【本編完結】断罪必至の悪役令息に転生したので断罪されます

中屋沙鳥

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71.断罪されない未来があっても良いのかもしれません



 ヘンドリック殿下に火炎弾を放った犯人の身元は、火炎弾で燃やされた演台に残っていた魔力から判明した。
 彼は数年前、卒業間近という時期にシュテルン魔法学校を退学処分になっていた男だった。

 ジークフリート様が一年生だったときに三年生だったというその男は、大きな魔力を持ち、将来を嘱望されていた。しかし、魔力を増幅するという違法な薬物の取引に手を染め、騎士団に逮捕された。魔力を封じる魔石を体内に埋め込まれる処置を施された彼は、刑期を終えた後に定職につくこともできず、荷運び等で日銭を稼いでは酒と賭博に使っていたらしい。家族からは籍が抜かれ、完全な絶縁状態になっている。

「魔封じの魔石を手術で取り除いた形跡がある。おそらくそれと引き換えに、兄上を襲撃する仕事を引き受けたのだろう」

 ラインハルト様は、そう言って僕の口の中にマドレーヌを入れた。
 ここは、王宮にあるラインハルト様の私室である。普段、王宮を訪れたときにはサロンでお茶を頂くのであるが、警備の都合もあり、ラインハルト様の部屋で婚姻式の相談を行っている。
 ヘンドリック殿下が襲撃されたことについても、僕が知らないわけにはいかないため、許される範囲内での捜査状況を聞かせていただいている。

 そして、ラインハルト様と隣り合って座ったソファの上で、僕はお菓子を給餌されているのだ。
 王宮の焼き菓子は、美味しい。

「ウーリヒが接触していた形跡もあるようだし、新たな勢力ではなく一連の事件の延長と考えるべきだろうね」

 僕は発酵バターとバニラの香りがするマドレーヌを飲み込んだ後、紅茶で喉を潤した。

「では、おそらく国家転覆を企んでいるであろう勢力は、まだ動いているということですね」
「そうだね……。引き続き、身辺には用心しなければならないようだ。
 この春に行われる兄上の婚姻式と立太子式までには、片付けないといけないのだろうけれど」

 ウーリヒ先生の自白調書は順調に取れているようだ。今回の事件に関わった男に接触していたこともすぐに証言するだろうとのことだ。肝心の主犯にあたるであろう人物の証言は全く取れていないが、行動場所とその時系列によって割り出すことができるだろう。
 ただし、自白剤を使った後のウーリヒ先生の消耗は凄まじいようだ。もしかしたら、刑を執行する前に命を落とすかもしれないという。

 どうしてウーリヒ先生が、国家転覆に手を貸そうという気になったのだろうか。いや、そこまで現在の国家体制に反発していたというのはどうしてなのだろうか。僕からは、生真面目な性格の人のように見えていたのだけれど。
 もっとも、動機を確認しているかどうかも僕にはわからないので、他の何らかの理由があるのかもしれない。

 そして彼らが、国家を転覆させた先にはどのような目標があるのだろうか。


 厳重な警備体制のままで、卒業式まで学校には通うことになるだろう。僕の馬車には、ヒムメル侯爵家の護衛が、そして学校の中では王家から派遣された護衛がついている。
 一日中守られているわけだけれど、僕の行動も一日中監視されているのと同じ状態だ。


「ラファエル様、カフェテリアに新作のデザートが導入されましたよ」
「それは、食べてみなくてはなりませんね」

 皆でランチを食べるためにカフェテリアへ移動する。ヘンドリック殿下の襲撃から二日ほど休んでいた僕に、フローリアン様がカフェテリアの情報を教えてくださる。
 卒業までは、カフェテリアでの食事を楽しまなければ。
 卒業してしまえば、もう食べることはできなくなるのだから。

「おや、めずらしくホフマン学長がカフェテリアを利用なさっているのですね」

 アルブレヒト様が、目敏くホフマン学長を見つけてそうおっしゃった。
 ホフマン学長は、ウーリヒ先生が逮捕されたことで取り調べを受け、監督不行き届きということで、二週間の謹慎処分を受けていらっしゃった。以前は、学生と一緒にカフェテリアで食事をなさっていたのだが、それ以降は学長室に食事を運ばせるようになっておられたのだ。

「ようやく気持ちの整理がついたのでしょうか」
「ウーリヒ先生の件は、ショックだったでしょうからね」

 僕たちから見たホフマン学長は、やつれていて痛々しいほどだ。

 ホフマン学長は、ロルバッハ魔法騎士団長の伴侶の兄にあたられる。
 ウーリヒ先生は、個人的にロルバッハ魔法騎士団長と仲が良かったので魔法騎士団に出入りをしやすかったと言われる。しかし、ホフマン学長も、シモンの指導をする協力を魔術師団にだけでなく、魔法騎士団にも依頼していたのではないかと噂されている。
 それは、おそらく事実なのだろうと思う。

 善意を利用されて、裏切られたらどんな気持ちになるだろう。
 ホフマン学長が、お気の毒で仕方がない。

 おそらく、卒業式まであとわずかになったため、三年生のいるカフェテリアの様子を見てくださっているのだろうと思う。僕たちは皆でそんな話をした。


 家に帰ると、卒業式に着る衣装が届いていた。ラインハルト様が贈ってくださったものだ。
 ラインハルト様の瞳の青い色の生地に金糸で精緻な刺繍が施されたタキシードは、僕の体にぴったりだった。

 卒業式までは本当にあとわずかだ。シモンが行方不明のままであるし、僕が断罪されるような要素は、まったくないものと思われる。

 きっと、どの『ヒカミコ』とも違う世界の物語になっているから、断罪なんてないに違いない。
 ラインハルト様のお幸せのために断罪されようと思っていた。だけど、ラインハルト様のお幸せのために断罪されない未来があっても良いのかもしれない。


 僕は鏡の中の自分に、そう話しかけた。


 

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