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69.僕たちは皆で楽しい時間を過ごしたのですが
しおりを挟む事件が解決しないまま日は過ぎてゆき、僕たちは卒業の準備に追われるようになった。魔獣凶暴化の調査の件は、星祭以降、魔獣の出現が以前通りになったため、今のところ僕たちの出番はない。各団の捜査の結果を待つことになる。
そのような周囲の状況により、僕たちは暫し、学生らしい生活を送ることになった。
卒業研究の論文が終わった僕たちは、久しぶりに街へ買い物に出かけた。今の生徒会メンバーに、お別れのプレゼントを用意するためだ。
ラインハルト様と僕は学校を卒業してしまえば、自由な外歩きは制限される。警備や護衛のことを考えれば、仕方ないことだと思う。
いろいろな事件に巻き込まれたせいで、今もたくさんの護衛がついているけれども。
生徒会メンバーには、色違いのガラスペンをプレゼントすることにした。ガラスペンは、僕たちが思う彼らの色を選んだ。
「ガラスペンも、色の種類がこんなに沢山あるのですか」
「ラファエル様は、いつも同じ色のペンをお使いですからね」
「ラインハルト殿下がお選びになるのでしょう?」
「ええ、ラインハルト殿下からいただものを使っております」
僕は、フローリアン様とブリギッタ様と、ガラスペンの話で盛り上がった。ガラスペンについては、フローリアン様はいつも決まったものをお使いになり、ブリギッタ様は様々な種類のものを使い分けていらっしゃるようだ。
僕が使っているガラスペンは、いつもラインハルト様が贈ってくださるのだ。青のガラスに金箔が散りばめられている美しいガラスペンは、特注品だと聞いている。
「ラインハルト殿下の独占欲は、ガラスペンにまで表れていらっしゃる」
「本当に、お二人は微笑ましいですわね」
「……ありがとうございます」
「ラファエル様、ここはお礼を言うところではありませんよ」
「ごちそうさまですと申し上げておきますわ」
フローリアン様とブリギッタ様とそんなお話をしながら、ガラスのペン立てを見る。
お二人ともそれぞれ、ディートフリート様とアルブレヒト様へのプレゼントを選んでいらっしゃるようだ。
このように自由に買い物をできる機会は、少なくなる。
僕もラインハルト様へのプレゼントとして、薄い水色のガラスのペン立てをこっそりと買うことにした。これなら小さくて邪魔にならないし、執務室で使っていただけるのではないかと思う。
僕の目の色にしてしまったので、独占欲が強いと言われてしまうだろうか……?
そう思ったけれど、フローリアン様は蜂蜜色の、ブリギッタ様は灰緑色のペン立てをお求めになっていらっしゃったので、皆、独占欲が強いということなのだろう。
大切な婚約者に自分の色を贈るのは、当たり前のことなのだけれど。
「買い物は、終わりましたか?」
買い物を先に終えていたディートフリート様が、僕たちがリボンをかけてもらった箱を鞄にしまったところで声をかけてくださった。ラインハルト様とアルブレヒト様、マルティン様も買い物を終えていらっしゃるようだ。
その後は、予約した人気のカフェへ向かう。個室を用意してもらっているので、ゆっくりと過ごすことができそうだ。
このカフェは、ふわふわのワッフルにクリームと果物をたっぷりと添えた、素朴なプレートが人気だ。
「ラインハルト様、美味しゅうございます」
「それは良かった。ラファエルはベリーが好きだからね」
「相変わらず、仲がよろしくて」
「いつもの風景が平和でようございます」
「ディートフリート様には、僕が食べさせてあげますよ」
「フローリアン、んぐっ」
「ベリーケーキを追加で」
ラインハルト様が、ご自分のプレートからベリーを選んで、僕に食べさせてくださる。新鮮なベリーが美味しい。
僕を見て、優しく微笑んでくださるラインハルト様。アルブレヒト様とブリギッタ様は、その僕たちの様子を笑顔で見ていらっしゃる。フローリアン様はディートフリート様の口にクリームたっぷりのワッフルを運び、マルティン様はケーキの追加注文をなさっている。
僕たちは、美味しいワッフルを味わい、他愛のない話をして、楽しい時間を過ごした。
これからも、このようなときを過ごすことができたら良いのに。僕は心からそう思う。
皆でカフェを出て、馬車止めまで移動しているときだった。
「だーかーらー! このカフェでワッフルを食べさせ合うイベントが、あるんだってばー!」
「……!」
聞き覚えのある甲高い叫び声。その後で聞こえたのは男の声のようだけど、くぐもっていて何を言っているのかわからない。
あの甲高い特徴的な声は、まさか……シモン?
「イベント」という言葉から考えても、シモンだろうと僕には思えた。
シモンだったとすれば、いったいどこにいたのだろうか。どうしてここにいるのだろうか。
僕が声のする方へ向かおうとすると、ラインハルト様に止められた。
「ラファエル、どこへ行くんだい? 危ないからわたしたちから離れてはいけないよ」
「……あの、レヒナー男爵令息の声が聞こえたように思いまして」
「レヒナー男爵令息? 子どものような叫び声は聞こえましたけれど……」
マルティン様の言葉に、僕以外の人たちには、子どもが話す意味のない言葉に聞こえたのだということを理解する。イベントなどという言葉は、この世界にはない。
「もしかしたらということもある。レヒナー男爵令息の顔を知っている護衛に、見に行かせよう」
ラインハルト様はそうおっしゃって、いつも学校で僕についてくれている護衛に様子を見に行かせてくださった。
「レヒナー男爵令息らしき人物は見当たりませんでした」
巡回をして帰って来た護衛は、そのように報告をした。
シモンの声だと思ったのは、僕の聞き間違いだったのだろうか。
そもそも、シモンが生きているかどうかもわからないのだ。
だけど、もしあれがシモンの声だったのだとしたら。
シモンはまだ、イベントをクリアすることにこだわっているのだろうか……?
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