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1 新学年への期待
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朝起きた時、今日がどんな一日になるか純粋に楽しみだと思えることの幸福は、一日の始まりになんの希望も持てなかった辛さを知っているからこそ実感できる。
高校二年生の春、俺は新学年の学生生活への期待に胸を膨らませていた。
俺は、その幸福を知っている側の人間だ。
「あ! 裕也! 今年も同じクラスだったよー」
見慣れた校門を通って向かった掲示板。そこへ先に到着していた沙耶香が小走りに近寄ってくる。サラサラの長い黒髪が右に左にひらひらと揺れ、つい目で追ってしまう。
「おー! そんなら今年もよろしくな。颯太達はどうだった?」
「颯くんは一緒だけど、北斗と義和は隣のクラスでね、美波も離れちゃったー」
「あー、まあ、そんなもんか」
一年の頃から連んでいる奴らの名前があがる。全員一緒、というわけにはいかなかったが、その分新しい出会いもあるだろうと考えれば、そこまでがっかりはしない。
「うぇー!! 裕也が離れちまったよぉ……俺がいなくても寂しくて泣くなよぉ」
「何言ってんだ、お前こそ寂しくて泣い……おいこら、離せ暑苦しい」
後ろからがばりと俺に抱きついてきた北斗はぐりぐりと俺の頭頂部に額を押し付ける。やめろ、自分の背が高いからって嫌味かこら。
「いやぁ、ちょうどいい高さに頭があるからさー、つい」
「つい、じゃねーよ。俺が小さいみたいじゃねーか」
俺は断じて小さくはない。185センチオーバーの北斗がデカすぎるだけだ。
「小さいとは言ってねーし。あー、義和しかいねぇじゃんかー」
「それ言ったら私だけ一人別のクラスなんだけど、何これ学校にいじめられてる?」
いつのまに隣に来ていたのか、不満そうに口を尖らせる美波に沙耶香が休み時間会いに行くねと約束をする。華奢で小柄ないかにも庇護欲を誘う沙耶香とは対照的に、高身長に短めのショートボブの大人びた印象を持つ美波。二人が仲良さげにしているとなんかこう、いけないものを見ているような気持ちになる。いいぞもっとやれ。
「お前と二人とかちょっと嫌すぎるんだけど。おい、横にくんな」
次いでやってきた平均を若干下回る身長の義和は、北斗と並ぶのを嫌がる。義和のすぐ後ろには、飄々としていて何を考えてるかよくわからないけどやたら整った顔の颯太がいる。
「裕也、また一年よろしくね」
「ああ。よろしくな」
いつものメンバーが揃ったので、ゆるゆると始業式会場である体育館へ足を向ける。一通り歓喜と落胆を終えた周囲もガヤガヤと移動し始める。
春休み中のとりとめのない出来事を話しながら、俺はまた楽しい一年が始まることを確信していた。
「あ、つかお前らのクラスあいついるじゃん、高林」
話題が一段落したところで、北斗が思い出したように言う。
聞いたことのない名前に首を傾げる。目立つやつの中にそんな名前のやつはいなかったはず。
「高林?」
「おう、同中でさ、ずっとクラス一緒だったんだけど、一度も喋ったことねぇんだよな」
「お前が?」
北斗はでかい犬みたいな奴で人懐っこい。クラスメイトはみんな友達、を地でいくタイプで、しかもどうにも憎めないところがあるのであらゆる系統の奴となんだかんだすぐに仲良くなってしまう。最初は多少うざがられていても。そんな北斗が三年間同じクラスで会話すら交わしたことがない、というのは信じがたい。
「いやさ、最初の頃何度か挨拶したんだけど無視されてさぁ。あんま人と話すの好きじゃねぇのかな? って思ってそっとしておいたのよ、空気の読める北斗くんは」
「自分で言うな、自分で。まあ、そういう奴もいんだろ」
距離感おかしいと思いきや、引くべきところは引けるところがコミュ力の高さの所以なのかもしれない。
俺は頭の中で一匹狼的な、表情が動かないクールな感じの男を思い浮かべる。
そういうの、男として憧れはするけど、俺は友達とわいわい騒ぐのか好きだからそうはなれないな。北斗すら打ち解けられなかった相手なら、俺も関わることはないだろう。
高林の話はそれ以上広がることはなかった。
高校二年生の春、俺は新学年の学生生活への期待に胸を膨らませていた。
俺は、その幸福を知っている側の人間だ。
「あ! 裕也! 今年も同じクラスだったよー」
見慣れた校門を通って向かった掲示板。そこへ先に到着していた沙耶香が小走りに近寄ってくる。サラサラの長い黒髪が右に左にひらひらと揺れ、つい目で追ってしまう。
「おー! そんなら今年もよろしくな。颯太達はどうだった?」
「颯くんは一緒だけど、北斗と義和は隣のクラスでね、美波も離れちゃったー」
「あー、まあ、そんなもんか」
一年の頃から連んでいる奴らの名前があがる。全員一緒、というわけにはいかなかったが、その分新しい出会いもあるだろうと考えれば、そこまでがっかりはしない。
「うぇー!! 裕也が離れちまったよぉ……俺がいなくても寂しくて泣くなよぉ」
「何言ってんだ、お前こそ寂しくて泣い……おいこら、離せ暑苦しい」
後ろからがばりと俺に抱きついてきた北斗はぐりぐりと俺の頭頂部に額を押し付ける。やめろ、自分の背が高いからって嫌味かこら。
「いやぁ、ちょうどいい高さに頭があるからさー、つい」
「つい、じゃねーよ。俺が小さいみたいじゃねーか」
俺は断じて小さくはない。185センチオーバーの北斗がデカすぎるだけだ。
「小さいとは言ってねーし。あー、義和しかいねぇじゃんかー」
「それ言ったら私だけ一人別のクラスなんだけど、何これ学校にいじめられてる?」
いつのまに隣に来ていたのか、不満そうに口を尖らせる美波に沙耶香が休み時間会いに行くねと約束をする。華奢で小柄ないかにも庇護欲を誘う沙耶香とは対照的に、高身長に短めのショートボブの大人びた印象を持つ美波。二人が仲良さげにしているとなんかこう、いけないものを見ているような気持ちになる。いいぞもっとやれ。
「お前と二人とかちょっと嫌すぎるんだけど。おい、横にくんな」
次いでやってきた平均を若干下回る身長の義和は、北斗と並ぶのを嫌がる。義和のすぐ後ろには、飄々としていて何を考えてるかよくわからないけどやたら整った顔の颯太がいる。
「裕也、また一年よろしくね」
「ああ。よろしくな」
いつものメンバーが揃ったので、ゆるゆると始業式会場である体育館へ足を向ける。一通り歓喜と落胆を終えた周囲もガヤガヤと移動し始める。
春休み中のとりとめのない出来事を話しながら、俺はまた楽しい一年が始まることを確信していた。
「あ、つかお前らのクラスあいついるじゃん、高林」
話題が一段落したところで、北斗が思い出したように言う。
聞いたことのない名前に首を傾げる。目立つやつの中にそんな名前のやつはいなかったはず。
「高林?」
「おう、同中でさ、ずっとクラス一緒だったんだけど、一度も喋ったことねぇんだよな」
「お前が?」
北斗はでかい犬みたいな奴で人懐っこい。クラスメイトはみんな友達、を地でいくタイプで、しかもどうにも憎めないところがあるのであらゆる系統の奴となんだかんだすぐに仲良くなってしまう。最初は多少うざがられていても。そんな北斗が三年間同じクラスで会話すら交わしたことがない、というのは信じがたい。
「いやさ、最初の頃何度か挨拶したんだけど無視されてさぁ。あんま人と話すの好きじゃねぇのかな? って思ってそっとしておいたのよ、空気の読める北斗くんは」
「自分で言うな、自分で。まあ、そういう奴もいんだろ」
距離感おかしいと思いきや、引くべきところは引けるところがコミュ力の高さの所以なのかもしれない。
俺は頭の中で一匹狼的な、表情が動かないクールな感じの男を思い浮かべる。
そういうの、男として憧れはするけど、俺は友達とわいわい騒ぐのか好きだからそうはなれないな。北斗すら打ち解けられなかった相手なら、俺も関わることはないだろう。
高林の話はそれ以上広がることはなかった。
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