あの人は私を名前で呼ばない

某千尋

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独白と決心3 ※ゆうき視点

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「私さ、ゆうきがそうだってわかってからさ、私なりに調べたりしたのよ。私思ったことすぐ口に出しちゃうからさ、なんか、そういうのでゆうきのこと傷付けちゃったりしてないかなって。それだけゆうきとの友情を大事にしてきたのに、そんなふうに思われてたなんて普通にショックだわ」

「ご……ごめん」

「まあ、そもそも?もしかしてと思ったからって女の子が好きなの?とか聞いた私のデリカシーの無さやばかったなーとも思うし……それとチャラにしてくれればいいや」

 チャラにすると言いながら枝豆を少々乱暴に齧る様から不機嫌なのは丸わかりだった。

「本当にごめん」

「もういいよ。そんで?私を誤解したゆうきちゃんはみずきもそうだろうと思ったから告白はしない、と決意していた、ということかな」

「……うん」

 頷くとななはわざとらしく深いため息を吐く。

「ないない。みずきは柔軟な子よ。驚いても、ゆうきを拒絶することなんてないわ。……ていうかさ、一番偏見持ってるの、ゆうきじゃない?さっきもみずきは普通だからーとか言うし。ゆうきだって普通でしょ。私たちとなにが違うって言うの。今時その考え、遅れてるわよ」

 どきりとした。図星をさされたからだ。

「……私は自分がそうだってわかったとき、周りと違うことにすごく不安になった。なんでみんなと同じではないんだろう、同じになれないんだろうって。私がそうだと周りに知れたら、おかしいって思われるんじゃないかって……」

「まあね、そりゃそういう風に言う輩もいるでしょうよ。それは否定できない。けどさ、私とみずきよ?ここくらいはさ、信用してもいいんじゃないの?みずきはさ、私のことも助けてくれたじゃない。覚えてるでしょ」

 言われて思い出す。
 ななは、高校の時は今以上に何でもはっきり言う子だった。見た目の華やかさと相まって、上級生には生意気に見えたようだった。
 テニス部だったななは、上級生に目をつけられ、小さな嫌がらせを受けていたらしい。けれど、ななは一切へこたれなかった。いや、正確には気丈に振る舞い、へこたれる様子を見せなかったらしい。

 効き目がないと見た上級生は、今度は別の方法と、同じ部活のななの同級生たちにななを無視するよう指示したそうだ。
 さすがにそのまま応じた同級生はいなかったようだが、それでも遠巻きにされ、ななは浮いた。
 ところが、一人だけ上級生の指示など完全に無視し、むしろ積極的にななと親しくした人物がいた。
 それが田中だった。

「先輩たちの可愛らしい嫌がらせなんて本当に屁でもなかったわよ。でも、やっぱり悪意を向けられるってそれだけで結構神経すり減るのよね。同級生たちは悪意はなかったけど、私とあんまり関わりたくないのがありありとわかったからやっぱり嫌な感じがしたし。平静を装ってたけど実際は結構きつかった。

 みずきがね、いてくれたから大丈夫だった。みずきのおかげで、遠巻きにしていた他の同級生達も次第に声かけてくれるようになったし、仲良くなってから謝ってもらえた。そんなみずきがよ?ゆうきから恋愛感情向けられた如きのことでゆうきを嫌ったりするわけないと思わない?」

 言われて頷く。そう、田中は、大衆に流されて判断を誤るタイプではない。自分の物差しで物事を見極めるタイプだ。私がマイノリティだからといって、マジョリティの目線から当たり前のように糾弾することは有り得ない。

「……そうかもしれないね。本当に、私の目が曇ってたんだね」

「曇すぎだよ本当。まあ、私はさ、ゆうきじゃないから、ゆうきが抱えてる悩みとかを本当の意味で理解したり共感することはできないと思うんだけどさ。でも、私の自慢の友人達の素晴らしさはいくらでも語れるんだから」

 にやりと笑ったななは通りがかった店員に追加の日本酒を頼む。

「いきなり呼び出して悲愴な顔して現れるから一体なにが起こったのかと思ったけど、ただの取り越し苦労でよかったわ」

「取り越し苦労って……ひどいなあもう」

「とにかくバレたんだから気持ち伝えるならさっさとしないと譲さんに掻っ攫われちゃうよ?今気づいたけど、みずきが結婚してる間、みずきが来る飲み会にゆうき全然こなかったよね。あれわざとでしょ」

「うっ……そりゃだって……大学卒業してすぐに結婚するなんて思わないじゃん。全然心の準備ができてなかったんだよ……」

「今は準備できてるの?」

「……全然。一生できないかも……」

「そんなに好きならとられる前にいきなよ。みずき結構モテるんだから、あっという間よ」

「……またあんな思いするくらいなら当たって砕けた方がマシか」

「そうそう!その調子よ」

 ななと話し、自分が如何に狭い価値観で生きてきたのか思い知った。一体何をそんなに深刻に考えていたのだろう。やるべきことは一つしかない。家に着く頃には大きな決心ができていた。
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