠と陽の距離は急接近するが、ふたりはアルファとベータ。翠が運命の番に憧れて相手を探すために芸能界に入ったと知った陽は、どう足掻いても番にはなれない関係に思い悩む。そんなとき、翠のマネージャーに声をかけられた陽はある決心をする。 運命の番を探すトップアイドルα×自分に自信がない平凡βの切ない恋のお話。

処理中です...