前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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28 逃げられない

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 連行された先にはいつものメンツが揃っていた。今日は沙耶香と美波もいる。あいつらも俺が失恋したこと知ってんのかな? いや、義和がいたらそんなことにはなるまい。
 沙耶香はここぞとばかりに由紀の隣に陣取っている。気になるって言ってたもんな。由紀にとって沙耶香がそういう対象にならないことはわかってるのになんかモヤる。俺がどうこう言えることじゃないのはわかってるけど。

「おせぇぞ主役ー! もう会場あったまってんぞ」

 そう言ってマイクを放り投げてくる北斗。危ねぇなおい。

「とりあえず座れよ。ほら、ガンガン叫んでけ」

 義和に促され、さてどこに座るかと悩む。由紀の近くはちょっと、と思っていたらちょうど颯太が座った隣が空いていたのですかさず座る。

「え? なんでこっち……由紀の右側空いてるよ?」

「なんでだよ無理だよ。さっきの話聞いてたのかよ」

 そう言うと颯太は眉を顰める。そんな嫌そうな顔すんなよ傷つくだろおい。ボソボソと周りには聞こえない声でやりとりしていると、なんだか視線を感じたのでそちらを向くと、由紀がこっちを見ていた。
 ……なんとなく不穏な気配を感じるような。
 隣で颯太がため息をついている。俺に失礼すぎじゃね?



 くる前は盛り上がれるような気分じゃねぇと思っていたけど、みんなと騒いでいるうちにだんだんと気分が上がっていった。普通にめっちゃ楽しい。
 こうやって人は失恋の痛みを癒すのかと一つ大人になった気になっていた頃。

「つーか、そろそろ帰らねぇ? 沙耶香と美波もいるし、あんま遅くなると危ねぇだろ」

「えー? まだまだ歌いたりなぁい」

 と、マイクを両手で握って裏声で可愛こぶるのは北斗である。義和は北斗を無視して帰り支度を促す。
 正直俺もまだ帰りたくはない。あとちょっと、もうちょっとしたらこの胸の痛みが気にならなくなるような気がするのだ。多分、きっと。

 しかし、無情にも解散の方向で固まってしまった。

「というか、今更だけど今日は突然どうしたの? 楽しかったけど」

 帰り支度をして店を出たところで、美波が不思議そうに聞いてきた。

 義和も颯太も俺を見る。こういう時こそ北斗の適当なノリの出番だろ。なんであいつトイレ行ってんだよ。
 仕方ない、自分で言うしかないと思い、俺は小さくため息を吐いてから口を開く。

「俺の失恋を慰めよう会だよ」

「……え? 私振ってないけど?」

「俺も美波に告白した覚えはねぇな。惚れた覚えもねぇ」

 目を丸くする沙耶香の横で美波も一瞬目を見開いたけど、あんまり失恋に触れられたくない俺の内心を察してくれたようで、さらりと流してくれた。

「んー、そしたら私ら女子組は帰るけど、あんたたちはもうちょい裕也に付き合ってあげたら?」

「もう暗いし、女の子二人は危ないから俺は送ってくよ」

「颯太じゃ危険度変わんねぇ気がするから俺も。同じ方向だしな」

 一見ジェントルな颯太と義和だが、俺はわかっている。二人とも早く帰りたいだけだと。俺がもっと落ち込んでる感じだったら少なくとも義和は残ってくれただろうが。
 二人は女子組の付き添いという口実をいいことに、北斗によろしくな、と言って帰っていった。

「あれ? もうみんな帰っちゃったの?」

 そして四人と入れ替わるようにひょこりとトイレから帰ってきた北斗。残されたのは俺と北斗と由紀。残ったのが失恋相手と北斗ってどういうことだ。特に颯太は知ってて帰るのひどくね? あいつには血も涙もないのか。

「んー、8時かあ。牛丼でも食ってく?」

 何も知らない北斗が無邪気に提案してきたと思ったら、電話がかかってきたようでちょっと待ってと離れていく。おいまて、俺と由紀二人にすんじゃねぇ。そんな俺の願いむなしく、北斗は俺たちから見えないところまで移動してしまった。
 二人になった後もなぜか由紀は一言も喋らず、気まずい空気が流れる。
 失恋した俺になんで声かけていいかわからないんだろうな、きっと。優しいから言葉を選んでるんだろう。けど、失恋相手に失恋を慰められるとかそれなんてギャグだよ。早く戻ってこい北斗。一秒でも早く戻ってこい。お前がこんなに俺に待ち望まれることなんてこれが最初で最後だぞ。

「悪ぃ裕也! 優奈さんが家の用事でこっちきてるんだって! そっち行くからあとは由紀に慰めてもらってくれ!」

 しかし戻ってきたと思ったら、北斗はそう言って俺たちの返事も聞かずさっさと走って行ってしまった。飼い主の元へ駆けていく大型犬のようだった。
 つまり、だ。

 失恋相手と二人残される俺。

 これなんて罰ゲーム? とにかくこの場から逃げ出したい。

「えーと。遅くまで付き合ってくれてありがとな。由紀の家、あんま遅くなんのダメだったよな? 俺らもかいさ」

「今日は親がいないから大丈夫なんだ。だからまだまだ付き合うよ?」

 解散しよう、と提案しようとするも遮られる。さっきまで黙ってたのになんでだよ。慰めようとしてくれてるんだろうけど、今その優しさはいらねぇ……!

「やー……でも」

「そうだ、うちに来なよ。そしたら時間気にしなくてもいいし。なんなら泊まっていったら?」

 今日から両親は旅行に行ってるんだと由紀は言う。
 好きな相手と密室に二人きり、と思うと一瞬ドキリとするけど、まだ立ち直れていない今それはちょっときつい。

「ありがたいけど、でも」

「俺、裕也のおかげで高校で友達もできて、すごく感謝してるんだ。だから、裕也が辛い思いをしてるなら助けになりたい。……俺じゃ、慰めになんかならないかな?」

「いや、そんなことねぇけど……」

 なんとか断ろうとすると、しょんぼりと肩を落とす由紀。あからさまに落ち込んでしまった様子を見ると何も言えない。
 
「……じゃあ、お邪魔しようかな」

 これが惚れた弱みってやつなんだろう。もうどうにでもなれ、と半ば投げやりな気持ちで失恋相手の家へ行くことにしたのだった。
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