あの人は私を名前で呼ばない

某千尋

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相談と疑問2 ※ゆうき視点

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 同期で昼ご飯を食べる時は大抵会社近くの定食屋だった。しかし、今日はちょっと歩いたところにあるカフェに行くらしい。

「え?いつものとこ行かないの?なんで?」

 宮田は通り過ぎた定食屋に目をやりながら勅使河原に聞く。

「あそこだと話できないだろう。いつも混んでるし長居できない」

 確かにあの定食屋の昼時はいつもサラリーマンでいっぱいなため黙々と食べて席を明け渡すのが常だった。

「俺、午後取引先のアポあるから長居できないんだけど」

「うん、適当に先に帰ってもらって構わないよ」

「えー!つめてぇーな。勅使河原は今日内勤なのか」

「ああ。小森も大丈夫だったか」

「私は二人と違って総務だからね。早々外出はしないよ」

 雑談していると目的のカフェに着く。勅使河原は一体何の話があるというのだろうか。あえて私に聞くとするなら、田中のことしか考えられない。

 注文を済ましたところで宮田のスマートフォンが鳴って宮田が席を立つ。その姿を見送った勅使河原は口を開いた。

「お気づきの通り、みずきさんのことなんだけど」

 心臓がどくどくと存在感を増す。そのことを悟られないように一口水を飲んでから勅使河原に向き直る。

「ん?なんかあった?今度食事に行くって話は聞いてるけど」

「そう、その食事のことなんだけどさ」

 勅使河原はふう、とため息をつく。

「先週末になんかあったっぽいんだけどなんか聞いてない?」

 先週末?私が田中にカミングアウトしたのは先々週の日曜である。

「いや、先週は特に連絡とっていないからわからないけれど…」

「そっか。いや、突然電話かかってきてさ。食事の予定キャンセルして欲しいって言われて。いまいち要領を得なかったからとりあえずキャンセルしないことになったんだけど。なんか様子おかしかったから何か聞いてないかって思ったんだ。それだけ」

 食事をキャンセル?どうしてそんな話になったのか。
 訝しく思っていると一つ思い当たることがあった。

「あ、先週じゃないけど……合コンの一週間後に会った時に食事のこと聞いたんだ。その時、離婚直後でまだ気持ちが切り替えられないようなこと言ってたから、つい気が無いなら期待させるの良くないって言っちゃって……ごめん、そのせいかな」

「いや、それだと三週間くらい前だから関係ないと思う。その間も少しやりとりあったけどおかしいとこなかったし……というか小森、そんなに親切なやつだと思わなかったよ」

 困ったような微笑みを向けられ、居心地の悪い気持ちになる。

「いや、田中離婚したばっかだし、そもそも合コンにも誘うつもりもなかったんだよ。余計なこと言ってごめん」

「明らかに乗り気じゃなかったもんな。まあ小森が知らないんなら本人に聞くしかないか。何があったかわかってたら対策立てられたんだけどな」

「お?なになになんの話だよ」

 電話を終えて戻ってきた宮田が会話に加わる。瞬間、それまでの少し居心地の悪い空気が霧散する。

「恋愛相談だよ、恋愛相談」

「勅使河原が恋愛相談?イメージと合わなすぎてウケるんだけど」

「失礼なやつだな」

 注文していた食事もきて、食べながら話が進む。

「宮田はどうなの。ななとはうまくいきそうなの」

 これ以上田中の話を勅使河原としたくなくて、話題を変える。

「おおそうだよ聞いて!今度の土曜にデートするんだ!これ順調だよな?」

 キラキラした目を向けられ、思わず笑ってしまう。

「順調なんじゃない?ななは興味ない相手とは絶対デートしないし」

「まじか!いやー、本当最初はどう見ても俺に興味ないし勅使河原にばっかり話しかけるし無理だと思ったんだけど……よかったよ」

「まだ付き合ってないのに何やり切った感じだしてんの。最後まで油断しちゃダメだよ。ななモテるんだから」

「だよなあ。可愛いし、結構キツいとこもあるけどなんだかんだ優しいし。口悪いけどやっぱ可愛いし」

「はあ。宮田が順調なのに自分がうまくいってないのなんか納得できないな」

「どういうことだよ!っていうか、勅使河原うまくいってないの?……勅使河原が?」

 宮田が驚いたように勅使河原を見る。

「そんなに驚くようなこと?」

「あ、そっか小森は営業じゃないもんな。勅使河原さー、こんな物腰柔らかい草食系です!みたいな感じなのに意外と押し強いんだよ。微笑みながら相手を丸め込むっていうの?営業では有名なんだよ」

「丸め込むって人聞きの悪い……仕事は押しの強さも必要だろ」

 思わず勅使河原を見る。押しの強さなんて感じたことがない。掴み所はないけど穏やかで良い人、というこれまで持っていたイメージが崩れる。

「小森は合コンの時も驚いてたもんな。でもあれ、通常運転だぜ」

「あれってななに触発されたんじゃ……?」

「って言っておいた方がよさそうな雰囲気だったからそういうことにしておいた」

「さ……策士……」

 今度はまじまじと見る。案外プレイボーイなのだろうか。

「誤解されてそうだから言っておくけど、誰にでもするわけじゃないよ。気に入った相手にはガンガン行くってだけ。何もしなかったら手に入らないだろ」

 どきりとする。何もしなかったら手に入らない、本当にその通りだ。
 私は田中を好きになってからその気持ちを隠すのに必死で、なのに田中に相手ができたら勝手に落ち込んでいた。

「勅使河原が言うとかっこいいよな。ずるい。俺が言っても鼻で笑われる」

「宮田は奈々恵さんとうまくいってんだからいいだろ。そういや、時間大丈夫か」

「あ、そろそろ行かなきゃ。わりぃ。先行くわ」

 宮田が慌ただしく席を立つ。その流れで自分もと思ったが勅使河原に止められる。

「俺たちは急がなくて良いだろ。」

「……うん、そうだね。まだコーヒーあるし」

 言いながらランチセットについていたホットコーヒーを飲む。コーヒーの苦味がじんわりと舌の上で広がる。
 私の心の中を表しているようだった。
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