前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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3 高林という男

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「裕也どうしたー? 始業式終わったぞー。目、開けたまま寝てんのか?」

「あ? 寝てねーし。ちょっと宇宙の真理について考えてただけだし」

「何だそれ。ボケたつもりか? 面白くねーぞ」

「うっせ」

 つい前世のことを思い出していたら、いつの間にか始業式が終わっていた。義和こら、可哀想な子を見るような目で俺を見るな。
 周囲を見ると、ぞろぞろと移動が始まっている。
 沙耶香と美波は他の女子たちときゃっきゃしながら教室へ向かっている。

「んじゃ、俺らも移動しますかね」

「いやお前待ちだったんだわ。何仕切ってんだ」

 主にツッコミを担っている義和に更にツッこまれながら俺たちも移動を始める。つか北斗は寝てたな。目が半分しか開いてねぇ。案の定、義和にお前も寝てたのかと呆れられている。

「裕也、席近いといいねぇ」

「あー、でも最初は出席番号順じゃねぇの? 颯太と俺じゃ離れてんだろ」

 「粟野」の颯太と「高柳」の俺では近くにはならないはずだ。
 そう言うと、初めて気付いたみたいな顔をする颯太。驚いた顔も美形である。羨ましい。いや、自分で言うのも何だが俺もイケメンの部類ではある。でも、颯太はちょっとレベルが違うんだよな。

「そう言われればそうだねぇ。じゃあ教科書忘れても裕也に見せてもらえないのかぁ」

「そもそも教科書は隣じゃない限り見せられねぇけどな。どんな確率狙ってんだよ」

 そう言うと、ふふっと笑う颯太。不思議ちゃんなんだよなぁ颯太は。それがギャップになって人気なんだよな。がしかし、これから一年俺がツッコミ続けなければならないのか?

「義和、俺一人で颯太のツッコミを担当するのは荷が重いわ」

「おう。俺のありがたみを噛みしめながら一年過ごせ」

 失礼な、と口を尖らせる颯太に冗談だって、と軽口を叩いているうちに教室に着く。
 隣のクラスへ入る北斗と義和に雑に手を振ってから颯太と教室へ入る。教室内では、新しいクラスになんとなくそわそわ浮ついた気持ち隠しきれない様子のクラスメイトたちが、思い思いに挨拶をしたりだべったりしていた。

「ああ、裕也が言った通り出席番号順だ。最前列だし。やだなぁ」

 黒板に貼られた座席表を見て颯太はしょんぼりと肩を落としている。

「まあ、しばらくしたら席替えもあるだろうし。颯太、くじ運いいしちょっとの辛抱だろ」

「だといいなぁ。あ、裕也の前の席……」

 颯太が指差した先を見ると、俺の席の前は「高林」と書かれていた。さっき、北斗が言っていた孤高の男か。

「裕也はおしゃべりなのに残念だったね」

「いや、授業中はしゃべんねぇからな?」

 それに、左右後ろにも人はいる。前の席のやつにフルシカトされたとしても別に痛手ではない。

「ま、とりあえず席つくかー。もうすぐホームルームだろ」

 そう言って颯太と別れて席についたが、まだ孤高の高林は来ていなかった。
 もしかして始業式早々休みか? 
 そう思っていたら、鐘がそろそろ鳴るかというときに、ガラリと教室の扉が開く。入ってきた男を見て、俺は思わず目を丸くした。

 背は高そうだったが、猫背が極まっていてどことなく頼りない雰囲気を纏った男だった。ぼさぼさの長い前髪が顔の上半分を隠していて、その容貌はよくわからない。
 歩き方もどこか自信なさげで、キョロキョロと小さく頭を揺らす姿は挙動不審。

 うわ、前世の俺みたいだ。

 前世の俺も、自分の顔にコンプレックスがあって厚い前髪で顔を隠していた。今思えば別にそんなにブサイクだったわけじゃないし、髪型とか服装とかを整えれば雰囲気イケメンくらいにはなれたと思う。だが、前世の俺は自分を醜いと思っていたし、相手を不快にさせたくない一心で隠していたのだ。そんなの、より一層近寄りがたくなるだけだと今ならわかるのだが。

 そして挙動。自信がないから常にびくびくしていていた。今のあいつみたいに。それが女子には特に不評で、気持ち悪がられていた。前世の俺はヒョロガリで背だけが高かったから……うん、客観的に見たらなんか虫みたいで気持ち悪かったと思う。

 あいつを見ていると、何だが古傷をえぐられるような気持ちになるな。

 そう思いながら男を眺めていると、その男が近づいてくる。
 ん? と思っていたら、俺の前の席に座った。

 え? こいつが高林? 孤高のクールな一匹狼は?

 混乱しつつ、一つの結論にたどり着く。
 そうか、こいつ、前世の俺みたいに相手に話しかけられてもどう答えていいかわからないやつなんだ。

 きっと、北斗に挨拶されても、どう返事していいかわからないまま時間だけが過ぎ、気付いたら無視したみたいになってたんだろう。
 わかる。わかりすぎる。そして話しかけられなくなって、ああ、嫌われたって思うんだ。だから自分からは話しかけられない。

 うわー、まじか高林。そうなのか高林。

 前世の俺が目の前に現れたような感覚に陥った俺は、なんだかひどく恥ずかしいような、そんな心地でホームルームを過ごした。
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