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25 きゅんとなんてしてない
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彼女が出て行った後、教室の後ろの扉近くにいた由紀が近くまで来て、俺に座るよう促した。
俺はそれに応じて近くの椅子を引こうとしたが、予想以上にダメージを受けていたようで、手が震えていた。それに気付いた由紀が椅子を引き、俺の背をさすりながら手を取って座らせてくれる。
「なんで……?」
俺は混乱していた。なんで由紀がここにいるのか、なんで彼女にカミングアウトしたのか、なんで彼女はあんなことになったのか、なんでなんでと色んな疑問が頭の中で渦巻いていた。そういう混乱から出た言葉だったが、由紀はそれをここに彼がいる理由を聞く疑問だと思ったらしい。
「……颯太から聞いたんだ」
「颯太?」
どうやら颯太は、嫌な予感がしたらしい。だから彼女には悪いとは思いつつ、何かあってはいけないと思って由紀に様子を見に行って欲しいと頼んだそうな。
なんでだよ。気になったなら自分でこいよ。いや、そのおかげで俺は倒れずに済んだんだし、あの目もあれ以上見なくて済んだんだから感謝すべきなんだけども。なんだか颯太らしくて気が抜ける。
「裕也は……ちょっと鈍いからって。あの子はちょっと思い込みが強そうなのに、裕也はそういうの全く気付いてないって」
「……まあ、そうなのかも」
俺は、彼女はもう俺のことを諦めたんだと何も疑っていなかった。俺が彼女の告白に応じないことを、俺の理想が高くてそこに自分が達していないからだと考えていたなんて思いもしなかった。
俺の断り方が彼女に期待させてしまったのだろうか。丁寧に対応したつもりだったが、それが逆に良くなかったのだろうか。
でもそれなら、どうすればよかったんだろう。彼女の誤解を解いたとして、それは再度彼女に期待させてしまうことになるんだろうか。
「裕也は、見た目に反して真面目だよね」
「見た目に反してってなんだし」
由紀の大きな手が、俺の頭を撫でる。その手が温かくて、優しくて、なんだか泣きたくなってくる。情けない顔を見せたくなくて、俺は俯く。
俺は、今世は人の心の機微を察するのがうまいと思っていた。実際、これまで人とトラブルになることなんてなかった。でも、それはもしかしたら俺の勘違いだったのかもしれない。
だって、俺の基準は、前世の俺だから。
前世を思い出さなかったら、もっと俺は違ったのだろうか。俺は結局、前世にずっと振り回されている。せっかく、あの時こうなりたいと思ったような人間に生まれ変わったのに。
あの目を向けられただけで、こんなにも心がぐらついてしまう。
それに……。
「ごめん、由紀。俺がちゃんと説明できなかったから、カミングアウトさせることになって」
由紀は自分が同性愛者であることが発覚することをおそれていた。顔を隠して、人との交流を拒否して、そうまでして隠していたことをバラす羽目になったのだ。
「裕也のせいじゃないよ。俺が勝手にしたことだよ」
「でも……」
あの子は、黙っていてくれるだろうか。周りに面白おかしく脚色して話して、由紀を傷つけたりしないだろうか。
「裕也は優しいね。いいんだ、裕也があれ以上ひどいこと言われなくて済んだんだから」
優しく言い聞かせるような声に顔を上げると、由紀の形が歪んでいる。滴がつう、と頬を流れ、自分が泣いているのだと気付く。
そっと由紀の親指が俺の涙を拭う。由紀はそのまま俺を抱き寄せ、背中を労るように撫でる。
それがあまりに心地良くて、心地良すぎて、自分でも驚きなのだが。
俺はそのまま寝た。
誰かに頭を撫でられている。それがとても優しくて、気持ち良くて、無意識に頭をその手にすり寄せる。すると、その手が一瞬止まったあと、再びゆっくりと一層丁寧に撫でてくる。うん、そうそれ、極楽。
「じゃねえ!」
なんかおかしいぞ? と思った瞬間意識が覚醒した。カッと勢いよく目を開けると、俺を見下ろす由紀と目が合った。前髪越しだけど。
もしかして俺、今起きた? 起きたってことは寝てた? いつから? あの後!?
そうだ、俺寝不足だったんだ。授業中も目の前の由紀の背中を見てるとそわそわして結局寝られなかったんだ。
だからって、あのタイミングで寝る!?
「おはよう、裕也」
ふにゃりと由紀の口元が緩む。というか、この角度、この体勢……。
ひざまくらされてるじゃん。
俺はゆっくりと起き上がり、周りを確認する。教室から移動はしていないようだ。そりゃそうだ、由紀より背は低いが、俺は小柄ではない。そんな俺を寝ている状態で運べるわけがない。でも、教室の後ろのスペースで膝枕されているということは。
「悪ぃ由紀。運ぶの大変だっただろ」
さすがに恥ずかしくて由紀から目を逸らす。
「ううんー。俺、こう見えて結構鍛えてるから」
それは知ってる。腹筋めっちゃ固いのも知ってる。
「なんか今日は、迷惑かけちまったな」
「普段俺ばっかり迷惑かけてるから、たまには役に立ててよかったよ」
おずおずと由紀に顔を向けると、本当に嬉しそうだった。
「それに、俺の手にすり寄ってくる裕也は可愛かったから役得だね」
「かわっ……!」
そういや誰かに頭を撫でられ……って由紀じゃん由紀しかいねぇじゃん!
羞恥で顔が熱くなるのを感じていると、由紀が手を伸ばしてきて俺の髪の毛の先をくるくると指で弄ぶ。硬直していると、ふっと由紀の口角が上がる。口元しか見えないのに、なんだかそれがとてつもなく艶かしく感じて、どくりと心臓が高鳴るのを感じた。
待って、違う、違うって。
ときめいたとかじゃないから!!
俺はそれに応じて近くの椅子を引こうとしたが、予想以上にダメージを受けていたようで、手が震えていた。それに気付いた由紀が椅子を引き、俺の背をさすりながら手を取って座らせてくれる。
「なんで……?」
俺は混乱していた。なんで由紀がここにいるのか、なんで彼女にカミングアウトしたのか、なんで彼女はあんなことになったのか、なんでなんでと色んな疑問が頭の中で渦巻いていた。そういう混乱から出た言葉だったが、由紀はそれをここに彼がいる理由を聞く疑問だと思ったらしい。
「……颯太から聞いたんだ」
「颯太?」
どうやら颯太は、嫌な予感がしたらしい。だから彼女には悪いとは思いつつ、何かあってはいけないと思って由紀に様子を見に行って欲しいと頼んだそうな。
なんでだよ。気になったなら自分でこいよ。いや、そのおかげで俺は倒れずに済んだんだし、あの目もあれ以上見なくて済んだんだから感謝すべきなんだけども。なんだか颯太らしくて気が抜ける。
「裕也は……ちょっと鈍いからって。あの子はちょっと思い込みが強そうなのに、裕也はそういうの全く気付いてないって」
「……まあ、そうなのかも」
俺は、彼女はもう俺のことを諦めたんだと何も疑っていなかった。俺が彼女の告白に応じないことを、俺の理想が高くてそこに自分が達していないからだと考えていたなんて思いもしなかった。
俺の断り方が彼女に期待させてしまったのだろうか。丁寧に対応したつもりだったが、それが逆に良くなかったのだろうか。
でもそれなら、どうすればよかったんだろう。彼女の誤解を解いたとして、それは再度彼女に期待させてしまうことになるんだろうか。
「裕也は、見た目に反して真面目だよね」
「見た目に反してってなんだし」
由紀の大きな手が、俺の頭を撫でる。その手が温かくて、優しくて、なんだか泣きたくなってくる。情けない顔を見せたくなくて、俺は俯く。
俺は、今世は人の心の機微を察するのがうまいと思っていた。実際、これまで人とトラブルになることなんてなかった。でも、それはもしかしたら俺の勘違いだったのかもしれない。
だって、俺の基準は、前世の俺だから。
前世を思い出さなかったら、もっと俺は違ったのだろうか。俺は結局、前世にずっと振り回されている。せっかく、あの時こうなりたいと思ったような人間に生まれ変わったのに。
あの目を向けられただけで、こんなにも心がぐらついてしまう。
それに……。
「ごめん、由紀。俺がちゃんと説明できなかったから、カミングアウトさせることになって」
由紀は自分が同性愛者であることが発覚することをおそれていた。顔を隠して、人との交流を拒否して、そうまでして隠していたことをバラす羽目になったのだ。
「裕也のせいじゃないよ。俺が勝手にしたことだよ」
「でも……」
あの子は、黙っていてくれるだろうか。周りに面白おかしく脚色して話して、由紀を傷つけたりしないだろうか。
「裕也は優しいね。いいんだ、裕也があれ以上ひどいこと言われなくて済んだんだから」
優しく言い聞かせるような声に顔を上げると、由紀の形が歪んでいる。滴がつう、と頬を流れ、自分が泣いているのだと気付く。
そっと由紀の親指が俺の涙を拭う。由紀はそのまま俺を抱き寄せ、背中を労るように撫でる。
それがあまりに心地良くて、心地良すぎて、自分でも驚きなのだが。
俺はそのまま寝た。
誰かに頭を撫でられている。それがとても優しくて、気持ち良くて、無意識に頭をその手にすり寄せる。すると、その手が一瞬止まったあと、再びゆっくりと一層丁寧に撫でてくる。うん、そうそれ、極楽。
「じゃねえ!」
なんかおかしいぞ? と思った瞬間意識が覚醒した。カッと勢いよく目を開けると、俺を見下ろす由紀と目が合った。前髪越しだけど。
もしかして俺、今起きた? 起きたってことは寝てた? いつから? あの後!?
そうだ、俺寝不足だったんだ。授業中も目の前の由紀の背中を見てるとそわそわして結局寝られなかったんだ。
だからって、あのタイミングで寝る!?
「おはよう、裕也」
ふにゃりと由紀の口元が緩む。というか、この角度、この体勢……。
ひざまくらされてるじゃん。
俺はゆっくりと起き上がり、周りを確認する。教室から移動はしていないようだ。そりゃそうだ、由紀より背は低いが、俺は小柄ではない。そんな俺を寝ている状態で運べるわけがない。でも、教室の後ろのスペースで膝枕されているということは。
「悪ぃ由紀。運ぶの大変だっただろ」
さすがに恥ずかしくて由紀から目を逸らす。
「ううんー。俺、こう見えて結構鍛えてるから」
それは知ってる。腹筋めっちゃ固いのも知ってる。
「なんか今日は、迷惑かけちまったな」
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おずおずと由紀に顔を向けると、本当に嬉しそうだった。
「それに、俺の手にすり寄ってくる裕也は可愛かったから役得だね」
「かわっ……!」
そういや誰かに頭を撫でられ……って由紀じゃん由紀しかいねぇじゃん!
羞恥で顔が熱くなるのを感じていると、由紀が手を伸ばしてきて俺の髪の毛の先をくるくると指で弄ぶ。硬直していると、ふっと由紀の口角が上がる。口元しか見えないのに、なんだかそれがとてつもなく艶かしく感じて、どくりと心臓が高鳴るのを感じた。
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