前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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2 前世の話

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 俺には前世の記憶がある。
 正確には、ある日突然思い出した。忘れもしない、俺が小学校三年生のことだ。

 俺は仲の良い両親のもと長男として生まれ、自分が両親に愛されることも、近所の同年代の子が全員友達であることも疑いもせず健やかに育った。
 物心ついた頃から、社交的で友達が多かった。
 それは俺にとって当たり前で、特別なことではなかった。

 だから、思い出した記憶に俺は驚愕したのだ。

 前世の俺は、いわゆる陰キャってやつだった。
 幼少期から内向的で、外を駆け回って遊ぶ同年代の子たちに混じって遊ぶことができず、いつも一人ぼっちだった。
 遊びたくなかったわけじゃない。声をかけられてもそれになんと答えていいかわからなかったのだ。初めの頃は誘ってくれていた子たちも、早々に俺を見放した。そりゃそうだ。声をかけてもまともに返事もできない人間をいつまでも構ってくれるわけがない。
 前世の俺は、自分から仲間に入れてと言うこともできず、ただ物欲しそうに外で遊ぶ子たちを眺めることしかできなった。

 そんな性格は成長しても変わらず。
 友達ができないだけならまだしも、思春期になると女子にはヒソヒソ遠巻きにされて気持ち悪がられるし、男子からは揶揄われるしで散々だった。でも、揶揄われたことへの反応すらちぐはぐで、ドン引きされてその揶揄いすら継続しなかった。
 思春期を過ぎると周囲も落ち着いてきて、そうするといよいよ周りは俺に全くの無関心になった。
 前世の俺は別に一人が好きだったわけじゃない。人と何を話していいのか、相手が自分に何を求めているのかわからなかったのだ。だから、たまに誰かが気紛れに話しかけてくれても、まともな返答ができなかった。
 だからこそ、誰にもいないもののように扱われることは辛かった。
 親は共働きで忙しく、ほとんど家にいなかったし、兄弟もいなかった。

 一人は寂しい。誰かと過ごしたい。

 ずっとそんなことを考えて、けれど自分では何もできず、淡々と人と関わらない日々を過ごしていった。
 進学しても、就職しても、何も変わらなかった。
 
 最期どうなったかまでは覚えていない。しかしおそらく俺は、孤独なまま儚くなったのだろう。

 そんな記憶を、八歳の俺は思い出してしまった。
 今世の自分とは全く関係ないことなのに、思い出した途端、孤独の寂しさや悲しさ虚しさが襲ってきて、俺はボロボロと大粒の涙をこぼした。そして、惜しみなく愛情を注いでくれる両親やいつも遊んでくれる友達が周りにたくさんいることがいかに幸せなことなのかを知った。
 それまで当たり前だった日常が、特別なものに変わったのだ。

 だが、やはり今世の俺は前世の俺とは違う。

 前世の俺は人に話しかけることができないどころか、せっかく話しかけてもらってもまともに返事すらできなかった。
 けれど、俺は記憶を思い出した後も、思い出す前と同じように人に話しかけられたし、声をかけられれば大して悩みもせず返事もできた。
 前世の俺は自分なんかに話しかけられたら嫌なんじゃないかとか、急に話しかけて邪魔してしまったらどうしようとか、勝手に被害者意識を持ったり、勝手に相手の状況を推測したりしていた。何であんなにネガティブな思考だったのかは全くわからない。話しかけられたらかけられたで、ちゃんと期待通りの返事をしなければ……! みたいに気負ってしまって、でも何が正解かわからずに考えすぎて明後日の回答をしてしまったり。
 
 なんというか、不器用が過ぎたんだろう。でも、前世の俺が最もダメだったのは、相手の目を見なかったことだろう。
 相手の目を見れば、相手が自分にどういう感情を持っているかはなんとなくわかる。嫌われていなければ、よっぽど失礼なことを言わなければいきなり悪印象を持たれることなんてない。
 いや、前世の俺は、もしかしたら相手の目を見てもそんなことわからなかったかもしれない。周囲の空気を察する能力が著しく低かったのだから。
 今の俺は人とのコミュニケーションで悩むことがない。相手が何を期待しているか、どんな対応を求めているか、何を話したいか、なんとなくわかるのだ。頭で色々考えなくても、反射みたいに口が動く。
 まあ、北斗みたいなコミュ力おばけには到底及ばないけれど。

 これはもうある程度生まれ持ったもので、前世の俺が持たなかったものを今の俺が持っているだけなのだと思った。
 前世の俺を不憫に思った神様が、今世の俺にコミュ力を与えてくれたのだと。

 こうやって俺は、いわゆる陽キャとしての人生を歩んできている。
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