前世の俺みたいだと思っていたけど全然違った件

某千尋

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29 状況についていけない

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 由紀の家は、俺の家とは逆方向だった。
 二駅ほどで最寄り駅につき、そんなに歩かずに到着した。

「……でっかいな」

 思わず口に出てしまうくらい、由紀の家は大きかった。洋風なデザイナーズ住宅って感じ。でかい、綺麗、おしゃれ。建売住宅な我が家とは大違いだ。

「うん、大きいよね。中学上がる頃に母が再婚してここに住むようになったんだけど、俺もびっくりした」

 由紀はお坊ちゃんだったのかと、なんとなくちょっと心の距離を感じていたら、どうやら生粋のお坊ちゃんではないらしい。俺も最初はびっくりしてなかなか慣れなかったよ、と言う由紀にすぐさま親近感を復活させる。

「お邪魔します」

 玄関に通され、我が家の倍以上の広さにビビってから家に上がる。こっちだよと促されるまま階段を上り廊下を歩き、一つの部屋に通された。

「ここが由紀の部屋……」

「うん。何もなくてつまらないかもしれないけど……飲み物とか取ってくるね」

 何もない、というのはまさに文字通りで、そこには必要最低限のものしかなかった。ベッドがあって、机があって、ラグが敷かれて。本当にそれだけ。クローゼットの中はわからないけれど、今日俺がここにくる予定があったわけでもないのにモデルルームのように綺麗なことを考えると、そこがごちゃついてるとは思えない。
 俺の部屋なんて、ジャージとか漫画とかそこら辺に散らかってるし、ベッドには布団が前衛芸術の如きフォルムで乗っかっている。
 思い出すと、由紀の作ったお弁当も整然とおかずが敷き詰められていた。割と神経質なのかもしれない。だとすると散らかしたらまずいよな。
 そう思い、ラグの端っこにおそるおそる座る。

「お待たせ。……どうしてそんな端っこで小さくなってるの?」

「いや、あんまり綺麗にしてるから」

「何もないだけだよ」

 そう言って由紀はお盆と一緒に持ってきた折り畳み式の小さなテーブルを開き、飲み物やお菓子を並べていく。

「人を家に呼んだことないからもてなし方がわからないんだけど……」

「いやいや、まじでお構いなく。ありがとな」

 緊張なんだかわからないけどやけに喉が渇いたので、ありがたく飲み物に口をつける。すごい、高いジュースの味がする。
 
「……それで、失恋したって本当?」

「ぶっ……いや、まあ」

 いきなり本題をブッ込まれて思わずジュースを吹き出しかける。危ねぇ。早速汚すところだった。

「好きな人がいるなんて気付かなかったけど……付き合ってたの?」

「え? いや、付き合ってないっつーか……告白すらしてないっつーか……相手に俺以外の好きな人がいるみたいでさ」

 お前だよお前。失恋相手に失恋内容話さなきゃならないとか本当俺が一体何したっていうんだ神様。前世も今世も悪いことはしてねぇぞ。

「最近……颯太と放課後どこかにいくこと多かったよね」

「ん? ああ、たまに」

 お? いきなり話が変わったぞ? 地獄の時間は終わったのか?

「……この前のサラリーマン、だよね? 颯太の好きな人」

「え? なんでそれ……」

 なんでそれ知ってんの? と言いかけ口をつぐむ。そんな俺の反応にやっぱり、と呟く由紀。颯太から聞いたわけじゃなさそうなのに、なんでそんなことがわかるんだ。つーか、本当にいきなり何なんだ?

「ねぇ、どうして颯太?」

「は?」

 待って、話が全く読めねぇ。何の話だこれ。由紀は俺の失恋を慰めようと俺を招いてくれたんだよな? 颯太がなんかあったっけ?
 混乱していると、由紀がおもむろに髪をかき上げる。相変わらずの美形……じゃなくて。俺は何を聞かれているんだ?

「俺じゃ代わりにならない?」

「は!?」

 いよいよ意味が分からなくて大きな声が出てしまう。
 考えろ俺、これまでの会話の行間を読め、由紀は……。

「もしかして、俺が颯太に失恋したと思ってるのか?」

「……違うの?」

「違うな。なんでそういう考えにいたったのか小一時間問い詰めたいくらいには違うな」

 そう言うと、由紀は目を丸くした後気が抜けたような顔をした。何か安心しているような?

「あと……代わりってそんなこと言うなよ。俺が颯太のこと好きだと思って、俺が男を好きならその……男が恋愛対象な自分が代わりになって慰めようと思ったのかもしれないけど、そんなの優しさじゃねぇからな。別に俺、男が好きなわけじゃないし」

 それにお前、好きなやつがいるって言ってたじゃないか、という言葉は言えなかった。わかってはいるけど、さすがにそれを平静を保って言える気がしない。

「いや、そうじゃなくて……え? ということは女の子?」

 というか、なんで男だと思うんだよ。まずそこからだよ。颯太にも言われたし、俺そんなに男が好きなように見えるんかな?
 まあ、女の子じゃないんだけど。違うんだけど、それを言うとそれこそ誰? ってなるよな。
 でも、俺が返答しないことで俺が失恋した相手は女の子ではない、と由紀は判断したようだった。

「……男が好きなわけじゃないってことは、その人だけ特別ってこと?」

 そうだよ。そうなんだけど、なんで俺は失恋相手にこんなに詰められてるんだ。
 好きな人がいるくせに代わりとか言うし、いつもは優しいのになんでこんな時に優しくないんだ。
 あ、だめだ。だんだん腹が立ってきた。

「誰なの?」

 あまりに無神経に聞いてくる由紀にぷっつんきちゃった俺は、つい、叫んでしまった。

「お前だよ!!」

 口に出した途端に沸き上がる後悔。時間が止まったように、その場がしんと静まる。
 ほらもう、由紀びっくりして固まってんじゃん。
 告白するとは言ったけど、まさか今日の今日で、しかもこんな半ギレみたいな状態で言うつもりなんて全くなかったのに。

「ほんと……?」

 目を丸くしたままの由紀の口から小さい声がこぼれ落ちる。
 ああ、もう。ここまできたらきっちりしっかり振ってもらうしかない、と覚悟を決めたところで、由紀の表情が蕩けるような笑みに変わる。

「じゃあ、両想いだね」

「え?」

 由紀の言葉を理解する前に腕を引かれ、バランスを崩した俺は由紀の胸にストンとおさまった。そのまま由紀の両腕が俺を包み込む。

 え? 抱きしめられてる? 由紀に? つーか、両思い? は? どういうことなんだ!?
 俺は由紀の体温に胸を高鳴らせながらも突然の出来事に混乱しきっていて、ここが由紀の部屋で、二人っきりであることをすっかり失念していた。
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